ホンダF1 特集:バーレーン外周コースに向けた準備 / F1サヒールGP
今季のF1は、普段開催のないサーキットでレースが行われることが多くなっていますが、なかでも今週末のバーレーン外周コースは、かなり特徴的だ。その準備について、ホンダF1 副テクニカルディレクターを務める本橋正充が語った。
2020年のF1シーズンは、大幅な変更が加えられ、新たな面を見せてくれている。しかし、その中でも、今週末のコースは一段と目立つのではないだろうか。
バーレーン・インターナショナル・サーキットは、F1カレンダーでもおなじみの開催地となっており、先週末は例年と同じレイアウトでレースが行われた。今週は連戦ですが、通常とは異なる外周コース(Outer Track)を使用しての開催となる。同じレイアウトを使用しての連戦だったオーストリアのレッドブル・リンクと、英国のシルバーストーンとは状況が異なる。
この外周コースはコーナーが少なく、ロングストレートが連続し、ブレーキングポイントはわずか4か所。ラップタイムは1分を切る。このレイアウトを使用する案は9月になってから決定したが、この短期間でどのように準備をしたのだろうか。
ホンダF1でスクーデリア・アルファタウリ担当チーフエンジニアを務める本橋正充が、チームと緊密に連携して準備してきた様子を公式サイトで語った。
「データの揃っているサーキットでは、まずシャシーチームがシミュレーションを行います。我々はそのデータをシェアしてもらい、どのようにパワーユニット(PU)を運用するかを考えます」
「しかし、新規やしばらく開催のないサーキットでは、シミュレーションの段階からチームと一緒に動きます。例えば、ニュルブルクリンクは我々も2000年代に走行経験がありますが、そのときとはエンジンも大きく変わっているので、過去のデータをもとに対応を決めていくのは難しいですね。また、今回のように新規のサーキットの場合は、通常よりも広い範囲のパラメーターを使用し、両極端のセッティングでマシンがどのような反応をするかといった確認の仕方をしていきます」
サーキットレイアウトやそれに基づくシミュレーションのデータはチームから事前に提供されるが、実際にコースへ出てみると、トラックウォークの段階であっても、ドライバーからの情報が非常に役立つそうだ。
「チームが事前に収集したシミュレーションのデータをもとに準備をしてサーキットへ向かいますが、木曜日のトラックウォークで見て気付いたこともセットアップに活かしていきます」
「たとえば、今回のコースだとセクター2には経験のないコーナーが並んでいますが、そこではレーシングラインについて話しています」
「特定のコーナーだけではなく、ストレートも見てみて、オーバーテイクの可能性を検討します。それが高いようなら、レースではその箇所でエネルギーを多く使うようなセッティングを施すんです」
「どこでエネルギーを使うのがベストかという部分については各地点でのオーバーテイクの可能性を検討しつつ、入念にベストな組み合わせを探っていきます。こんな感じで準備していくので、走行前にコースへ出てドライバーと会話することがとても重要になってきます。もちろん、フリー走行後に話し合ってエネルギー戦略を調整することもありますが、準備の段階でドライバーから入る情報はどれも有用ですし、今回のような新規のサーキットではなおさらです」
新型コロナウイルス感染拡大の影響により、F1は約5カ月で17戦というスケジュールとなり、連戦も多いことから、準備にかけられる時間はかなり少なくなっている。
「だいたいレースの3週間前にシャシーチームによる最初のシミュレーションが行われます。そこから我々もベンチでシミュレーションをして、戦略やドライバビリティーのパラメーターを確認、その後チームへフィードバックします。こうして、現地入りする前にシミュレーションの精度を上げていくことができるんです」
「もちろん、事前に準備しきれない事柄もあります。例えば、トルコでは路面の再舗装がされていて、信じられないくらいスリッピーでした。いくら十分なシミュレーションができていたとしても、こうした路面コンディションなどには対応が必要です。シミュレーションはあくまでシミュレーションなので、実際のシャシーのセットアップやドライバーの感触が微妙に異なることもあります。そういった部分は現場で対応しなければなりません」
今回のバーレーン外周コースは、一周の長さがかなり短い一方で、コーナー数が少ないことが特徴。本橋正充はこのコーナーがカギになるとにらんでいる。
