ホンダF1 特集 | 気温とパワーユニットの関係
トロロッソ・ホンダでパワーユニット(PU)のチーフエンジニアを務めるホンダF1の本橋正充が気温とPUの関係について語った。
今年のホッケンハイムは猛暑に見舞われている。木曜日の時点で気温は40℃に達し、金曜のフリー走行でも同様だった。この暑さは、パワーユニットへも大きく影響する。
「PUは、気温を含め、一定のコンディション下で最もよく機能するように設計されているので、ベストパフォーマンスを発揮できる温度帯というのが存在します」と本橋正充は語る。
「温度が高いと、ノッキングと言って、エンジンの燃焼異常が起きやすくなり、これがPUへ負荷をかける要因になります。こうなると、パワーの低下につながります」
「しかし、温度が低すぎてもパフォーマンスは下がります。したがって、PUを一定の温度の枠内に保つ必要があるのです」
「気温と内部の水温は主にパフォーマンスに、オイルの温度は信頼性に影響します。ですから、空気、冷却水、オイル、この3つの温度をできるだけコントロールしなければなりません」
「さらに、PUには、モーターやバッテリーもあり、これらの温度もケアする必要があります。高温下では、モーターの出力を抑えなければならないので、パフォーマンスへの影響が大きくなります」
さまざまな部分の温度に気を配らなければならないが、共通しているのは“パフォーマンスがベストになる温度帯をキープする”ということ。しかし、口で言うのは簡単だが、気温40℃近い状況下で、そんなことが本当にできるのだろうか?
「まず、車体側では冷却に関するオプションを何パターンか用意してくれています。冷却機構を大きくすれば、その分シャシーのドラッグが増えてラップタイムに影響しますから、冷却性能とパフォーマンスのバランスを取る必要があります。我々は、チームとともに常に最適な組み合わせを探っているんです」
「PU側にも温度を下げるための機構があります。先ほど言ったように、シャシーの冷却機構を大きくしてしまうと、その代償は大きくなりますから、車体側からすれば冷却機構はあまり大きくしたくはありません。そんなときに、PU側の機構を用いて温度を下げます」
「基本的に冷却はボディワークによる影響が大きく、モーターや燃料など、いくつかのPUの設定によってサブの冷却を行うという感じですね」
シャシー側の冷却機構は、ドラッグと冷却効果のバランスを探るのが難しいだけでなく、その設定はレースの前に終わらせていなければならない。パルクフェルメ規定によって、予選開始以降はボディワークの変更は許されていないからだ。つまり、今回のドイツGPのように金曜と比較して土曜と日曜に大きく気温が下がる場合には、気温が高い金曜のプラクティス中に、そうでない状況を想定しながらセッティングを進めなくてはならない。
「レースウイーク中、チームは2~3時間ごとに天気予報をチェックします。もちろん、金曜日のフリー走行の段階で、冷却面のテストを行い、それぞれがどれくらい機能するのかを確認しています。そして、この金曜フリー走行のデータと天気予報を照らし合わせて、どの仕様にするかを選ぶのです」
「しかし、ときどき予報が外れることもあります。そうなると、パルクフェルメ規定によって車体は変更できないので、PU側で温度を下げるように設定してレースに挑むことになります」
「しかし、温度は下げるだけではありません。時には温度を上げなくてはならないときもあるのです。FIAは吸気温度についても規定を設けています。吸気温度が定められた基準を下回ると、失格になってしまうのです。それを避けるために、逆に温度を上げるための機能を使う必要が出てきます」
今週末の天気予報によれば、金曜日の気温が一番高く、土日は少し気温が下がり、雨の可能性もあるようだ。ホンダF1では、レッドブルとトロロッソと協力しながら、マシンごとに2人のスタッフが、走行中の温度管理を確認していている。
「私たちは、セッション中あらゆる箇所の温度を監視しています。マシンの重要な部分には温度センサーを取り付けていて、そこからほかの部分の温度を計算して割り出しています」
「プレシーズンテストでは、計測用のセンサーをさらに追加して、すべての温度を測っています。そこで、通常のセンサーと追加センサーとの温度の関係を見ることで、1つのセンサーの温度から、エンジニアたちはほかの温度の推測をすることができるのです」
「PUの中で、基本的には内燃機関(ICE)のシリンダーヘッドが最も熱くなります。また、排気経路にタービンがあるので、エキゾーストパイプの温度も注意しなくてはならないポイントです」
「シリンダーヘッドが高温になると、ノッキングや故障の原因になります。やはり、温度が高い状態はパフォーマンスに悪影響を及ぼすのです」
暑さは、すべてのチームにとって課題と言える。今年のオーストリアGPでマックス・フェルスタッペンがホンダのF1復帰後初優勝を飾ったときも、各チームが熱との戦いを強いられた。復帰初年度の2015年から、F1プロジェクトに参加していた本橋正充にとっても、優勝は特別な結果となり、今後のさらなる開発の動機になっているという。
「もちろん、優勝はうれしいですし、F1プロジェクトに携わったすべての人たちに感謝しています。しかし、トップチームに対してはまだまだ差があり、あの勝利は今後に向けたスタートにすぎません。もっともっと、やるべきことがあります」
「今週末は厳しい戦いになるでしょう。しかし、もっと気温が高い条件下で、シャシー側も含めてパフォーマンスを向上させる方法を学びましたから、今回は表彰台を獲得できたらと思います。オーストリアでは、メルセデスは暑さに苦戦していました。しかし、彼らはすばらしいF1チームなので、すでに高温対策を整えているでしょう。いずれにしても、プッシュし続けるのみです」
カテゴリー: F1 / ホンダF1
今年のホッケンハイムは猛暑に見舞われている。木曜日の時点で気温は40℃に達し、金曜のフリー走行でも同様だった。この暑さは、パワーユニットへも大きく影響する。
「PUは、気温を含め、一定のコンディション下で最もよく機能するように設計されているので、ベストパフォーマンスを発揮できる温度帯というのが存在します」と本橋正充は語る。
「温度が高いと、ノッキングと言って、エンジンの燃焼異常が起きやすくなり、これがPUへ負荷をかける要因になります。こうなると、パワーの低下につながります」
「しかし、温度が低すぎてもパフォーマンスは下がります。したがって、PUを一定の温度の枠内に保つ必要があるのです」
「気温と内部の水温は主にパフォーマンスに、オイルの温度は信頼性に影響します。ですから、空気、冷却水、オイル、この3つの温度をできるだけコントロールしなければなりません」
「さらに、PUには、モーターやバッテリーもあり、これらの温度もケアする必要があります。高温下では、モーターの出力を抑えなければならないので、パフォーマンスへの影響が大きくなります」
さまざまな部分の温度に気を配らなければならないが、共通しているのは“パフォーマンスがベストになる温度帯をキープする”ということ。しかし、口で言うのは簡単だが、気温40℃近い状況下で、そんなことが本当にできるのだろうか?
