F1基礎知識:フリープラクティスとは? 重要セッション“FP”を知る
F1の “練習時間” では様々な作業が進んでいる。金曜・土曜計3回の FPでは何が行われているのだろうか?
決勝レースで優勝してシャンパンでびしょ濡れになったドライバーが、トロフィーを握りしめながらレースの内容ではなくレースウィークエンド全体について言及する場面は少なくない。
勝利とは日曜日の午後に突然降って湧くようなものではなく、その週末を通じて築き上げられていく。どれほどマシンが優れていて、どれほどドライバーのスキルが卓越していても、正しい準備ができていなければ決勝レースでの成功はほぼありえない。
チームにはレースウィークエンド全体を通じて取り組んでいる作業が存在し、パフォーマンスの大半がフリープラクティス(FP)セッションで見出されていく。「practice makes perfect(練習が完璧を生む)」という諺通りなのだ。
FPはいつ行われる?
通常のGPでは、レースウィークエンドで合計4時間のプラクティスが設けられている。各90分のFP1とFP2が金曜日に行われ(モナコGPでは木曜日)、60分のFP3が土曜日に行われる。
各セッションの時間帯は変動するが、すべてが連動している。通常、FP1終了からFP2開始までは2時間半の間隔が設けられており、FP3終了から予選開始までは2時間の間隔が設けられている。また、これも通常の場合だが、FP2開始時間は予選セッションおよび決勝レースと同時間帯に設定されている(詳しくは後述する)。
FPでの走行量は?
簡潔に回答するなら「ファンが期待しているほどの走行量ではない」だ。これはF1が長年抱える問題のひとつで、FPでは、サーキットが不気味な静けさに包まれ、クルー全員がガレージの中で座ったままという時間帯がよくある。
F1チームがトラック走行時間の価値を重視していることを踏まえると、マシンを走らせるチャンスを最大限活用していないこのような時間帯は奇妙に思えるかもしれない。しかし、実は様々な条件が複雑に絡み合っており、チームは供給されるタイヤセット数、エンジンの消耗、さらには走行時のコンディションなどによって制限されている。
まず、エンジンについては簡潔に説明できる。各マシンが1シーズンで使用可能なコンポーネントは、エンジン3基 / ターボチャージャー3基 / MGU-H 3基 / バッテリーパック2基 / ECU 2基 / MGU-K 2基に制限されている。
そして当然ながら、各ユニットのマイレージ(使用距離)が蓄積するほど、トラブルやグリッド降格ペナルティ、あるいは最悪の場合レースでのリタイアの確率が高まっていく。正確な数値はともかく、各コンポーネントには想定耐用寿命があり、それを越えればトラブル発生率が飛躍的に跳ね上がる。すべてのGPのFPセッションで全力アタックしてマイレージを300kmカウントしていけば、想定耐用寿命をすぐに越えてしまう。
FPのチームを制限している2番目の問題がタイヤだ。各レースウィークエンドでマシン1台が使用できるドライタイヤは合計13セット。内訳は、決勝レースでの使用が義務付けられている2セット、Q3以前は使用できないコンパウンドが最も柔らかいタイヤ1セット、自由選択の10セットとなっている。
チームはピレリにタイヤセットを “返却”(実際はFPセッション中に配分データ表から消去するだけで、物理的に戻すわけではない)しなければならないため、FPが進むにつれてタイヤセット数は減少していく。天候やその他のトラブルを念頭に置き、チームはFP1開始40分で1セットを返却し、FP1終了時に別の1セットを返却するように定められている。また、FP2終了時とFP3終了時にも2セットずつ返却する。
FPでドライバーが全13セットを使用することはできないと定めるルールは存在しないが、3回のFPで消化するタイヤは返却が義務づけられている6セットに留め、残り7セットを新品状態のまま予選と決勝レース用にキープするのが定石となっている。この結果、チームがFPでタイヤを有効活用できる周回数は限られることになる。
チームがFPの開始から終了まで走行を続けない3番目の理由には、FP1開始40分後に返却が義務付けられているタイヤ1セット(チーム間では “FP140タイヤ” と呼ばれている)が関係している。
GP開催頻度が少ないサーキットや市街地サーキットなどでは特にそうだが、サーキットの路面状態はレースウィークエンドに入った直後が最も悪い。そのため、どこかのドライバーが先にコースインして掃除役を担ってくれることを全ドライバーが期待している。
