ホンダF1 特集:物流担当が語るオーストラリアGP中止の舞台裏
ホンダF1の物流マネージャーを務めるグレアム・スミスが、開幕戦オーストラリラGPの延期決定によってどのような影響があったのかを語った。
本来であればいまごろF1シーズンはオーストラリア、バーレーン、ベトナム、中国の各GPを終えているタイミングだった。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、世界中でロックダウン(外出禁止)を行う国が増え、F1チームやパワーユニットサプライヤーもシャットダウン(ファクトリー閉鎖)を実施することになった。
開幕戦となるはずの3月のオーストラリアGPもフリー走行開始寸前で実施をとりやめとなり、それ以降、F1はグランプリを開催できていない。
そしてこの開幕戦延期により、ホンダF1の物流マネージャーであるグレアム・スミスは短い時間の中で多くの課題に直面することとなった。
「グランプリを実施しないことになり金曜の午後には、本来の決勝終了後と同様の作業をすることに決めました。まだマシンはガレージにあったので、メカニックはエンジンを取り外して梱包する通常の手順を進めました。ただ、いつもより時間があることが分かっていたので、少しゆっくりとしたペースでしたね」とグレアム・スミスはHonda Racing F1の公式サイトに語った。
「レース現場のスタッフを英国や日本に戻すアレンジについては、オフィスにいるロジスティックチームのメンバーと、現場にいる私が連携して行いました。当初は、レース実施時の帰国予定から特に変更しないつもりでしたが、それだと月曜日と火曜日のフライトで帰国が遅くなってしまうので、火曜フライト予定のメンバーは前倒して日曜に移動できるようアレンジしました。」
「なかには帰国の経路を変更したメンバーもいましたが、航空会社は柔軟に対応してくれて助かりました。金曜の朝に中止が決定したのに、火曜の午後には全員が帰国することができました」
「このように人の移動について問題は起きませんでしたが、金曜の朝に開催可否の情報が入ってくるまでは、どう動いていいか非常に悩ましかったですね。私の38年のキャリアの中でも見たことがない状況でしたし、今後もないと思います。2001年9月11日の米国同時多発テロの後も大変でしたが、あのときはフライトの問題だけでした。航空機の利用が制限されたので、Hondaのスタッフは電車で移動しましたが、今回はそれ以上に厳しい状況でした」
開幕戦延期決定の翌日には、第2戦バーレーンGPと第3戦ベトナムGPの延期も発表されたため、次戦へ直行する予定だったスタッフも全員が帰宅。そして、各国で定められた感染防止のガイドラインを厳守して過ごすことになった。
「帰国後は、全員がどこで滞在するのかを選択することにして、同居者への感染リスクを懸念するメンバーについては、ホテルでの自主隔離を行いました。8~9人はこの対応を選んだはずで、私自身も家に帰る前に自己隔離を行いました。」
このような状況でオーストラリアからミルトンキーンズにあるファクトリーに到着する貨物も待たねばならず、その到着も予定より遅れることになった
「貨物便はまず次のレースが行われる予定だったバーレーンに向かい、そこで英国に戻すか現地に留め置かれるかが判断されると聞いていました。実際に、我々の貨物もドバイへ飛び、空港で2週間保管されていました。最終的に英国に届いたのが4月1日だったので、3週間かかったことになります」
「すべてはリバティ・メディア(F1の運営会社)とFOM(Formula One Management)が手配する貨物便だったので、彼らがいつ、どこに届くのかを随時連絡してくれたのですが、日々到着予定が変わっていきました。たしか、4月1日に届くまで、3回くらいは変更になったはずです。」
「思っていたよりも混乱は少なかったですね。機材が戻ってくるのは遅くなりましたが、すべてサーキットで梱包し、数日後には普段のレース間の移動と同じように発送されました。ただ、航空機やクルー、飛行経路などにさまざまな影響が出て時間はかかりましたけどね。」
「シャットダウン期間はファクトリーへ立ち入ることが禁止されていますが、建物の外に放置するわけにはいかなかったので、FIAから特別な許可を得て、荷ほどきと機材の収納のみを行いました。私と数人のメカニックが作業を担当し、それが終わったらすぐに退去しました」
多くのレースが延期となり、空白期間が長くなったことで、機材の回収を急ぐ必要はありませんでしたが、貨物の中には世界中を移動して宙に浮いた状態になってしまっているものがある。
「オーストラリアに送った船便は、その後当初の予定通りカナダへ向かっています。現時点でそれをストップすることはできないので、5月末にカナダに到着し、その後現地で保管するかどうかを判断することになります。バーレーンからの船便はドバイに留まっており、ソチ(ロシア)で使用する可能性があります」
