FIA F1判定の裏側を公開 150台カメラとAIで全車を常時監視

とりわけ焦点となっているのは、たびたび論争を呼ぶトラックリミットだ。
FIAは人の目による確認に加えて、映像解析や文字起こしなどのAI支援を拡充し、より一貫性があり迅速で、なおかつ透明性の高い判断体制の構築を進めている。
レースコントロールと遠隔拠点が判断を支える
FIAのスポーティングディレクターを務めるティム・マリオンは、レースコントロールについて「レースディレクションは、すべてのデータの中心であり、意思決定の中枢だ」と説明した。
この中枢機能を担うレースコントロールでは、多数の専門スタッフが安全かつ公正で透明性のあるレース進行を支えている。ただし、判断は現場だけで完結しているわけではない。
そこに加わるのが、レースコントロールを外部から支援するRemote Operations Centre(遠隔オペレーションセンター)だ。ここでは複数の専門家が並行して膨大なデータと映像を精査し、その評価をレースディレクションへ送っている。
レースディレクションには最大30人が直接関与し、ROCにはサーキットに応じて4人から8人の専門スタッフが配置される。さらに最終的なペナルティ判断を下すスチュワードも加わり、各自がデータアナリストの支援を受けながら大量の情報を効率的に評価している。
インシデント検知から裁定までの流れ
判断の出発点となるのは、違反の可能性がある事象の検知だ。これは自動システムによって検出される場合もあれば、人の目で見つけられる場合もあるが、多くはまずROCで拾い上げられる。
その後、関連する映像、テレメトリー、位置情報、無線交信といったデータが収集され、ひとつのパッケージとしてまとめられる。これがレースディレクションに送られ、最初の分析が行われる。
マリオンは「インシデントはさまざまな視点から分析される」と語り、「その後、ルール違反の可能性があるかどうかを判断する」と説明した。
そして、違反の可能性があると判断された場合にのみ、完全なデータパッケージがスチュワードへ送られる。最終的にペナルティの有無を決めるのはスチュワードであり、レースディレクションやROCはその判断を支えるための整理と分析を担っている。
150系統の映像とAIが監視精度を高める
FIAが処理している情報量は非常に大きい。最大150系統の映像に加え、全チームの無線通信、全車両の正確な位置情報とタイムデータが並行して集約されている。
重要なのは、これらを単に集めることではなく、相互に関連づけて意味のある形で解釈することだ。その負荷を軽減し、判断の速度を高める役割を担っているのが、AIを含む新しい技術だ。
FIAの情報システム戦略責任者クリス・ベントレーは、システムが自動的にレビュー対象となる場面を認識していると説明した。システムは特定のコース区間を常時監視し、異常を抽出する仕組みになっているという。
ベントレーは「ある意味でプレフィルターのように機能する」と述べた。こうした事前のふるい分けによって、分析担当者は本当に重要な場面へ集中しやすくなっている。
トラックリミット監視は“全車・全周・全コーナー”へ
特に難しいテーマとして挙げられたのがトラックリミットの監視だ。時速200キロを超える状況で、全車の走行ラインを一貫して見極めることは容易ではない。
マリオンは「ドライバーは常に限界を攻めており、より高いパフォーマンスを得るために、それを超えることもある」と述べた。その上で、FIAの役割はその限界を一貫して公正に適用することだとした。
FIAはこの問題に対し、ふたつの方向から取り組んでいる。ひとつは、グラベルや改良型の縁石などを用いて、コース外にはみ出すメリットを小さくするサーキット側の構造的対策だ。もうひとつが、監視技術の高度化である。
長期的にFIAが掲げているのは、「All cars, every turn」という考え方だ。すべてのマシンを、すべてのコーナーで、漏れなく監視する体制を目指している。
この実現に向けて、追加カメラ、より高精度な位置測定、改良されたソフトウェアの開発が進められている。理想的には、違反の有無を数秒以内、場合によってはドライバーが次のコーナーへ到達する前に判断できる状態を目指している。
AIは補助役 ただし自動化の余地は広がる
FIAはすでにコンピュータービジョンなどの技術を活用し、ルール違反の可能性がある場面を自動的に検出し、選別している。全体のおよそ90%は事前に除外できるようになっており、専門スタッフは判断が必要な局面に集中できるという。
また、無線交信についてもAIを使ってテキスト化が進められており、内容の検索や確認がより迅速になっている。
もっとも、現段階でAIはあくまで人間の判断を助ける存在という位置づけだ。マリオンは「現時点では、この技術は主として人を支援するためのものだ」と強調した一方で、「将来的には特定のプロセスが自動化される可能性もある」との見通しも示した。
FIAが重視するのは安全性と透明性
FIAは、こうした技術が安全面でも大きな可能性を持つとみている。将来的には、事故の危険が迫った際にマシンが自律的に反応し、自動ブレーキのような形で危険回避につながる可能性もあるという。
同時に、FIAが強く意識しているのが透明性の向上だ。正しい判断を下すだけでなく、なぜその判断に至ったのかをドライバー、チーム、ファンが理解できることが重要だと位置づけている。
マリオンは「我々の目標は、明確で、理解しやすく、透明性のあるルールシステムだ」と語った。FIAは、そうした仕組みこそが長期的な信頼の強化につながり、最終的にはF1のエンターテインメント価値を高めることにもつながると考えている。
カテゴリー: F1 / FIA(国際自動車連盟)