レースウィークエンドが進むにつれ、サーキットの路面状態は徐々に “進化” していく。F1やサポートレースのマシンが走行することでレーシングライン上の埃が掃き出され、ブレーキングゾーンやコーナーの立ち上がり部分はラバーが重ねられてグリップが高くなっていく。マシンが周回を重ねていくだけで日曜日のラップタイムが金曜日午前より2秒も短縮するのは珍しくない。ちなみに、2秒はポールポジションとグリッド最後尾のタイム差に相当する。
このため、FP1開始直後の汚れていてグリップがないサーキットにいち早くコースインしたがるドライバーはいない。FP1開始直後の路面はコースアウトやマシンにダメージを与えるリスクが大きいばかりか、セッション後半のタイムの参考にもならない。
そして、FP1開始40分後に返却するFP140タイヤが存在する理由がここにある。このタイヤ(およびルール)は「タイヤセットを消化するか、無駄にするか」と各チームにコース走行を促し、観客にマシンの走行シーンを見せるために設存在する。
FP1
FPでの作業内容はチームによって異なるが、大半のチームが似通ったパターンで進めており、タイムの参考度が最も低いFP1を通常空力テストや新型パーツの確認、マシンの全体的なバランス調整などに充てている。
すべてのセッションが重要だと先述したばかりだが、計3回のFPセッションのうちFP1が最も重要度が低いと言って問題ないだろう。各チームがFP1でレギュラードライバーを下げ、若手ドライバーに走行機会を与えるケースが時折見られるのはこれが理由だ。
チームは冬季のテストプログラム(2020シーズンは6日間)のあとに現行マシンでインシーズンテストを行うことを認められていない。そのため、必要のあるテストはいずれもレースウィークエンドのFPセッション内で行われることになる。
FP1では、空気流をテストするために格子状の圧力タップを不恰好な角度であちこちに取り付けたマシンをよく見かける。また、“フロービズ” ペイントも頻繁に見られる。フロービズとはボディワークにスプレーされる薄い蛍光オイルを指し、マシンがガレージに戻ってきたあとに写真を撮影して空気流の状態をすぐに確認するためのものだ。これは現行ボディワークの研究目的で活用されているが、FP1で現行パーツと試作パーツを交互に装着して比較データを収集するケースもよく見られる。
これが、FP1のマシンが長時間ガレージで過ごしているもうひとつの理由と言える。フロントウイングは5秒もあれば交換できるが、異なるスペックのアンダーフロアやリアウイングなどの複雑な部分の交換には30分かかる場合もあるのだ。
ここまで紹介した作業の大半は、レースウィークエンドでの必要性よりも長期的な必要性から行われている。しかし、空力テストと並行して、各チームはマシンセットアップの最適化のためにもFP1を活用している。
各チームは過去のデータや直近のシミュレーター作業から導き出した “ベースライン” セットをサーキットへ持ち込んでいるが、これらには毎回最低限の微調整を加える必要がある。シミュレーターは特定の気温や風向きには対応できず、新たに舗装された路面やその沈下も読みきれないからだ。
どのようなアプローチで周回するのがベストなのかを見出すのはドライバーやそのレースエンジニア / パフォーマンスエンジニアたちの仕事であり、彼らは車高やロールバーの硬さを調整したり、マシンのメカニカルバランスを変更したりしている。
このようなセットアップ最適化作業が空力テストと同時進行するケースもあるため、決勝レースに向けたプロセスはFP1から始まっていると言える。
FP2
FP1の大半がマシン開発に充てられる一方、FP2では決勝レースに向けた準備により重点が置かれる。金曜日のFP1とFP2の間は “ランチブレイク” と喩えられているが、実際にはサンドイッチを流し込めればましな方だ。
FP1とFP2の合間では、エンジニアたちがデブリーフィングを行いながら、メカニックたちがマシンチェックや大掛かりなセットアップ変更作業に没頭していく。そしてFP2が始まれば、各チームは予選と決勝へ向けたマシンの最適化作業に集中する。
予選や決勝と同時間帯に用意されているFP2の価値は、予選や決勝に似た環境で走れるところにある。タイヤの挙動はコースの路面温度に応じて変化するため、予選・決勝と時間帯が同じFP2は当日のコンディションを想定するベストチャンスになる。
予選と決勝を見据えたFP2の重要性は、ナイトレース / トワイライトレースで最も顕著になる。バーレーンGPやアブダビGPでは日没後のマシンの挙動は完全に異なるものになるため、昼下がりの高温の中で行われるFP1とFP3はほとんど参考にならない。