「まず、車体側では冷却に関するオプションを何パターンか用意してくれています。冷却機構を大きくすれば、その分シャシーのドラッグが増えてラップタイムに影響しますから、冷却性能とパフォーマンスのバランスを取る必要があります。我々は、チームとともに常に最適な組み合わせを探っているんです」
「PU側にも温度を下げるための機構があります。先ほど言ったように、シャシーの冷却機構を大きくしてしまうと、その代償は大きくなりますから、車体側からすれば冷却機構はあまり大きくしたくはありません。そんなときに、PU側の機構を用いて温度を下げます」
「基本的に冷却はボディワークによる影響が大きく、モーターや燃料など、いくつかのPUの設定によってサブの冷却を行うという感じですね」
シャシー側の冷却機構は、ドラッグと冷却効果のバランスを探るのが難しいだけでなく、その設定はレースの前に終わらせていなければならない。パルクフェルメ規定によって、予選開始以降はボディワークの変更は許されていないからだ。つまり、今回のドイツGPのように金曜と比較して土曜と日曜に大きく気温が下がる場合には、気温が高い金曜のプラクティス中に、そうでない状況を想定しながらセッティングを進めなくてはならない。
「レースウイーク中、チームは2~3時間ごとに天気予報をチェックします。もちろん、金曜日のフリー走行の段階で、冷却面のテストを行い、それぞれがどれくらい機能するのかを確認しています。そして、この金曜フリー走行のデータと天気予報を照らし合わせて、どの仕様にするかを選ぶのです」
「しかし、ときどき予報が外れることもあります。そうなると、パルクフェルメ規定によって車体は変更できないので、PU側で温度を下げるように設定してレースに挑むことになります」
「しかし、温度は下げるだけではありません。時には温度を上げなくてはならないときもあるのです。FIAは吸気温度についても規定を設けています。吸気温度が定められた基準を下回ると、失格になってしまうのです。それを避けるために、逆に温度を上げるための機能を使う必要が出てきます」
今週末の天気予報によれば、金曜日の気温が一番高く、土日は少し気温が下がり、雨の可能性もあるようだ。ホンダF1では、レッドブルとトロロッソと協力しながら、マシンごとに2人のスタッフが、走行中の温度管理を確認していている。
「私たちは、セッション中あらゆる箇所の温度を監視しています。マシンの重要な部分には温度センサーを取り付けていて、そこからほかの部分の温度を計算して割り出しています」
「プレシーズンテストでは、計測用のセンサーをさらに追加して、すべての温度を測っています。そこで、通常のセンサーと追加センサーとの温度の関係を見ることで、1つのセンサーの温度から、エンジニアたちはほかの温度の推測をすることができるのです」
「PUの中で、基本的には内燃機関(ICE)のシリンダーヘッドが最も熱くなります。また、排気経路にタービンがあるので、エキゾーストパイプの温度も注意しなくてはならないポイントです」
「シリンダーヘッドが高温になると、ノッキングや故障の原因になります。やはり、温度が高い状態はパフォーマンスに悪影響を及ぼすのです」
暑さは、すべてのチームにとって課題と言える。今年のオーストリアGPでマックス・フェルスタッペンがホンダのF1復帰後初優勝を飾ったときも、各チームが熱との戦いを強いられた。復帰初年度の2015年から、F1プロジェクトに参加していた本橋正充にとっても、優勝は特別な結果となり、今後のさらなる開発の動機になっているという。
「もちろん、優勝はうれしいですし、F1プロジェクトに携わったすべての人たちに感謝しています。しかし、トップチームに対してはまだまだ差があり、あの勝利は今後に向けたスタートにすぎません。もっともっと、やるべきことがあります」
「今週末は厳しい戦いになるでしょう。しかし、もっと気温が高い条件下で、シャシー側も含めてパフォーマンスを向上させる方法を学びましたから、今回は表彰台を獲得できたらと思います。オーストリアでは、メルセデスは暑さに苦戦していました。しかし、彼らはすばらしいF1チームなので、すでに高温対策を整えているでしょう。いずれにしても、プッシュし続けるのみです」
カテゴリー: F1 / ホンダF1