エイドリアン・ニューウェイ (レッドブル)
レッドブルのチーフ・テクニカルオフィサであり、今年最も美しいマシンと評され、これまで優れたパフォーマンスを見せているRB5をデザインした空力の天才エイドリアン・ニューウェイ。

これまでのシーズン、ダブルディフューザー、KERS、ロス・ブラウンが関わったチームとの15年間の戦い、さらに予算限度額の設定が、F1にどれくらいの共産主義的不均衡を生むかなどの質問に答えた。

シーズンのスタートには満足していますか?
もちろん、嬉しく思っている。しかし、今回ほどの大規模なレギュレーションの変更があると、リサーチからせっせとやらなければならない。我々の場合、これが本格的にスタートしたのは昨年の4月。脇目もふらずに仕事に取り組まなければならない。チームを去る人や新しく入る人もいなかったので、他のチームの進行状況は全く分からなかった。自分がやったことは分かっているが、他の人と比べた時にそれがどうなのかということが分からなかった。

シーズン前からクルマは期待通りのパフォーマンスを見せていたので、クルマの仕上がりは良かった。時々、ひどくショックことや、想定外の出来事があったりするが、それもなかった。それが確認できた後は、静かにシーズンの開幕を待った。お披露目したりということも全くしなかったので、本当にメルボルンまではどうなるか分かっていなかった。だから、開幕4戦でコンペティティブな戦いができて安堵した。

モナコでダブルディフューザーを投入しますか?クルマの構造から考えると難しいチャレンジになると思いますか?
その通り。ダブルディフューザーのコンセプトを我々のクルマのパッケージングや空力に取り入れるのはそれほど簡単なことではない。パフォーマンス改善に繋げる作業が難しい。モナコでは何かしらを投入する予定だ。ダブルディフューザーと呼ばれているだけで、ルールで認められた開口部というだけのことだ。しかし、それをどのように考えて自分のクルマに取り入れるかが問題だ。シーズンを通してこのテーマが様々な形で登場するだろ 。

ディフューザーを取り入れることはメリットのみですか、それとも車体後部のパッケージングにデメリットはありますか?
「クルマにはメリットがあると思う。それが何かは分からない。なぜなら、プッシュロッド・サスペンションのクルマにまだ統合させていないので、プッシュロッドがあった場合に大きなメリットになるかは分からない。目標は、いかに我々のクルマに取り入れるかということだ。

新しいディフューザーにしたら、リヤサスペンションをプルロッドからプッシュロッドに変えなければならないということですか?
もしそうするのならば、今年はダブルディフューザーは使えない。作業に1年はかかるからね。ダブルディフューザーを乗せることは可能だ。しかし、おそらくディフューザーに合わせてギヤボックスをデザインした場合よりは効果はないかも知れない。

2台同時の投入になりますか?1台のみということは有り得ますか?
木曜日に1台で試してみて、正常に性能を発揮したらもう一台に乗せるということもあるかも知れない。しかし、その時までこれを試す空力テストは行えない。これほど異なるものをクルマに乗せるとしたら、期待通りのパフォーマンスを見せてくれることを知りたい。モナコはとてもちゃんとしたテスト走行が行えるような場所じゃないからね。

エンジニアとして予算限度額の中で活動を行うことは刺激になりますか?
共産主義みたいにならなければ、予算に限度額を設けるのは素晴らしいと思う。理論的には共産主義も社会主義も素晴らしいが、歴史的に考えても実際にはうまくいかないようだ。同じ給料をもらっているはずなのに、ロシアにはラダに乗っている人もいれば、メルセデス・ベンツに乗っている人もいたからね。予算限度額について心配なのは、そういうことだ。

小規模なインデペンデント・チームに関しては非常に有功な制度だと思う。コントロールするのも監視するのも簡単だ。しかし、他分野にも繋がりを持つ自動車メーカーなどは、どうやって監視するのだ?パーツのディスカウントをどうやって止める?理論的には最高でも、そんなことが起きるようなことになれば、結局は言い争いになったり、ズルをしたりすることになる。今までにもF1ではそういった不愉快なことがあったので、わたしはそれを心配している。

チャンピオンシップを最後まで戦える力がチームにあると思いますか?それとも、経験不足から苦境に立たされることになると思いますか?
リソース的にはライバル・チームよりも明らかに規模が小さいが、戦い続ける気持ちとやる気はある。それ以外は言いようがない。将来、歴史を振り返れば分かることだ。

今シーズンの成功はチームの助けになりますか?
今後、そうなるだろう。しかし、僅かな成功でも、チームに自信を与えてくれる。レッドブル・テクノロジーは昨年度モンツァで優勝している。デザイン・オフィスが同じクルマとなれば、チームも自信を持つことができる。より直接的だからね。