FP2の典型的な作業パターンは、決勝での使用を予定している2種類のタイヤコンパウンドのテストだ。チームはまず硬いコンパウンドでの短めのランから始め、次に最も柔らかいコンパウンドに履き替えて短いランを行うことで予選ラップをシミュレーションする。通常、これらの予選シミュレーションランはセッション開始40分後を目安に実施される。ここではタイムが目まぐるしく更新され、全ドライバーがようやく予選ペースを見せ始める。
FP2の後半は、主に満タンに近い燃料を搭載した状態での走行に充てられる。FP2前半はタンクが軽い状態のマシンを走らせているため、ここでタンクに燃料を追加して100kg重くなったマシンのパフォーマンスを確認していく。
重いマシンのランは決勝前半のシミュレートになる。FP2の前半で記録した予選シミュレーションよりもタイムは最大で約6秒落ちるが、燃料が消費されていくにつれてラップタイムが縮まっていくため、FP2終了のチェッカーが振られるまで走行を続けるマシンも少なくない。このランではセッション前半で使用したタイヤを再利用することになる。それまでの数周はロングランでのパフォーマンスに大きく影響しないからだ。
ここで、マシン2台のメリットが発揮される。各チームは少なくとも2種類(時には3種類すべて)のタイヤコンパウンドを2台に振り分けたロングランができるからだ。FP2では、マシン1台がハードタイヤで15周走り、同じチームのもう1台がミディアムで15周走ったあと、両マシンがソフトに履き替えて10周走る様子が見られる時もある(コンパウンドの組み合わせはレースによって変動する)。
また、このようなロングランのスタートでフォーメーションラップをシミュレートするチームも少なくない。決勝レーススタート直前と同じように比較的スローペースで1周走ったあと、ピットレーンを通過して出口で一旦停止しからスタートを練習する。
ピットストップ練習と並んでスタート練習もFPを通じて重点的に行われているが、一部のサーキットではピットレーンの形状が不適切という理由からスタート練習が禁止されている。
FIAは、このようなサーキットでは各FPセッションの最後にグリッドでのスタート練習が行えるように規定しているので、各チームは1台をグリッドの左列からスタートさせ、もう1台を右列からスタートさせて、サーキットのクリーンサイドとダーティサイド(レーシングラインから外れているサイド)のグリップを確認している。
FP3
FP2とFP3の間には大きな動きがある。サーキットとファクトリーの両方で大量のデータが分析される一方、ガレージではマシンの分解とリビルトが進み、レース用ギアボックスが装着される。
各チームはギアボックス1基で6レースを戦わなければならないが、FPセッションでは使用が義務付けられていないため、レース用ギアボックスの消耗を避けるために金曜日はスペア用ギアボックスが使用されている。
また、クルーは、金曜日に使用したテスト用装備をすべて取り外さなければならない。金曜日は追加のセンサー類やカメラなどがマシンに装着されているが、これらはすべて土曜日に向けて取り外す必要がある。同時に、ワイヤリングルームも交換される。追加センサーをすべて搭載するためにマシンには合計5kg分のケーブルやコネクター類が収納されるが、マシンをレース仕様の重量にするためには邪魔になる。
FP3は、主に金曜日に下した判断の最終確認に費やされている。この時点のチームは予選と決勝に向けたマシンの方向性を決めているので、FP3はその方向性や判断が間違っていないことを確かめる時間になる。
FP3では、決勝のメインになるコンパウンドのタイヤを装着した状態でのセットアップを確認するショートランを数回行ったあと、予選シミュレーションを再度行うパターンが多い。これらが完了すると、マシンはチェックのためにガレージへ戻り、ドライバーとエンジニアたちは予選前のデブリーフィングセッションへ進む。
次にマシンがガレージから発進するのは、決勝のスタートポジションを決める予選セッションになる。
カテゴリー: F1 / F1マシン
決勝レースで優勝してシャンパンでびしょ濡れになったドライバーが、トロフィーを握りしめながらレースの内容ではなくレースウィークエンド全体について言及する場面は少なくない。
勝利とは日曜日の午後に突然降って湧くようなものではなく、その週末を通じて築き上げられていく。どれほどマシンが優れていて、どれほどドライバーのスキルが卓越していても、正しい準備ができていなければ決勝レースでの成功はほぼありえない。
チームにはレースウィークエンド全体を通じて取り組んでいる作業が存在し、パフォーマンスの大半がフリープラクティス(FP)セッションで見出されていく。「practice makes perfect(練習が完璧を生む)」という諺通りなのだ。
FPはいつ行われる?