「ベトナムの船便は、そのまま現地にあるので、可能であればシンガポールで使おうと思います。中国向けの便についてはは幸いにも出航しませんでした。DHLが好判断をして予定よりも2週間出航を遅らせてくれたので、その間に中国GPの延期が決定し英国に留めることができました。状況が見えてくるまでは、すべての貨物をそのままにしておくつもりですし、少なくとも適切な場所に保管しておきます」
現時点で、10のレースが中止か延期となっているため、グレアム・スミスたちは9戦分のフライトや宿泊の手配に対処することになる。
「いまはホテルのキャンセル手続きについて確認しています。いまのところやれることはニュースを確認して一つずつキャンセルしていくことしかありません。レースの日程が移動されたときに、もともと予約していた部屋をまた使えるかは分かりません(笑)。そのときが来たら対処しなければならないし、いま対応を検討しているところです」
「田辺さん(豊治テクニカルディレクター)は、FIAの会議に出席し、FIAとコミュニケーションが取れるので、影響がありそうな情報については、我々やチームの管理職に伝えてくれています」
現在、多くの人が、F1の再開を待ち望んでいるように、グレアム・スミスも時が来るのを待っている。シーズンが再開できる状況になれば、いつでもホンダF1の機材を準備できる自信があると語る。
「準備に時間はかからないと思います。もしFOMがフライアウェイ戦(ヨーロッパ以外で開催されるグランプリ)をするから5日以内で準備しろと言われても、物流面では対応可能です。オーストラリアではパワーユニット(PU)を何も使用していないので、物流としては2~3日で準備できるはずです。消耗品などに関しても、すべて揃っています」
「オーストラリアの後、すべてのPUはすぐに日本に送られました。もし通常の状況に戻ったら、貨物便をチャーターして、速やかにレース現場へ送ることになります。ただ、現在のようにヨーロッパ各地へのフライトが1日に1便しかない状況が続くと、少しやっかいかもしれません」
「いつ再開されるかは分かりませんし、カレンダーが決まるまでは何もできませんが、すぐに動き出せる態勢は整っています」
「もしレースが開催されて、その後スタッフが散り散りになっていたら少し難しかったかもしれませんが、走行が全くなかったので、準備はしっかりと整っています」
カテゴリー: F1 / ホンダF1
本来であればいまごろF1シーズンはオーストラリア、バーレーン、ベトナム、中国の各GPを終えているタイミングだった。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、世界中でロックダウン(外出禁止)を行う国が増え、F1チームやパワーユニットサプライヤーもシャットダウン(ファクトリー閉鎖)を実施することになった。
開幕戦となるはずの3月のオーストラリアGPもフリー走行開始寸前で実施をとりやめとなり、それ以降、F1はグランプリを開催できていない。
そしてこの開幕戦延期により、ホンダF1の物流マネージャーであるグレアム・スミスは短い時間の中で多くの課題に直面することとなった。
「グランプリを実施しないことになり金曜の午後には、本来の決勝終了後と同様の作業をすることに決めました。まだマシンはガレージにあったので、メカニックはエンジンを取り外して梱包する通常の手順を進めました。ただ、いつもより時間があることが分かっていたので、少しゆっくりとしたペースでしたね」とグレアム・スミスはHonda Racing F1の公式サイトに語った。
「レース現場のスタッフを英国や日本に戻すアレンジについては、オフィスにいるロジスティックチームのメンバーと、現場にいる私が連携して行いました。当初は、レース実施時の帰国予定から特に変更しないつもりでしたが、それだと月曜日と火曜日のフライトで帰国が遅くなってしまうので、火曜フライト予定のメンバーは前倒して日曜に移動できるようアレンジしました。」
「なかには帰国の経路を変更したメンバーもいましたが、航空会社は柔軟に対応してくれて助かりました。金曜の朝に中止が決定したのに、火曜の午後には全員が帰国することができました」
「このように人の移動について問題は起きませんでしたが、金曜の朝に開催可否の情報が入ってくるまでは、どう動いていいか非常に悩ましかったですね。私の38年のキャリアの中でも見たことがない状況でしたし、今後もないと思います。2001年9月11日の米国同時多発テロの後も大変でしたが、あのときはフライトの問題だけでした。航空機の利用が制限されたので、Hondaのスタッフは電車で移動しましたが、今回はそれ以上に厳しい状況でした」
