FIAがメルセデスF1圧縮比問題で投票実施へ なぜ今“決着”を急いだのか

トト・ヴォルフはバーレーンで、メルセデスが新型パワーユニットの開発過程で常にFIAを関与させてきたと説明し、合法性に疑問はないと強調。「コップの中の嵐」に過ぎないと語った。
しかしFIAはそれでも投票という手続きを選択した。その背景には、単なる合法・違法の問題を超えたレギュレーションの「意図」を巡る論点があった。
「この種の問題には常に多くのニュアンスがある。レギュレーションの意図も重要だ。16:1の圧縮比を維持することは、2022年に全メーカーと議論した際の重要な柱のひとつだった」とFIAシングルシーター部門責任者ニコラス・トンバジスは説明した。
「規則の文言をどう解釈するかという問題もある。現行の条文に基づけば、より高い圧縮比を実現する方法が存在することが明らかになった」
トンバジスは、これは不正行為の問題ではないと明言する。
「誰かが違法行為をしたという立場をFIAが取ったことは一度もない。だが規則が本来の目的を完全に達していないなら、我々は修正を試みる。意図とは異なる方向に解釈が広がることを望んでいない」
FIA内部の少人数が、各チームの何百人ものエンジニアと向き合う構図は避けられないという。
「新しい規則では、チームが意図を超える解決策を見つけるのは避けられない。我々はこの投票によってこの問題に終止符を打ちたい」
8月導入案と“130度テスト”の意味
現在の提案は、圧縮比16:1の確認方法を8月1日から変更するものだ。従来の外気温下でのチェックに加え、130度という実走を想定した温度条件での追加検査を導入する。
可決には5社中4社のパワーユニットメーカーに加え、FIAおよびフォーミュラワン・マネジメントの賛成が必要となるスーパー・マジョリティ方式が採られる。承認後はワールド・モータースポーツ・カウンシルの正式承認を経て発効する。
トンバジスは、シーズン開幕前の変更は不公平である一方、2027年まで放置するのも妥当ではないと説明した。
「違法ではないが、意図を超えている。我々はその中間点を探った」
また、変更が導入されたとしてもエンジン改修は大規模ではないと述べる。
「圧縮比の差をシリンダー径やストロークに換算すれば、極めて小さな数値だ。すべてを作り直す話ではない」
ただし、もしメーカーが後半戦に向けて改修を行う場合、そのコストはPU予算上限の対象となる。

実は“勝者”はメルセデスか
一方で、イタリア側の見方はやや異なる。パワーユニット諮問委員会(PUAC)は来週初めにも8月からの130度テスト導入案を採決するとみられているが、可決はほぼ確実との見方が強い。
しかし重要なのは、メルセデスが130度条件でも適合しているとされる点だ。先週、HPPブリックスワース拠点で115度の予備検査が行われ、各シリンダーに二重マイクロチャンバーを持つ内燃機関が規定内であることが確認された。
小さな2ccの副燃焼室に通じる微小孔は、より高温・高圧条件下で閉塞し、ユニットは18:1の圧縮比で作動可能になるとされる。この構造が現行規則の範囲内で設計されている点が、議論の核心だ。
したがって、もし130度テストが導入されてもメルセデスが大幅な改修を強いられる可能性は低いと見られている。むしろ他メーカーがADUO(追加開発機会)を活用し、マイアミGP後に出力差が2%認定されればアップグレードを申請する構図が現実味を帯びる。
8月というタイミングは偶然ではない。理論上、追随側が対応策を準備する時間を確保するための猶予期間と解釈できる。
燃料と“18:1”の戦略的意味
さらに注目されるのが燃料の問題だ。メルセデスのパートナーであるペトロナスはe-fuelのホモロゲーションをまだ取得していないとされる。圧縮比問題の結論を待って最終仕様を決める戦術的判断だった可能性も指摘されている。
18:1条件で最大熱効率を引き出せる燃料を投入できれば、出力向上と燃費改善の両立が可能となる。搭載燃料を減らせば車両重量が軽減され、ロングランでのタイヤマネジメントにも利点が生じる。
トト・ヴォルフはこれを「コップの中の嵐」と表現したが、FIAはシーズン開幕を前に論争を終わらせる必要があったと見る。
トンバジスは最後にこう語っている。
「この問題は重要ではあるが、何カ月も騒ぐほどのものかと言われれば、正直そうは思わない」
FIAが選んだ投票というプロセスは、法的判断ではなく政治的均衡を取るための手段だった。その均衡の中で、少なくとも現時点ではメルセデスが最も有利な位置に立っていると見る向きは少なくない。
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