通常のGPでは、レースウィークエンドで合計4時間のプラクティスが設けられている。各90分のFP1とFP2が金曜日に行われ(モナコGPでは木曜日)、60分のFP3が土曜日に行われる。
各セッションの時間帯は変動するが、すべてが連動している。通常、FP1終了からFP2開始までは2時間半の間隔が設けられており、FP3終了から予選開始までは2時間の間隔が設けられている。また、これも通常の場合だが、FP2開始時間は予選セッションおよび決勝レースと同時間帯に設定されている(詳しくは後述する)。
FPでの走行量は?
簡潔に回答するなら「ファンが期待しているほどの走行量ではない」だ。これはF1が長年抱える問題のひとつで、FPでは、サーキットが不気味な静けさに包まれ、クルー全員がガレージの中で座ったままという時間帯がよくある。
F1チームがトラック走行時間の価値を重視していることを踏まえると、マシンを走らせるチャンスを最大限活用していないこのような時間帯は奇妙に思えるかもしれない。しかし、実は様々な条件が複雑に絡み合っており、チームは供給されるタイヤセット数、エンジンの消耗、さらには走行時のコンディションなどによって制限されている。
まず、エンジンについては簡潔に説明できる。各マシンが1シーズンで使用可能なコンポーネントは、エンジン3基 / ターボチャージャー3基 / MGU-H 3基 / バッテリーパック2基 / ECU 2基 / MGU-K 2基に制限されている。
そして当然ながら、各ユニットのマイレージ(使用距離)が蓄積するほど、トラブルやグリッド降格ペナルティ、あるいは最悪の場合レースでのリタイアの確率が高まっていく。正確な数値はともかく、各コンポーネントには想定耐用寿命があり、それを越えればトラブル発生率が飛躍的に跳ね上がる。すべてのGPのFPセッションで全力アタックしてマイレージを300kmカウントしていけば、想定耐用寿命をすぐに越えてしまう。
FPのチームを制限している2番目の問題がタイヤだ。各レースウィークエンドでマシン1台が使用できるドライタイヤは合計13セット。内訳は、決勝レースでの使用が義務付けられている2セット、Q3以前は使用できないコンパウンドが最も柔らかいタイヤ1セット、自由選択の10セットとなっている。
チームはピレリにタイヤセットを “返却”(実際はFPセッション中に配分データ表から消去するだけで、物理的に戻すわけではない)しなければならないため、FPが進むにつれてタイヤセット数は減少していく。天候やその他のトラブルを念頭に置き、チームはFP1開始40分で1セットを返却し、FP1終了時に別の1セットを返却するように定められている。また、FP2終了時とFP3終了時にも2セットずつ返却する。
FPでドライバーが全13セットを使用することはできないと定めるルールは存在しないが、3回のFPで消化するタイヤは返却が義務づけられている6セットに留め、残り7セットを新品状態のまま予選と決勝レース用にキープするのが定石となっている。この結果、チームがFPでタイヤを有効活用できる周回数は限られることになる。
チームがFPの開始から終了まで走行を続けない3番目の理由には、FP1開始40分後に返却が義務付けられているタイヤ1セット(チーム間では “FP140タイヤ” と呼ばれている)が関係している。
GP開催頻度が少ないサーキットや市街地サーキットなどでは特にそうだが、サーキットの路面状態はレースウィークエンドに入った直後が最も悪い。そのため、どこかのドライバーが先にコースインして掃除役を担ってくれることを全ドライバーが期待している。
レースウィークエンドが進むにつれ、サーキットの路面状態は徐々に “進化” していく。F1やサポートレースのマシンが走行することでレーシングライン上の埃が掃き出され、ブレーキングゾーンやコーナーの立ち上がり部分はラバーが重ねられてグリップが高くなっていく。マシンが周回を重ねていくだけで日曜日のラップタイムが金曜日午前より2秒も短縮するのは珍しくない。ちなみに、2秒はポールポジションとグリッド最後尾のタイム差に相当する。
