F1ベルギーGP:記者会見 Part.2 - ハミルトン、アントネッリ、サインツ

登壇したのは今季フェラーリに加入したルイス・ハミルトン、メルセデスのルーキー、キミ・アントネッリ、そしてウィリアムズで新たな挑戦を続けるカルロス・サインツの3名。各ドライバーが前半戦の自己評価や、所属チームでの苦労、新レギュレーションへの見解など、多岐にわたるテーマについて語った。
特に注目を集めたのは、ハミルトンが語るフェラーリ内での積極的な提言や、アントネッリの将来を巡る契約問題、サインツが古巣フェラーリ時代に共に働いたローラン・メキースのレッドブル新代表就任に対するコメントだった。また、3人は2026年の新技術規定に向けた適応の難しさや、現代F1のレース環境における心身の負荷にも言及し、舞台裏でのリアルな姿を明かしている。
Q:カルロス、とても準備万端に見えますね。ではまずあなたから始めましょう。シーズンの折り返し地点に来ましたが、あなた自身とウィリアムズについて通信簿を書くとしたら、どう評価しますか?
カルロス・サインツ: うーん、難しい質問だけど……アップダウンがあったって書くかな。正直、フラストレーションの多い前半だった。クルマに十分な速さがあると感じてるし、チームにもすぐに順応できた。シーズン序盤からスピードはあったと思うけど、結果を2つ連続で出すのが本当に難しかった。信頼性の問題があったり、他のドライバーとの接触があったり、オーストリアではスタートすらできなかったり。Q1でトラフィックに引っかかったり、戦略ミスもいくつかあった。だから、結果という面では何一つ噛み合ってない。でも、その中にもスピードはあったし、正しい方向に進んでる手応えはある。ただ、結果がついてこないときって、やっぱりもどかしいんだよね。
Q:ウィリアムズというチームについて特に適応が難しかった点は?
サインツ: いろいろな要素があるけど、やっぱりミッドフィールドに戻ってきたことの難しさかな。Q1で何度か、ほんの10ミリ秒差で落ちたことがあるけど、その10ミリ秒が週末全体を左右する。トップ3やトップ4のクルマなら後方スタートでも挽回できるけど、中団ではみんなレースペースが似てるから、追い上げは相当難しい。あと、フェラーリとはまったく違うクルマだってこと。制限やドライビングスタイル、求められるセットアップがまるで違う。でもその部分には割とすぐ慣れたと思う。それよりも、エンジニアやチーム、戦略面の意思決定におけるコミュニケーション、どうやって正しい判断にたどり着くか……そういった部分に慣れるには少し時間が必要だったかな。
Q:キミ、ではあなたにも同じ質問を。前半戦を振り返って、自分とメルセデスにどんな評価をしますか?
キミ・アントネッリ: チャレンジングだった。いい瞬間もあったけど、落ち込むことの方が多かったと思う。ヨーロッパラウンドは正直うまくいかなかった。自分のミスもあったし、いくつか問題もあった。まだまだ学ぶことが多いし、情報を整理して身につけるのが難しい時もある。特に連戦になると、週末ごとの学びをすぐに次に活かすのが大変で……そこが難しかった。予選も課題のひとつだね。最後の数テン分を詰めるところで、まだ思ったように合わせ込めてない。でも、全体としてはポジティブだと思う。たくさん学んでるし、いい結果もいくつか出せた。後半戦では、自分の中で一歩上の安定感を見つけることが重要かな。
Q:これまで17週間で12戦という過密日程でしたが、F1のスケジュールに順応するのは大変でしたか?
アントネッリ: うん、やっぱりリズムがすごく速かったと思う。特にトリプルヘッダーのあとなんかは、どうやって自分のエネルギーを管理するかを見直さないといけなかった。どこでリカバリーして、どこで集中するか。そういう精神面のマネジメントが必要だってことも学んだよ。今は後半戦に向けて、より明確なビジョンと準備があると思う。
Q:ルイス、ようこそ。今週末のフェラーリには注目が集まっています。先週ムジェロで新パーツのテストをしたそうですが、クルマの感触はどうでしたか?
ルイス・ハミルトン: テストじゃないよ。あれはただのフォトシュート。10周か14周くらい走っただけで、撮影用の走行だった。テストじゃない。
Q:なるほど。ただ、その10周でも何かフィーリングの変化は感じましたか?
