ホンダF1 特集:新型コロナウイルス対策と新しい生活様式のF1
2020年のF1世界選手権は、新型コロナウイルスの対策を講じながらの異例の幕開けとなる。F1の世界で30年以上のキャリアがあるホンダF1の広報担当のエリック・シルバーマンが、開幕について語った。
かつてない事態に直面
私がツーリングカーレースやラリーの仕事をしていた1970年代、英国のモータースポーツはオイルショックのために中止に追い込まれたことがあります。ま
た、1967年には家畜の伝染病である口蹄疫の影響でラリーが中止されたこともありました。しかし、今回の新型コロナウイルスのような事態は、私も経験したことがありません。
このパンデミックでは、イギリスだけを見ても毎日とても多くの方が亡くなっています。このような状態では、モータースポーツやF1の将来といったことの優先度は高くないと言われるかもしれません。
一方で、経済活動をできるだけ早く正常な状態に戻すことは重要です。メルボルンでスタートできなかったF1が、入念な感染対策を行った上でシーズンを再開する決断をしたことは称賛に価すると思います。
新しい生活様式の中でF1は
ただし、さまざまな面で負担を強いられることにはなるはずです。移動や物流に関しては、「トラベル・バブル」と言う仕組みを採用し、それぞれが必要最小限の接触に留めるための方策が徹底されています。どのチームもチーム単位での行動となり、他のチームや関係者と接触しない状態で移動や仕事をする形になります。検査も出発前に加えて現地でも5日ごとにに実施されます。ホンダF1の場合は、レッドブル担当とアルファタウリ担当とで2つに分けられ、それぞれが担当チームと一緒にフライトや宿泊、サーキットへの移動を行います。指定されたホテルを出てレストランで食事をしたり、バーに行ったりすることは許されません。そのため、チームメンバーは普段はないストレスに対処するための精神的な強さが求められます。
チームからのレース帯同人数も激減しています。無観客での開催となるため、通常はゲスト対応のために手配をするインフラや人材が、すべて不要となるからです。まず、ケータリングスタッフ、スポンサーなどゲストのケアをするスタッフ、そしてホンダF1の場合は私のような広報対応を行うスタッフも帯同せず、リモートで対応を行います。チームはコミュニケーションスタッフを何名か送っていますが、彼らの主な仕事はメディア対応と同時に、ドライバーを適切な時間に、適切な場所へと案内し、適切なミーティングを行うことになります。
メディアについても、FIAとF1が情報発信を一元化する予定で、ほんの一握りのジャーナリストのみが現地に入ります。ファンがレースを観戦する方法はテレビなどの映像メディアのみとなるので、一部のTVメディアは参加を許可されています。
チーム間の接触も認められていないため、ホンダF1の場合、レッドブルとアルファタウリのホンダF1の担当が触れ合うことはできません。各チームのモーターホームも設置が許可されておらず、すべてのチームが仕切りのある専用ケータリングエリアで食事を摂ります。
グランプリ運営をするスタッフ、そしてコースマーシャルは、F1の10チームのメンバーのみならず、F2とF3のパドック全体も対応しなければならないので、より大変ですよね。
現場では”マスク対策”が必要に?
先週、猛暑のシルバーストンで行われたレッドブル・レーシングのフィルミングデーに参加しましたが、普段つけ慣れていないこともあり、一日中マスクを着用しなければならないことが最も辛いことでした。
あるライバルチームのマネジメントはインタビューで、サーキットのどこかに行ってマスクを外すことができるようになったら、チームメンバーに 「マスク休憩 」を与える計画を立てていることを明らかにし、同時に呼吸法の練習もさせていると発言していました。
チームメンバーはなるべく「ソーシャルディスタンス」を取ろうとしていますが、例えばパワーユニット交換など、距離を取るのが難しい場面では、マスクが主な防護具となります。そのため、ピットでの作業は通常以上に体力を消耗し、精神的なストレスもたまります。
ホンダF1の戦いはどうなる?