このため、FP1開始直後の汚れていてグリップがないサーキットにいち早くコースインしたがるドライバーはいない。FP1開始直後の路面はコースアウトやマシンにダメージを与えるリスクが大きいばかりか、セッション後半のタイムの参考にもならない。
そして、FP1開始40分後に返却するFP140タイヤが存在する理由がここにある。このタイヤ(およびルール)は「タイヤセットを消化するか、無駄にするか」と各チームにコース走行を促し、観客にマシンの走行シーンを見せるために設存在する。
FP1
FPでの作業内容はチームによって異なるが、大半のチームが似通ったパターンで進めており、タイムの参考度が最も低いFP1を通常空力テストや新型パーツの確認、マシンの全体的なバランス調整などに充てている。
すべてのセッションが重要だと先述したばかりだが、計3回のFPセッションのうちFP1が最も重要度が低いと言って問題ないだろう。各チームがFP1でレギュラードライバーを下げ、若手ドライバーに走行機会を与えるケースが時折見られるのはこれが理由だ。
チームは冬季のテストプログラム(2020シーズンは6日間)のあとに現行マシンでインシーズンテストを行うことを認められていない。そのため、必要のあるテストはいずれもレースウィークエンドのFPセッション内で行われることになる。
FP1では、空気流をテストするために格子状の圧力タップを不恰好な角度であちこちに取り付けたマシンをよく見かける。また、“フロービズ” ペイントも頻繁に見られる。フロービズとはボディワークにスプレーされる薄い蛍光オイルを指し、マシンがガレージに戻ってきたあとに写真を撮影して空気流の状態をすぐに確認するためのものだ。これは現行ボディワークの研究目的で活用されているが、FP1で現行パーツと試作パーツを交互に装着して比較データを収集するケースもよく見られる。
これが、FP1のマシンが長時間ガレージで過ごしているもうひとつの理由と言える。フロントウイングは5秒もあれば交換できるが、異なるスペックのアンダーフロアやリアウイングなどの複雑な部分の交換には30分かかる場合もあるのだ。
ここまで紹介した作業の大半は、レースウィークエンドでの必要性よりも長期的な必要性から行われている。しかし、空力テストと並行して、各チームはマシンセットアップの最適化のためにもFP1を活用している。
各チームは過去のデータや直近のシミュレーター作業から導き出した “ベースライン” セットをサーキットへ持ち込んでいるが、これらには毎回最低限の微調整を加える必要がある。シミュレーターは特定の気温や風向きには対応できず、新たに舗装された路面やその沈下も読みきれないからだ。
どのようなアプローチで周回するのがベストなのかを見出すのはドライバーやそのレースエンジニア / パフォーマンスエンジニアたちの仕事であり、彼らは車高やロールバーの硬さを調整したり、マシンのメカニカルバランスを変更したりしている。
このようなセットアップ最適化作業が空力テストと同時進行するケースもあるため、決勝レースに向けたプロセスはFP1から始まっていると言える。
FP2
FP1の大半がマシン開発に充てられる一方、FP2では決勝レースに向けた準備により重点が置かれる。金曜日のFP1とFP2の間は “ランチブレイク” と喩えられているが、実際にはサンドイッチを流し込めればましな方だ。
FP1とFP2の合間では、エンジニアたちがデブリーフィングを行いながら、メカニックたちがマシンチェックや大掛かりなセットアップ変更作業に没頭していく。そしてFP2が始まれば、各チームは予選と決勝へ向けたマシンの最適化作業に集中する。
予選や決勝と同時間帯に用意されているFP2の価値は、予選や決勝に似た環境で走れるところにある。タイヤの挙動はコースの路面温度に応じて変化するため、予選・決勝と時間帯が同じFP2は当日のコンディションを想定するベストチャンスになる。
予選と決勝を見据えたFP2の重要性は、ナイトレース / トワイライトレースで最も顕著になる。バーレーンGPやアブダビGPでは日没後のマシンの挙動は完全に異なるものになるため、昼下がりの高温の中で行われるFP1とFP3はほとんど参考にならない。
