幻のF1マシン:ホンダ RA099 “レースで披露できなかったポテンシャル”
ホンダF1が第3期参戦にむけて開発していた『RA099』は、テスト走行で好タイムを記録していたものの、そのポテンシャルをレースで披露することはできなかった。

1998年、当時のホンダの社長だった川本信彦は“シャシー製造を含めたフルワークスによるF1参戦”を掲げ、イギリスにホンダ・レーシング・ディベロップメント (HRD) を設立し参戦準備を進めた。

ホンダF1はテクニカルディレクターにフェラーリやティレルで活躍したハーベイ・ポスルスウェイトを招聘し、彼が設計したマシン『RA099』の製作がイタリアのダラーラ社に委託された。無限のMF301HDを搭載したRA099は1998年12月をシェイクダウンを完了。テストドライバーにヨス・フェルスタッペンを迎えて1999年から本格的なテストを開始した。

プレシーズンテストに参加したホンダ RA099は、ヘレスで3日間にわたりトップタイムをマークするなど順調な仕上がりをみせていた。しかし、同年4月、スペインのサーキットでテストを行っている最中、ハーベイ・ポストレスウェイトが心筋梗塞で倒れ、そのまま帰らぬ人となった。マイク・ガスコインの談話によると、急死後に関係者が所持品を調べたところ、システム手帳に「胸の痛みを医者に診てもらう」という予定書きが残っていたという。

ホンダ側では人事変更などにより参戦計画が流動的な状況となっており、ハーベイ・ポストレスウェイトの死、そして、ホンダ社内に根強く残る慎重論などを背景に、結局ホンダはフルワークスによる参戦を取り止め、BARと組んでエンジンサプライヤーとして第3期F1活動を行うことを決定。BAR側ですでにシャシーは設計されており、RA099がレースデビューすることはなかった。

ホンダ RA099の開発に携わり、現在、ホンダF1でレッドブルのチーフメカニックを務める吉野誠は、テストドライバーだったヨス・フェルスタッペンの息子が今、レッドブル・ホンダのF1マシンのステアリングを握っていることは感慨深いことだと語る。

「残念な形にはなってしまいましたが、実はその際、RA099のテスト走行を担当していたのが、現在のレッドブルのドライバーであるマックス・フェルスタッペン選手のお父さん、ヨス・フェルスタッペンだったんです。当時まだマックスはとても小さかったのですが、お父さんのテスト現場をしばしば訪れていました。金髪のきれいな男の子でしたね。ヨスは現在もよくマックスのレースを見に訪れるので、時々私と当時の昔話をすることもあるんですよ。また、マックスも当時のことを鮮明に覚えているようで、彼がRA099に座っている写真をスマートフォンで見せてくれて、彼と一緒にそのころの話をしたこともあります。F1マシンに座ったということで、彼の中でもとても印象に残っていたようですね」と吉野誠は語る。

「マックスが2014年に鈴鹿のFP1でトロロッソのマシンをドライブし、F1デビューを飾った際には、私は一ファンとしてその姿をTVで見ていました。ほかの好きなF1ドライバーを見るときとは全く異なる気持ちで、『ああ、あの子がF1に・・・』という特別な感慨とともに、彼を応援していましたね。おこがましいかもしれませんが、どこか自分の息子を見るような気持ちで見ていた部分もあったのかもしれません。ですから、今年彼と一緒に仕事ができると知ったときには本当にうれしかったんです。お父さんと仕事をしていたのに今度はその息子さんと仕事をすることになるということに、不思議な縁も感じましたね」

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