ハミルトン: 前と同じだったよ。数週間前と変わらなかった。
Q:オーストリアでは新しいフロアが導入され、今週は新しいサスペンションも入っています。今週末はこのクルマの真のポテンシャルが見える週末になりそうですか?
ハミルトン: いや、どうかな。まずは明日、そのサスペンションを試すことになるけど、そこから何か学べると思う。微調整して、そこから性能を引き出せるかどうか試していく。シミュレーターでは違いは特に感じなかったけど、サーキットによっては何かしらメリットがあるかもしれない。ただ個人的には、ムジェロで“新しいパーツが届いた”という事実がポジティブだった。バーレーンでフロアを一度アップグレードしてから、しばらく何もなかった。次がオーストリアだったと思うけど、期待したほどじゃなかった。レッドブルとかメルセデスは、毎週のように小さなパーツを持ち込んでるよね。でもうちは大きな改良を段階的にやってるから、そういう意味でも今回の新パーツは嬉しかった。ファクトリーが懸命に開発を進めてくれてるのが見えた。あとはその効果が結果として現れるのを待つだけだね。今週末にそれを試してみる。
記者からの質問
Q:キミ、契約交渉や発表のタイミングについてですが、夏休み前は発表が多くなる時期です。現在の進捗はどうですか?トトはあなたとジョージのラインアップになる可能性が高いと話していますが、自分の契約年数に関して発言権はありますか?
アントネッリ: それは100万ドルの質問だね。
Q:(笑)それが報酬額ってこと?
ハミルトン: 契約交渉、手伝ってやろうか?トトの扱い方なら知ってるよ。
アントネッリ: はは、ありがとう(笑)。でも、正直、不安に思ったことはないよ。自分の状況はわかってるし、チームが何を望んでいるのか、将来をどう見ているのかも理解してる。トトも最近そのことをはっきり話してくれてるし、それも嬉しかった。チームはうまく機能してるし、ジョージとのコンビネーションもうまくいってる。ふたりでチームのパフォーマンスを引き出そうと努力してるし、雰囲気もすごく良い。ファクトリーに戻っても、みんなが今年だけじゃなく来年以降も見据えて努力してるのが伝わってくる。すごくいいダイナミクスがあるんだ。来年に向けてチームが何がベストかは分かってると思うし、自分としても良い立場にいると思ってるよ。
Q:カルロス、ローラン・メキースとはフェラーリで共に働いていましたね。彼がレッドブルの新チーム代表に就任しましたが、彼が何をチームにもたらすと思いますか?
カルロス・サインツ: 彼は非常に優秀なプロフェッショナルだと思ってる。フェラーリで一緒に仕事したとき、彼はとにかくハードワークしていたし、ドライバーのことをすごくよく理解してくれた。ドライバーとのコミュニケーション能力が特別なんだ。それはドライバーにとってすごく心地いいし、信頼できる関係を築ける。FIA、フェラーリ、ビザ・キャッシュアップRBを経て、今レッドブルに来るわけだけど、F1トップチームを率いる経験と資質は十分あると思う。本当にぴったりの人選だと思うよ。彼にとっても素晴らしいチャンスだし、そのポジションにふさわしい人材だと思う。
Q:ルイス、あなたはマクラーレン時代からクリスチャン・ホーナー率いるレッドブルと戦ってきました。彼が突然チームを去ったことには驚きましたか?そして彼の退任によってチームは変化に時間がかかると思いますか?
ハミルトン: 前の質問をちゃんとは聞いてなかったけど、僕はレース週末以外は基本的にF1の話題にはあまり注意を払ってないんだ。だから驚いたわけでも、驚かなかったわけでもない。自分のことに集中してる。チームのCEOや責任者が交代すれば、その人のやり方や方針で変化があるのは当然だし、それには時間がかかるものさ。
Q:ルイス、フォトシュート以外の期間はファクトリーにいましたか?F1のオフ期間には何をしていましたか?
