F1アブダビGP決勝 展開:マックス・フェルスタッペンが優勝 角田裕毅は14位

レース序盤からピアストリがハードタイヤで驚異のオーバーテイクを見せ、ノリスは背後のルクレールとアロンソの圧力を受け続けた。中盤以降はフェルスタッペン、ピアストリ、ノリスの戦略が分岐し、角田裕毅の防衛走行やスチュワードの判定も絡んで状況はさらに混迷。終盤のピット戦略とトラフィック処理が勝敗を大きく左右するなか、ノリスは必要なポジションを守り抜き、ついにF1史に名を刻んだ。
タイトル決戦の幕開けと序盤の攻防
23戦にわたるアクション満載のシーズンと数々の波乱を経て、すべてはこの瞬間に収束した。2025年F1ドライバーズ選手権をかけて3人のドライバーが争い、残る58周でタイトルがノリス、フェルスタッペン、ピアストリの誰に渡るのかが決まることになった。
ノリスはフェルスタッペンに12ポイント、さらにピアストリに4ポイントの差をつけて週末を迎えたが、ポールポジションを奪って主導権を握ったのはレッドブルのフェルスタッペンだった。予選でマクラーレンの2台を退けたのだ。
これにより決勝日は何とも魅力的な展開が待ち受け、午後の時間が進むにつれて緊張と興奮、そして期待が高まっていった。日が沈み、ヤス・マリーナ・サーキットのフラッドライトが灯り、極めて重要なレーススタートの瞬間が近づく。
グリッドにマシンが並び、ワンストップが予想されていた中で、大半のドライバーがミディアムタイヤでスタートすることが明らかになった。ピアストリ、角田、アントネッリ、ストロールはハード、ハミルトン、アルボン、ヒュルケンベルグはソフトを選択した。
いくつかの緊張の瞬間を経て、ついにシグナルがブラックアウト。フェルスタッペンは力強いスタートを切り、ノリスとピアストリの前でポールポジションを守った。4番手5番手ではルクレールとアロンソが激しく争い、ラッセルは6番手に後退した。
ラップ半ば、ピアストリは今季の中でも屈指のオーバーテイクを決めた。チームメイトであるノリスの外側からターン9で大胆に仕掛け、ハードタイヤを履いていながら成し遂げたのだ。マクラーレンのピットウォールの心拍数は確実に跳ね上がったに違いない。
ノリスは依然としてタイトル獲得に必要な位置とポイントをキープしていたが、背後にはルクレールとアロンソが迫っていた。4周目、ルクレールはDRSを使ってターン9で仕掛けたが、あと一歩届かなかった。
ラッセルはスタートで大量のホイールスピンを喫し苦戦、“ブレーキペダルが長い”と報告したが、それでもターン6/7のシケインでアロンソを抜き返して5番手を奪い返した。その後方では、ボルトレトが7番手を守り、ハジャー、オコンが続き、角田がトップ10を締めていた。
中盤:戦略の分岐とペナルティの応酬
一方で、コラピントはスタート手順違反で審議対象となり、またハミルトンとアルボン、アントネッリとストロールもミッドフィールドでの戦いについて調査対象となった。後者はコース外走行とアドバンテージ獲得に関するものだった。
「今は良いペースだ、マックス。このまま行けるかもしれない。だから状況をしっかり管理してくれ」──レースリーダーのフェルスタッペンにはこんな無線が送られた。この直後、ヒュルケンベルグが最初のピットインを行い、ソフトからハードに交換した。
2025年アブダビGP:ポールシッターのフェルスタッペンがレーススタートでノリスの前に留まる。
レースが2桁周回に到達すると、ピアストリはエンジニアから「フェルスタッペンを追ってほしい。そうすればノリスにクリーンエアを与えられる」と急かされる。ノリスにもその無線は伝えられており、ルクレールとの1秒差のDRS圏から危うく抜け出す状況だった。
この時点で、ガスリーとヒュルケンベルグのインシデントは調査され“不問”となり、ローソンとベアマンは不規則なドライビングの疑いでスチュワードにより調査対象となった。ニュージーランド人のローソンには後に5秒ペナルティが科された。
続いてラッセル、ハジャー、ベアマンがピットインし、ミディアムからハードへ交換。フェラーリとマクラーレンはルクレールとノリスをすぐに呼ぶべきか? マクラーレンのメカニックは一度ピットレーンに出てきたものの、その後ガレージへ戻った。
「ルクレールとの差を広げ続けて。選択肢が増える」──次のノリスへの無線だ。そして16周目終わり、ノリスがピットイン。ルクレールとアロンソもこれに続いた。重要なのは、ノリスがラッセルの前でコースに戻れたことだった。しかし、前には多くの未ピット車両が待ち構えていた。
フェルスタッペンとピアストリは(より耐久性の高いタイヤを履くピアストリは当然として)そのまま走行を続け、両者の差は2秒弱だった。「オスカー、プランAは可能だと思うか?」との無線に、ピアストリは「今のところできると思う」と応えた。
トップ2が前進する一方で、ノリスは未ピットのマシンを次々と攻略しなければならなかった。アントネッリ、ストロール、ローソンに果敢に挑み、クリアエアを取り戻していった。少し後方では、ルクレールがラッセルとの戦いでブレーキング中の動きで調査対象となったが、両者はノリスのようにトラフィックを切り裂こうとしていた。
次にノリスの前に立ちはだかるのは、レッドブルを離脱する角田だった。「1周以内にノリスがDRS圏に入る予想だ。来たら出来る限り抑えてくれ」とチームから角田へ無線が飛ぶ。「分かってる。任せてくれ」と角田は応じた。