この異例のシーズンは、ホンダF1のタイトル獲得の可能性を高めるのでしょうか?昨年フェルスタッペンが優勝したレッドブル・リンクでの2戦でシーズンをスタートすることになるので、我々にもチャンスはあるでしょうし、第3戦ハンガロリンクも過去の結果からいいレースができるのではと思っています。いいスタートが切れればチームに勢いをもたらしますが、メディアの大げさな言葉は真に受けない方がいいでしょうね(笑) タイトルが取れるかは走ってみないと誰にも分りませんが、仮にそういった可能性があるのであれば、なるべく多くのレースを戦えればなと個人的には思っています。大幅に短縮されたシーズンでは「本当の意味でチャンピオンと言えない」と言われかねないですしね。
私は1987年のシーズン以降、5、6戦を除いてすべてのグランプリに参加してきましたが、実は今回のレースの現場に行けないことを残念には思っていません。空港の保安検査に並んだり、飛行機の中でマスクをしながらほかの人に囲まれたりしなくていいですからね(笑) ヘルムート・マルコさん(レッドブル・レーシングの顧問)を除けば、私はレース関係者の中で最年長ですし、フランツ・トスト氏(アルファタウリ ホンダF1のチーム代表)よりも年上なんですよ(笑) なので、自宅からレースを観戦しながら仕事をするのも悪くはないかなと思っています。
カテゴリー: F1 / ホンダF1
かつてない事態に直面
私がツーリングカーレースやラリーの仕事をしていた1970年代、英国のモータースポーツはオイルショックのために中止に追い込まれたことがあります。ま
た、1967年には家畜の伝染病である口蹄疫の影響でラリーが中止されたこともありました。しかし、今回の新型コロナウイルスのような事態は、私も経験したことがありません。
このパンデミックでは、イギリスだけを見ても毎日とても多くの方が亡くなっています。このような状態では、モータースポーツやF1の将来といったことの優先度は高くないと言われるかもしれません。
一方で、経済活動をできるだけ早く正常な状態に戻すことは重要です。メルボルンでスタートできなかったF1が、入念な感染対策を行った上でシーズンを再開する決断をしたことは称賛に価すると思います。
新しい生活様式の中でF1は
ただし、さまざまな面で負担を強いられることにはなるはずです。移動や物流に関しては、「トラベル・バブル」と言う仕組みを採用し、それぞれが必要最小限の接触に留めるための方策が徹底されています。どのチームもチーム単位での行動となり、他のチームや関係者と接触しない状態で移動や仕事をする形になります。検査も出発前に加えて現地でも5日ごとにに実施されます。ホンダF1の場合は、レッドブル担当とアルファタウリ担当とで2つに分けられ、それぞれが担当チームと一緒にフライトや宿泊、サーキットへの移動を行います。指定されたホテルを出てレストランで食事をしたり、バーに行ったりすることは許されません。そのため、チームメンバーは普段はないストレスに対処するための精神的な強さが求められます。
チームからのレース帯同人数も激減しています。無観客での開催となるため、通常はゲスト対応のために手配をするインフラや人材が、すべて不要となるからです。まず、ケータリングスタッフ、スポンサーなどゲストのケアをするスタッフ、そしてホンダF1の場合は私のような広報対応を行うスタッフも帯同せず、リモートで対応を行います。チームはコミュニケーションスタッフを何名か送っていますが、彼らの主な仕事はメディア対応と同時に、ドライバーを適切な時間に、適切な場所へと案内し、適切なミーティングを行うことになります。
メディアについても、FIAとF1が情報発信を一元化する予定で、ほんの一握りのジャーナリストのみが現地に入ります。ファンがレースを観戦する方法はテレビなどの映像メディアのみとなるので、一部のTVメディアは参加を許可されています。
チーム間の接触も認められていないため、ホンダF1の場合、レッドブルとアルファタウリのホンダF1の担当が触れ合うことはできません。各チームのモーターホームも設置が許可されておらず、すべてのチームが仕切りのある専用ケータリングエリアで食事を摂ります。
グランプリ運営をするスタッフ、そしてコースマーシャルは、F1の10チームのメンバーのみならず、F2とF3のパドック全体も対応しなければならないので、より大変ですよね。
現場では”マスク対策”が必要に?
先週、猛暑のシルバーストンで行われたレッドブル・レーシングのフィルミングデーに参加しましたが、普段つけ慣れていないこともあり、一日中マスクを着用しなければならないことが最も辛いことでした。
あるライバルチームのマネジメントはインタビューで、サーキットのどこかに行ってマスクを外すことができるようになったら、チームメンバーに 「マスク休憩 」を与える計画を立てていることを明らかにし、同時に呼吸法の練習もさせていると発言していました。
チームメンバーはなるべく「ソーシャルディスタンス」を取ろうとしていますが、例えばパワーユニット交換など、距離を取るのが難しい場面では、マスクが主な防護具となります。そのため、ピットでの作業は通常以上に体力を消耗し、精神的なストレスもたまります。
ホンダF1の戦いはどうなる?
この異例のシーズンは、ホンダF1のタイトル獲得の可能性を高めるのでしょうか?昨年フェルスタッペンが優勝したレッドブル・リンクでの2戦でシーズンをスタートすることになるので、我々にもチャンスはあるでしょうし、第3戦ハンガロリンクも過去の結果からいいレースができるのではと思っています。いいスタートが切れればチームに勢いをもたらしますが、メディアの大げさな言葉は真に受けない方がいいでしょうね(笑) タイトルが取れるかは走ってみないと誰にも分りませんが、仮にそういった可能性があるのであれば、なるべく多くのレースを戦えればなと個人的には思っています。大幅に短縮されたシーズンでは「本当の意味でチャンピオンと言えない」と言われかねないですしね。
私は1987年のシーズン以降、5、6戦を除いてすべてのグランプリに参加してきましたが、実は今回のレースの現場に行けないことを残念には思っていません。空港の保安検査に並んだり、飛行機の中でマスクをしながらほかの人に囲まれたりしなくていいですからね(笑) ヘルムート・マルコさん(レッドブル・レーシングの顧問)を除けば、私はレース関係者の中で最年長ですし、フランツ・トスト氏(アルファタウリ ホンダF1のチーム代表)よりも年上なんですよ(笑) なので、自宅からレースを観戦しながら仕事をするのも悪くはないかなと思っています。
カテゴリー: F1 / ホンダF1