ハミルトン: 2週間にわたってファクトリーにいたよ。毎週何日かずつね。前のレースの振り返りや、変えるべきことについての準備をしていた。僕は多くのミーティングを主導してる。チーム幹部を集めて何度も話をした。ジョン・ベネデットやフレッド、それにロイックとも何度も会ってる。エンジン、フロントサスペンション、リアサスペンション、今のクルマでの問題点、来年のマシンに持ち越したいこと、改善すべき点……そういう内容を全部まとめて、書面にして送ってる。最初の数戦のあとにも1通送っていて、今回の休み中にも2通目を送った。構造的に改善すべき点と、現行マシンの技術的な内容が主だね。あと、2026年マシンの開発も始めた。初めて試したよ。エンジニア30人くらいが部屋に集まって、全員と一緒にブリーフィングする。すごく大きな取り組みだ。それ以外はトレーニングに励んでた。ちょっとハードにやりすぎたかもしれない。今週末は少し身体が重い(笑)。
Q:カルロス、今季ウィリアムズは中団の他チームほど多くのアップグレードを投入しない方針をかなり早い段階で決めました。その影響もあって、過去5戦で最もポイントが少ないチームになっています。これは特定のレースが影響しただけですか? それとも懸念すべき傾向ですか?
サインツ: F1に“秘密”なんてないよ。シーズン中にあまりアップグレードを投入しないっていう決断をチームがした以上、いつかは後れを取ることになる。それがF1ってものだからね。中団チームだって常に何かしら持ち込んでくる。3~4戦ごとにパッケージを入れてきたりする。ウィリアムズもシーズン序盤にフロントウイング関連のアップデートを入れたけど、正直それ以降はほとんど何も持ってきてない。でもそれも想定済み。来年に向けた判断としては正しいと今も信じてるし、我々はそのプロセスを信じてる。実際、来年のマシンに向けてかなり大きな開発をしているし、もうすでに何回かシミュレーターでも走らせてる。デブリーフでも、今年の話よりも来年の話をしてるくらいだよ。今季レース中でもね。
一番悔しいのは、マイアミとかイモラみたいにクルマがすごく速かったレースで、両方ともトップ5を狙えたのに、それを逃したことだ。実際、あの2戦では終始トップ5圏内にいたしね。そこでコントロール外のトラブルがあったことで、20〜30ポイントは失ってる。もしそれが取れてたら、選手権でもう少し余裕があったはず。今は少し競争力を失っているけど、それでも少しでもポイントを拾っていかなきゃならない。以前みたいにP5やP4は難しいかもしれないけど、P10やP8あたりは狙えるし、それが今の選手権には大事なんだ。
Q:カルロス、できればルイスにもお聞きしたいのですが……アレックス・アルボンが今朝、2026年マシンをシミュレーターでテストしたと話していて、すごく複雑でドライバーにとって考えることが多いと言っていました。ドライバー目線で、2026年の技術規則はどれくらい違ってくると思いますか?
サインツ: めちゃくちゃ複雑。走りながら、頭をすごく使う感じだよ。ただ、ルイスも経験あると思うけど、2013年から2014年の大きなレギュレーション変更──V8からV6ハイブリッドに変わったときも、バッテリーの使い方とか管理がすごく複雑になった。でも最初はみんな驚いたけど、結局慣れるんだよね。今はそれが“普通”になってるし。たぶん2026年も同じで、最初は「なんだこれ!?」って思うことばかりだろうけど、何戦かすれば慣れてくる。それが“新しい普通”になる。問題は、その“新しい普通”が“前の普通”より良いのかってところ。それはみんなが意見を言いたいところだと思うけど、僕らドライバーとしては、与えられたものに適応するしかない。1周で6~7回スイッチ切り替えろって言われたら、やるだけ。そうやって上達してきたから。
Q:ルイス、あなたがシミュレーターで走った2026年マシンについての印象は?
ハミルトン: 僕がF1で好きなのは、こうやってレギュレーションが変わることで技術革新や開発が進むことなんだ。チーム全体にとって、毎回の変化が大きな学びになる。それが僕らを本気で追い込んでくれるし、創造力も必要になる。ドライバーとしても、年を追うごとに操作はどんどん複雑になってる。カルロスが言ったように、今回の変化では特にパワーユニットの使い方や設計面で、ドライバーが関与する部分が大きくなってると思う。結論を急ぐつもりはないけど、うまくいくかもしれないし、逆にそうじゃないかもしれない。実際に走ってみなきゃ分からない。今僕が面白いと思ってるのは、今年のマシンを戦わせながら、同時に来年・再来年のマシンも開発してるってこと。それが楽しい。もしずっと同じマシンで、少しずつしか変化しない世界だったら、全然面白くないよ。
Q:ルイス、今週末は新しいサスペンションを搭載していますが、スプリント週末で天候も不安定な中、そういった新パーツを最適化するのはどれくらい難しいですか?