「最大の課題は未経験のコーナーです。シミュレーションでドライバーがほぼ全開で行けるとコメントしても、それが本当かは分かりません。もしドライバーが少しスロットルを緩めるようなことがあれば、我々もエネルギーマネージメントを調整する必要があります。エネルギーの使い方はスロットルの開度によって変わってくるので、シミュレーションと実際に違いがあれば状況は厳しくなります。タイヤやエアロ、ちょっとした路面状況によっても大きく異なるので、特に未知のコーナーでは、実際に走行するまでシミュレーターでのスロットル開度を完全に信用することはありません」
「どのチームも課題は同じはずです。ほかのチームがどういう戦略を採っているかは分かりませんが、我々はどのコースでもスロットル開度に注目しています。ドライバーがハーフスロットルなのか全開で抜けるのかによって、エネルギー戦略は大きく変わってきます」
注意を払うのはストレートだけではない。今回は、ブレーキングポイントも非常に少ないことから、ブレーキングでのエネルギー回生も課題の一つとなる。サーキットについての理解を深めるためには、今週末の金曜のフリー走行がかなり重要だった。
「金曜のフリー走行が、ほかのサーキットよりも重要になっていますね。トラックインプルーブメント(走行が進むにつれて路面のグリップが向上する割合)などは分からないので、金曜のデータだけをもとに土曜・日曜に何が起きるかを予測するのは難しいのですが、このサーキット自体ではたくさんの経験があります」
「マシンの挙動を考慮することも非常に重要です。PUはストレートのことだけ考えておけばいいと思うかもしれませんが、それは違います。スリップストリームの効果は興味深いものがありますが、エンジンへのダメージや負荷といった観点ではそれほど重要ではありません。ただ、トウに入ったときの挙動や風向きなどはエネルギー戦略にとっては重要になります」
今季は普段と異なる点が多く、それがエキサイティングな展開をもたらしている。その中で、スクーデリア・アルファタウリによる勝利もあった。本橋正充は、モンツァでの優勝を誇らしげに振り返るとともに、2021年に向けての展望も語った。
「ここまで3年間一緒にやってきて、アルファタウリは常にホンダのことを考えてくれていますし、互いに大切なパートナーとして見ています。とてもいい関係が築けているので、一緒に勝てたことはとてもうれしかったですね」
「シーズン序盤は悔しい場面もありましたが、それは小さなことで、そこから大きく前進してこられたことに満足しています。来年に目を向けると、どれだけの成果が出せるか、とても楽しみです」
カテゴリー: F1 / ホンダF1 / F1バーレーンGP / スクーデリア・アルファタウリ
2020年のF1シーズンは、大幅な変更が加えられ、新たな面を見せてくれている。しかし、その中でも、今週末のコースは一段と目立つのではないだろうか。
バーレーン・インターナショナル・サーキットは、F1カレンダーでもおなじみの開催地となっており、先週末は例年と同じレイアウトでレースが行われた。今週は連戦ですが、通常とは異なる外周コース(Outer Track)を使用しての開催となる。同じレイアウトを使用しての連戦だったオーストリアのレッドブル・リンクと、英国のシルバーストーンとは状況が異なる。
この外周コースはコーナーが少なく、ロングストレートが連続し、ブレーキングポイントはわずか4か所。ラップタイムは1分を切る。このレイアウトを使用する案は9月になってから決定したが、この短期間でどのように準備をしたのだろうか。
ホンダF1でスクーデリア・アルファタウリ担当チーフエンジニアを務める本橋正充が、チームと緊密に連携して準備してきた様子を公式サイトで語った。
「データの揃っているサーキットでは、まずシャシーチームがシミュレーションを行います。我々はそのデータをシェアしてもらい、どのようにパワーユニット(PU)を運用するかを考えます」
「しかし、新規やしばらく開催のないサーキットでは、シミュレーションの段階からチームと一緒に動きます。例えば、ニュルブルクリンクは我々も2000年代に走行経験がありますが、そのときとはエンジンも大きく変わっているので、過去のデータをもとに対応を決めていくのは難しいですね。また、今回のように新規のサーキットの場合は、通常よりも広い範囲のパラメーターを使用し、両極端のセッティングでマシンがどのような反応をするかといった確認の仕方をしていきます」
サーキットレイアウトやそれに基づくシミュレーションのデータはチームから事前に提供されるが、実際にコースへ出てみると、トラックウォークの段階であっても、ドライバーからの情報が非常に役立つそうだ。
「チームが事前に収集したシミュレーションのデータをもとに準備をしてサーキットへ向かいますが、木曜日のトラックウォークで見て気付いたこともセットアップに活かしていきます」