23周目、ノリスがDRS圏に入り、角田はターン6/7へ向かうストレートでノリスをほぼ芝生に押し出す勢いで抵抗した。しかしノリスは落ち着いてブレーキングし、オーバーテイクを成功させ、タイトルへ大きく前進した。
しかし直後、さらなる緊張が走る。スチュワードが角田の“ノリスをコース外へ押し出した疑い”、そして“ノリスがコース外走行でアドバンテージを得た疑い”を調査すると発表したのだ。
その1周後、レースリーダーのフェルスタッペンがピットインし、ミディアムをハードへ交換。これによりピアストリがトップに立った。ノリスは続く周回でファステストラップを並べ、ルクレールとの差を2秒に増やした。
スチュワードの判断はすぐに下り、角田にはウィービングのため5秒ペナルティ、ノリスのオーバーテイクについては“不問”。これはノリスのタイトル争いにとって大きな追い風となった。
「ペナルティ?! なんのペナルティだよ、兄弟?!」角田は無線でこう叫んだ。その一方で、ルクレールとラッセルの先ほどのターン9での争いも“不問”とされた。
33周を終えた時点で、未だピットインしていないピアストリがフェルスタッペンに11秒差でトップを走行し、さらに5秒差でノリス、ルクレール、ラッセル、ストロール(こちらも未ピット)、アロンソ、ボルトレト、オコン、ヒュルケンベルグと続き、ヒュルケンベルグの背後にはベアマンがポイント圏内を争っていた。
ウィリアムズ勢は静かなレースとなり、サインツとアルボンが12、13番手。早めに止まったハジャー、アルピーヌ勢のガスリーとコラピント、2ストップに移行したハミルトン、ペナルティを受けた角田、ローソン、アントネッリが続いた。
「リアが少し悪化してきた」とピアストリが無線で伝える頃、フェルスタッペンとの差は6秒まで縮まり、ノリスとルクレールも急速に接近してきた。
終盤:タイトルの行方と運命のチェッカー
40周目、ピアストリが前を走る中で、ルクレールは2度目のピットストップを行いミディアムに交換。これをカバーするように、ノリスも次の周にピットインし、ハードを装着した。後方では、アルボンがピットでのスピード違反で5秒ペナルティを受けた。
その直後、フェルスタッペンはピアストリのDRS圏に入り、バックストレートで難なく追い抜いた。その数コーナー後、ピアストリはついにピットインし、残り周回に向けてミディアムを装着した。
ピアストリには「フェルスタッペンを追え」と無線が飛んだが、時すでに遅く、差は24秒。ピアストリは残り周回でその半分程度を削ったものの、トップ2は既に確定的だった。焦点は再びノリスへと戻る。
序盤にルクレールから受けていたプレッシャーをしのぎ切ったノリスは、より快適な差を築いており、両者の間には5秒以上の差が広がっていた。つまりノリスがやるべきことは、この状況を最後まで維持することだけだった。
そしてノリスはその役目を見事に果たした。フェルスタッペンがシーズン最後の勝利を飾った15秒あまり後、ノリスは3位でチェッカーを受け、必要なポイントを獲得。ついにF1史に自身の名を刻んだ。
ルクレールは4位でトップ3を追い、ラッセル、アロンソが続いた。後方ではオコンがハミルトンを激しいバトルの末にかわして7位に入り、ヒュルケンベルグが9位、ストロールが最終ポイントを獲得した。ストロールはサインツに対する不規則なドライビングでペナルティを受けていたが、それでもポイント圏に残った。
ボルトレトは11位で惜しくもポイントを逃し、ベアマンは終盤ストロールとのバトルで複数回の進路変更を行ったとしてペナルティを受け、9位から12位に後退した。サインツは13位、角田はペナルティもあり14位に終わった。
アルボンはノリス、ルクレール、ハミルトン、ヒュルケンベルグと同じく2ストップを選んだが、結局アントネッリの後ろ16位でフィニッシュ。レーシングブルズ勢は困難なレースとなり、2026年にレッドブルへ昇格するハジャーとローソンが17位、18位に沈んだ。
ガスリーは複数回のトラックリミット超過で5秒ペナルティを受けたが、大勢に影響はなく、チームメイトのコラピントにラップ遅れをつけ19位で完走。アルピーヌにとっては忘れたい1年の締めくくりとなった。
2025年のレースを終え、ドライバーたちが最後のピットへ戻る中、ひときわ輝いていた男がいた──ノリスだ。彼はメインストレートでドーナツターンを披露し、マシンの上に登って観客の歓声を浴び、長い旅路の成果を噛みしめていた。
「うわ…しばらく泣いてなかったのに」とノリスは語った。「泣くとは思わなかったけど、泣いた。長い旅だった。まず僕のチームのみんな、マクラーレンのみんな、両親に大きな感謝を伝えたい…泣いてないよ! 母さん、父さん、僕を最初から支えてくれた。
本当に最高の気分だよ。マックスがどんな気持ちだったのか、少しだけ分かった気がする。そしてマックスとオスカー、今季ずっと僕の2人の最大のライバルにおめでとうを言いたい。彼らとレースするのは本当に楽しかったし、たくさん学んだ。長い1年だったけど、僕たちはやり遂げた。本当にみんなを誇りに思う。」
F1ドライバーとチームは冬の休暇を挟み、2026年シーズンに向けて1月26〜30日にカタルーニャ・サーキットで行われるプライベートテストで再始動する。
カテゴリー: F1 / F1アブダビGP