ハミルトン: ものすごく難しいよ。時間がないから、情報は2台分で最大限に集める必要がある。全セッションをしっかり走ることも重要だ。もしウェットなら、むしろ学びにはなるけど、ファインチューニングという意味では、今週末だけで最適化しきるのはたぶん無理。何戦かかけて最適化していくことになると思う。
Q:ルイス、前戦であなたはレッドブルを「素晴らしいチーム」と評していましたが、ホーナー退任によってそのチームにどんな影響があると思いますか? あなたにとっては、ある種ひとつの時代の終わりと感じますか?
ハミルトン: 僕の人生には何も影響はないよ(笑)。でもまあ……彼のキャリアの歩みを見ると、確かに素晴らしかったと思う。最初に彼と話したのは2005年頃かな? 彼がアーデンの代表で、僕はまだF3からGP2に上がるタイミングで、彼のオフィスで会った記憶がある。正直、最初の印象はあまり合わなかったけどね(笑)。でも、それ以降の彼のキャリアの進展は本当に見事だった。あれだけの大きな組織をまとめて成功させるには、才能と手腕が必要だし、それを彼は持っていたと思う。だから、今後の幸運を祈ってる。
Q:カルロス、「High Performance Podcast」であなたは2024年の苦しいシーズンやフェラーリ内の政治的な話にも触れていました。F1というスポーツそのものに対して、何かフラストレーションを感じていますか?また、個人やチーム、スポーツ全体にとって改善すべき点は?
サインツ: いや、F1に対してフラストレーションは全くないよ。F1が大好きだ。確かに、僕らは年間通してたくさんのインタビューを受ける。その中には、もっと深く話せるようなフォーマットもある。「この場」みたいな短い取材では、10分かけて何かを説明したりはできない。だからこそ、ポッドキャストみたいなフォーマットは好きだ。自分の思いをじっくり話せるし、メンタル面やトレーニング、私生活のことも含めて、若い世代や他のアスリートに何か伝えられることがあると思ってる。F1の中で僕らも感情のジェットコースターを経験しているし、それを少しでもシェアできたらいいと思う。F1に対してネガティブな気持ちは一切ない。クルマに乗るたびに楽しいし、これまで在籍してきたチームには友人もたくさんいる。素晴らしい人たちと出会えたし、スパでレースできることが本当に楽しみだよ。
Q:ルイス、先ほどフェラーリに対していくつか文書を送ったと話していましたが、なぜそのような行動を取ったのでしょうか?そして、チームの反応はどうでしたか? 彼らはその提案に応えてくれましたか?
ハミルトン: 僕がそれをやる理由は、このチームにはとてつもないポテンシャルがあると感じているからなんだ。情熱の面では他に比べるものがない。でも同時に、チームはすごく大きな組織で、いろんな部分がちゃんと機能しているわけじゃない。だからこそ、ここ20年でこれだけの素晴らしいドライバー──キミ、フェルナンド、セバスチャンといったチャンピオンたち──がいながら、チームはタイトルを取れていない。
僕はその状況を自分の身にも起こさせたくない。だから、全力で動いている。これまで2つの素晴らしいチームで経験を積んできたおかげで、比較対象がある。その中で、何かを変えなきゃ結果も変わらないと気づいた。だから、すべての分野において疑問を投げかけている。経営陣にも、現場にも。で、チームの反応はというと、すごく前向きだった。マーケティング面やスポンサー対応、エンジニアの働き方など、いろんな分野で改善が進んでる。まだ課題は多いけどね。僕がやっているのは、チームの中で仲間を増やして、みんなの士気を上げて、一丸となって前進すること。僕にはあまり時間が残されてない。この若者(キミ)ほどにはね(笑)。だから、今が勝負なんだ。このチームには世界選手権をいくつも勝てるだけの力があると本気で信じてる。すでに素晴らしい歴史があるけど、僕が在籍している間にそれを実現したい。それが唯一の目標だ。
カテゴリー: F1 / F1ベルギーGP / F1ドライバー