FP2の典型的な作業パターンは、決勝での使用を予定している2種類のタイヤコンパウンドのテストだ。チームはまず硬いコンパウンドでの短めのランから始め、次に最も柔らかいコンパウンドに履き替えて短いランを行うことで予選ラップをシミュレーションする。通常、これらの予選シミュレーションランはセッション開始40分後を目安に実施される。ここではタイムが目まぐるしく更新され、全ドライバーがようやく予選ペースを見せ始める。
FP2の後半は、主に満タンに近い燃料を搭載した状態での走行に充てられる。FP2前半はタンクが軽い状態のマシンを走らせているため、ここでタンクに燃料を追加して100kg重くなったマシンのパフォーマンスを確認していく。
重いマシンのランは決勝前半のシミュレートになる。FP2の前半で記録した予選シミュレーションよりもタイムは最大で約6秒落ちるが、燃料が消費されていくにつれてラップタイムが縮まっていくため、FP2終了のチェッカーが振られるまで走行を続けるマシンも少なくない。このランではセッション前半で使用したタイヤを再利用することになる。それまでの数周はロングランでのパフォーマンスに大きく影響しないからだ。
ここで、マシン2台のメリットが発揮される。各チームは少なくとも2種類(時には3種類すべて)のタイヤコンパウンドを2台に振り分けたロングランができるからだ。FP2では、マシン1台がハードタイヤで15周走り、同じチームのもう1台がミディアムで15周走ったあと、両マシンがソフトに履き替えて10周走る様子が見られる時もある(コンパウンドの組み合わせはレースによって変動する)。
また、このようなロングランのスタートでフォーメーションラップをシミュレートするチームも少なくない。決勝レーススタート直前と同じように比較的スローペースで1周走ったあと、ピットレーンを通過して出口で一旦停止しからスタートを練習する。
ピットストップ練習と並んでスタート練習もFPを通じて重点的に行われているが、一部のサーキットではピットレーンの形状が不適切という理由からスタート練習が禁止されている。
FIAは、このようなサーキットでは各FPセッションの最後にグリッドでのスタート練習が行えるように規定しているので、各チームは1台をグリッドの左列からスタートさせ、もう1台を右列からスタートさせて、サーキットのクリーンサイドとダーティサイド(レーシングラインから外れているサイド)のグリップを確認している。
FP3
FP2とFP3の間には大きな動きがある。サーキットとファクトリーの両方で大量のデータが分析される一方、ガレージではマシンの分解とリビルトが進み、レース用ギアボックスが装着される。
各チームはギアボックス1基で6レースを戦わなければならないが、FPセッションでは使用が義務付けられていないため、レース用ギアボックスの消耗を避けるために金曜日はスペア用ギアボックスが使用されている。
また、クルーは、金曜日に使用したテスト用装備をすべて取り外さなければならない。金曜日は追加のセンサー類やカメラなどがマシンに装着されているが、これらはすべて土曜日に向けて取り外す必要がある。同時に、ワイヤリングルームも交換される。追加センサーをすべて搭載するためにマシンには合計5kg分のケーブルやコネクター類が収納されるが、マシンをレース仕様の重量にするためには邪魔になる。
FP3は、主に金曜日に下した判断の最終確認に費やされている。この時点のチームは予選と決勝に向けたマシンの方向性を決めているので、FP3はその方向性や判断が間違っていないことを確かめる時間になる。
FP3では、決勝のメインになるコンパウンドのタイヤを装着した状態でのセットアップを確認するショートランを数回行ったあと、予選シミュレーションを再度行うパターンが多い。これらが完了すると、マシンはチェックのためにガレージへ戻り、ドライバーとエンジニアたちは予選前のデブリーフィングセッションへ進む。
次にマシンがガレージから発進するのは、決勝のスタートポジションを決める予選セッションになる。
カテゴリー: F1 / F1マシン