レースに優勝するというのはおかしなものだ。優勝していないときは、不可能なことのように感じる。勝てる気配もないと、ちょっとしょんぼりした気分になってしまう。実際に優勝しても、いつもと全く同じことをしただけなのにと思う。しかし、突然レースに優勝しすると、肩の重荷が下りる。ジャガー時代からいるミルトンキーンズのファクトリーのメンバーも、モンツァで優勝した時に感じた以上に楽になったのではないかと思う。

いろいろと整えるために時間をかけられたと思いますが、レッドブルはトップチームと言えるチームになりましたか?
この4レースはトップチームと呼ぶにふさわしいと思うが、皆さんご存じの通り、自動車レースはあっという間に状況が変化する。難しいのは、今後もそこに留まることだ。

セバスチャンと一緒に仕事をした感想は?
セバスチャンと一緒にいると、本当に彼の年齢を忘れてしまう。自分を表現する方法、クルマの運転、クルマについての報告の仕方などを見ていても、彼は年齢以上に成熟している。それは明かだ。非常に頭の良い青年で、非常に大きなポテンシャルがある。人間的にも良い人だ。トップドライバーにありがちな刺々しさのない人だ。

異なるチームや異なる役割を通して、あなたは15年間もロス・ブラウンとチャンピオンシップを争ってきました。それについてはどう感じていますか?
コースでは激しく競い合っているようだが、それは良いことだろう?でも、こういう風になったのはおもしろいことだと思う。同じ肩書きのことも良くあったが、仕事の仕方はこれ以上ないというほど異なる。仕事へのアプローチが全く違うのに、同じようにリザルトを出しているのは興味深いと思う。

彼がいなかったら、あなたの履歴書はどうなっていましたか?
つまらないものになっただろうね!

アプローチの違いを説明してください。
ロスは明らかに才能のあるエンジニアだが、彼が自分のテクニカル・チームをどのように運営しているかは、彼に聞いて欲しい。しかし、聞くところによると、エンジニアリングに関しても、テクニカル・ディレクターという仕事に関しても、かなり管理的なアプローチをとっているようだ。一方、私は管理には関心もないし才能もない。私が好きなこと、そして、私を奮い立たせるのがデザイン。幅広い意味でね。メカニカルなデザインだけに限らず、空力やクルマの全体的なパフォーマンス・パッケージも好きだ。それが私にとっては自動車レースで一番エキサイティングなことだ。直接関わることが好きだ。

インディビジュアル・チームの開幕数戦の全体的なパフォーマンスに関しては驚きましたか?
順位の変化は予想以上だった。大きなレギュレーション変更があったので、この数年動かなかったグリッド順位に通常よりは変化が見られるだというとは誰もが知っていた。しかし、あれほどの変化があるとは思っていなかった。

ポジティブなものでも、ネガティブなものでも、一番大きな予想外の変化は何だと思いますか?
個々にはサプライズはないと思う。この数年はフェラーリとマクラーレンが最後まで戦って、BMWザウバーがそのすぐ後ろという感じだったが、開幕4戦では、フェラーリ、マクラーレンBMWがQ3進出でさえ苦しんでいる。これは予想以上の大きな変化だ。

KERS搭載車が苦戦していますが、これは想定外ですか、想定内ですか?また、この状況は、KERSを使うことに関しての決断に影響を与えますか?
KERSのパフォーマンスは、シミュレーションで予想していたのとほとんど変わらない。だから、シーズン前も基本的な信頼性を確保するためにKERSを走らせようとした。かなり複雑なテクノロジーなんだ。しかし、これまで見てきたように、戦略的には最高だ。オーバーテイクには非常に有功なテクノロジーだが、ラップタイムだけを考えると何とも言えない。また、我々のドライバーの中でも、マークには確かにKERSを搭載すると重量制限を守るのが非常に難しくなるという問題もある。

BMWのように体重が軽いドライバーだけKERS搭載車で走らせるということはしたくなかった。テストがほとんど行えないので、レースの週末を通した2台の比較やハンドリングなどの情報がわたしにとっては非常に重要なんだ。だから、できれば2台のスペックが完全に異なるような状況は避けたかった。

今年はKERSを使わないということですか?
KERSを使うチームの数にもよる。KERSを走らせるチームが増えれば増えるほど難しい状況になる。第1コーナーまでに引きずり下ろされてしまうなどの可能性が高まるからね。

レース優勝やチャンピオンシップ争いなどはすでに経験されていますが、現状を考えて、このチームは今年チャンピオンシップ優勝できると思いますか。
それを考えるのは早すぎるというのが、全く正直な気持ちだ。ただじっと我慢して、他の人が言ったりやったりしていることは心配せず、自分たちの仕事にベストを尽くすことだけに集中し、どういう結果が出るかを待つ、というのが、この仕事をする上でのいつものぼくの姿勢だ。

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カテゴリー: F1 / レッドブル・レーシング