開幕戦延期決定の翌日には、第2戦バーレーンGPと第3戦ベトナムGPの延期も発表されたため、次戦へ直行する予定だったスタッフも全員が帰宅。そして、各国で定められた感染防止のガイドラインを厳守して過ごすことになった。
「帰国後は、全員がどこで滞在するのかを選択することにして、同居者への感染リスクを懸念するメンバーについては、ホテルでの自主隔離を行いました。8~9人はこの対応を選んだはずで、私自身も家に帰る前に自己隔離を行いました。」
このような状況でオーストラリアからミルトンキーンズにあるファクトリーに到着する貨物も待たねばならず、その到着も予定より遅れることになった
「貨物便はまず次のレースが行われる予定だったバーレーンに向かい、そこで英国に戻すか現地に留め置かれるかが判断されると聞いていました。実際に、我々の貨物もドバイへ飛び、空港で2週間保管されていました。最終的に英国に届いたのが4月1日だったので、3週間かかったことになります」
「すべてはリバティ・メディア(F1の運営会社)とFOM(Formula One Management)が手配する貨物便だったので、彼らがいつ、どこに届くのかを随時連絡してくれたのですが、日々到着予定が変わっていきました。たしか、4月1日に届くまで、3回くらいは変更になったはずです。」
「思っていたよりも混乱は少なかったですね。機材が戻ってくるのは遅くなりましたが、すべてサーキットで梱包し、数日後には普段のレース間の移動と同じように発送されました。ただ、航空機やクルー、飛行経路などにさまざまな影響が出て時間はかかりましたけどね。」
「シャットダウン期間はファクトリーへ立ち入ることが禁止されていますが、建物の外に放置するわけにはいかなかったので、FIAから特別な許可を得て、荷ほどきと機材の収納のみを行いました。私と数人のメカニックが作業を担当し、それが終わったらすぐに退去しました」
多くのレースが延期となり、空白期間が長くなったことで、機材の回収を急ぐ必要はありませんでしたが、貨物の中には世界中を移動して宙に浮いた状態になってしまっているものがある。
「オーストラリアに送った船便は、その後当初の予定通りカナダへ向かっています。現時点でそれをストップすることはできないので、5月末にカナダに到着し、その後現地で保管するかどうかを判断することになります。バーレーンからの船便はドバイに留まっており、ソチ(ロシア)で使用する可能性があります」
「ベトナムの船便は、そのまま現地にあるので、可能であればシンガポールで使おうと思います。中国向けの便についてはは幸いにも出航しませんでした。DHLが好判断をして予定よりも2週間出航を遅らせてくれたので、その間に中国GPの延期が決定し英国に留めることができました。状況が見えてくるまでは、すべての貨物をそのままにしておくつもりですし、少なくとも適切な場所に保管しておきます」
現時点で、10のレースが中止か延期となっているため、グレアム・スミスたちは9戦分のフライトや宿泊の手配に対処することになる。
「いまはホテルのキャンセル手続きについて確認しています。いまのところやれることはニュースを確認して一つずつキャンセルしていくことしかありません。レースの日程が移動されたときに、もともと予約していた部屋をまた使えるかは分かりません(笑)。そのときが来たら対処しなければならないし、いま対応を検討しているところです」
「田辺さん(豊治テクニカルディレクター)は、FIAの会議に出席し、FIAとコミュニケーションが取れるので、影響がありそうな情報については、我々やチームの管理職に伝えてくれています」
現在、多くの人が、F1の再開を待ち望んでいるように、グレアム・スミスも時が来るのを待っている。シーズンが再開できる状況になれば、いつでもホンダF1の機材を準備できる自信があると語る。
「準備に時間はかからないと思います。もしFOMがフライアウェイ戦(ヨーロッパ以外で開催されるグランプリ)をするから5日以内で準備しろと言われても、物流面では対応可能です。オーストラリアではパワーユニット(PU)を何も使用していないので、物流としては2~3日で準備できるはずです。消耗品などに関しても、すべて揃っています」
「オーストラリアの後、すべてのPUはすぐに日本に送られました。もし通常の状況に戻ったら、貨物便をチャーターして、速やかにレース現場へ送ることになります。ただ、現在のようにヨーロッパ各地へのフライトが1日に1便しかない状況が続くと、少しやっかいかもしれません」
「いつ再開されるかは分かりませんし、カレンダーが決まるまでは何もできませんが、すぐに動き出せる態勢は整っています」
「もしレースが開催されて、その後スタッフが散り散りになっていたら少し難しかったかもしれませんが、走行が全くなかったので、準備はしっかりと整っています」
カテゴリー: F1 / ホンダF1