FIAとアウディF1が対立か V8エンジン回帰でターボ存続を巡る攻防
FIA(国際自動車連盟)が推進する2030年以降の次世代F1パワーユニット構想を巡り、新たな対立構図が浮かび上がっている。

モハメド・ビン・スライエムFIA会長は自然吸気のV型8気筒エンジンへの回帰を強く支持している一方で、アウディはターボチャージャーの継続採用を主張しており、両者の考え方の違いが鮮明になった。

2026年から導入される新世代パワーユニットは重量増加や複雑化が批判されているが、FIAはすでに2027年と2028年に内燃機関の比率を引き上げる方向へ舵を切っている。そして2030年または2031年からは、さらにシンプルなV8ハイブリッドへの移行を目指している。

FIA会長「V8は決定事項」
ル・マン24時間レースの会場で取材に応じたモハメド・ビン・スライエムは、V8エンジンへの回帰が既定路線であると明言した。

「V8は決定事項だ。すでに決断は下された」

FIAは現在のパワーユニット開発費が過度に高騰していることを問題視している。

「研究開発には2億ユーロ(約372億円)以上が必要だ。レッドブルは現在のエンジンに13億ユーロ(約2418億円)以上を投資した。ばかげている」

FIAの構想では、V8エンジンに10%程度の軽量ハイブリッドシステムを組み合わせ、持続可能燃料を使用することで十分な性能を確保できるという。

ビン・スライエムは、ターボチャージャーを廃止することで大幅な軽量化とコスト削減が可能になると説明した。

「ターボを搭載すればウェイストゲートやインタークーラー、配管が必要になる。すべて重量増加につながり、コストもかかる」

「使命はシンプル化、コスト管理、そしてファンが喜ぶサウンドを取り戻すことだ」

さらにFIAの試算では、V8と軽量ハイブリッドを組み合わせることで約760馬力を発生し、ハイブリッドシステムを加えれば約880馬力に達するとされている。加えて車重も630kg前後まで削減できる可能性があり、現在のF1マシンより大幅な軽量化が期待されている。

アウディはターボ維持を希望
しかし、アウディはFIAとは異なる立場を取っている。

モナコGPの週末にアウディCEOのゲルノート・デルナーは、ターボチャージャーの継続採用を支持する考えを改めて示した。

「効率性の観点からターボチャージャーを好んでいる」

「アウディにとって最も重要なのは持続可能性の理念を維持し、エネルギー効率をF1規則の柱として残すことだ」

報道によると、アウディは新型スーパーカー『ヌヴォラーリ』に採用された技術に近いツインターボ方式にも関心を示しているという。

これは「軽量化とシンプル化」を重視するFIAと、「効率性と技術的先進性」を重視するアウディとの価値観の違いを象徴している。

F1が持続可能燃料時代へ移行する中で、自動車メーカー各社は市販車への技術還元を重視している。特にアウディにとってターボ技術はブランド戦略の中心にあるため、今後のルール策定交渉でも重要な論点となりそうだ。

2030年導入へ向けた駆け引き
FIAは2030年からの新規則導入を希望しているが、自動車メーカーとの合意形成が前提となる。

一方でビン・スライエムは、仮にメーカー側との合意が得られなくても、2031年以降はFIA主導で規則を策定する可能性を示唆した。

「もちろん意見交換は良いことだ。FIAはパワーユニットメーカーの要望に耳を傾けている」

「しかし私たちとしては軽量でシンプルな設計を望んでいる。変更にかかる時間も短くしたい」

現在F1にはレッドブル・フォード、メルセデス、フェラーリ、ホンダ、アウディ、キャデラックの6メーカーが参戦または参戦予定であり、全社の利害を一致させるのは容易ではない。

2030年からの新規則が実現するか、それとも2031年まで議論が持ち越されるかは不透明だが、次世代エンジンの方向性を決定づける重要な議論がすでに始まっている。

ドライバーたちはV8回帰を歓迎
興味深いことに、多くのドライバーはFIAの方向性を支持している。

アストンマーティンのランス・ストロールは2026年マシンについて厳しい評価を下した。

「僕に言わせれば来年にでもV8へ戻るべきだ」

「クルマのことを知っている人なら誰でも、このマシンが運転しづらいことは分かっていただろう」

「バッテリーや回生システムなど、重量を増やすものが増えればこうなるのは当然だった」

さらにフェルナンド・アロンソは、FIA案よりもさらに踏み込んだ意見を示した。

「僕は電動部分を完全になくしたい」

「電動システムはレースそのものに大きな付加価値を与えていない」

「フォーミュラEという完全電動カテゴリーがすでに存在する。そこで技術開発を極限まで進めればいい」

2026年の新レギュレーションでは電動出力の比率が大幅に高まり、ドライバーの間からは重量増加やエネルギーマネジメントへの不満が相次いでいる。今回のV8回帰論争は単なる懐古主義ではなく、F1が競技として何を重視するべきかという根本的な議論でもある。

FIAが求める「軽量・低コスト・高音質」の方向性と、アウディが重視する「効率性・技術革新・市販車との関連性」。両者の主張にはそれぞれ合理性があり、2030年代のF1エンジン規則は今後数年間にわたって激しい議論の対象となりそうだ。

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カテゴリー: F1 / FIA(国際自動車連盟) / アウディ