「たとえば、今回のコースだとセクター2には経験のないコーナーが並んでいますが、そこではレーシングラインについて話しています」
「特定のコーナーだけではなく、ストレートも見てみて、オーバーテイクの可能性を検討します。それが高いようなら、レースではその箇所でエネルギーを多く使うようなセッティングを施すんです」
「どこでエネルギーを使うのがベストかという部分については各地点でのオーバーテイクの可能性を検討しつつ、入念にベストな組み合わせを探っていきます。こんな感じで準備していくので、走行前にコースへ出てドライバーと会話することがとても重要になってきます。もちろん、フリー走行後に話し合ってエネルギー戦略を調整することもありますが、準備の段階でドライバーから入る情報はどれも有用ですし、今回のような新規のサーキットではなおさらです」
新型コロナウイルス感染拡大の影響により、F1は約5カ月で17戦というスケジュールとなり、連戦も多いことから、準備にかけられる時間はかなり少なくなっている。
「だいたいレースの3週間前にシャシーチームによる最初のシミュレーションが行われます。そこから我々もベンチでシミュレーションをして、戦略やドライバビリティーのパラメーターを確認、その後チームへフィードバックします。こうして、現地入りする前にシミュレーションの精度を上げていくことができるんです」
「もちろん、事前に準備しきれない事柄もあります。例えば、トルコでは路面の再舗装がされていて、信じられないくらいスリッピーでした。いくら十分なシミュレーションができていたとしても、こうした路面コンディションなどには対応が必要です。シミュレーションはあくまでシミュレーションなので、実際のシャシーのセットアップやドライバーの感触が微妙に異なることもあります。そういった部分は現場で対応しなければなりません」
今回のバーレーン外周コースは、一周の長さがかなり短い一方で、コーナー数が少ないことが特徴。本橋正充はこのコーナーがカギになるとにらんでいる。
「最大の課題は未経験のコーナーです。シミュレーションでドライバーがほぼ全開で行けるとコメントしても、それが本当かは分かりません。もしドライバーが少しスロットルを緩めるようなことがあれば、我々もエネルギーマネージメントを調整する必要があります。エネルギーの使い方はスロットルの開度によって変わってくるので、シミュレーションと実際に違いがあれば状況は厳しくなります。タイヤやエアロ、ちょっとした路面状況によっても大きく異なるので、特に未知のコーナーでは、実際に走行するまでシミュレーターでのスロットル開度を完全に信用することはありません」
「どのチームも課題は同じはずです。ほかのチームがどういう戦略を採っているかは分かりませんが、我々はどのコースでもスロットル開度に注目しています。ドライバーがハーフスロットルなのか全開で抜けるのかによって、エネルギー戦略は大きく変わってきます」
注意を払うのはストレートだけではない。今回は、ブレーキングポイントも非常に少ないことから、ブレーキングでのエネルギー回生も課題の一つとなる。サーキットについての理解を深めるためには、今週末の金曜のフリー走行がかなり重要だった。
「金曜のフリー走行が、ほかのサーキットよりも重要になっていますね。トラックインプルーブメント(走行が進むにつれて路面のグリップが向上する割合)などは分からないので、金曜のデータだけをもとに土曜・日曜に何が起きるかを予測するのは難しいのですが、このサーキット自体ではたくさんの経験があります」
「マシンの挙動を考慮することも非常に重要です。PUはストレートのことだけ考えておけばいいと思うかもしれませんが、それは違います。スリップストリームの効果は興味深いものがありますが、エンジンへのダメージや負荷といった観点ではそれほど重要ではありません。ただ、トウに入ったときの挙動や風向きなどはエネルギー戦略にとっては重要になります」
今季は普段と異なる点が多く、それがエキサイティングな展開をもたらしている。その中で、スクーデリア・アルファタウリによる勝利もあった。本橋正充は、モンツァでの優勝を誇らしげに振り返るとともに、2021年に向けての展望も語った。
「ここまで3年間一緒にやってきて、アルファタウリは常にホンダのことを考えてくれていますし、互いに大切なパートナーとして見ています。とてもいい関係が築けているので、一緒に勝てたことはとてもうれしかったですね」
「シーズン序盤は悔しい場面もありましたが、それは小さなことで、そこから大きく前進してこられたことに満足しています。来年に目を向けると、どれだけの成果が出せるか、とても楽しみです」
カテゴリー: F1 / ホンダF1 / F1バーレーンGP / スクーデリア・アルファタウリ