「暗黙の合意」 ミカ・ハッキネンが語るシューマッハとのF1での特別な関係
ミカ・ハッキネンは、F1で激しく競い合った最大のライバル、ミハエル・シューマッハとの関係について振り返り、互いの間に築かれていた独特の距離感と尊重について語った。

タイトルを争った両者は、コース上では一切の妥協を許さない一方で、無用な言葉の応酬を避けるという暗黙の了解を早い段階で共有していたという。

ハッキネンは冗談交じりに「自分のほうが少しだけ優れていた」と語りつつも、シューマッハを「信じられないほどのレーサーだった」と高く評価している。

「彼の走りを何度も後ろから観察した。なぜそこを通るのか、どこでステアリングを使うのかを研究した。でも正直に言えば、まったく理解不能なことをしていたわけではない。だからこそ、僕のほうが少しだけ良かったと思っている」
と、ハッキネンは笑いながらポッドキャストで語った。

その後、彼は表情を引き締め、シューマッハの本当の強さについて説明している。

「彼はマシンに対して、身体的にとても強かった。タイヤの使い方、サスペンションへの入力、マシンにかかる荷重を、純粋なフィジカルの力だけで操っていた」

「そして、思考力だ。マシンバランスをどう考え、どう管理するか。そのコントロール能力は本当に驚異的だった」

シューマッハ自身も、ハッキネンを「これまでで最高のライバル」と称している。ハッキネンにとっても、ふたりの関係は他のタイトル争いとは明確に異なるものだった。その理由のひとつが、早い段階で交わした暗黙の合意にあったという。

「コース上で戦おう。くだらないことはやめよう」

シューマッハがグランプリの週末に心理戦を仕掛けてきたことがあったかと問われると、ハッキネンは即座に認めつつも、こう切り捨てた。

「試みはあった。でもまったく効かなかった。本当に何の影響もなかった」

「いろいろなやり方を試してきたと思うし、もしかしたら彼なりのユーモアだったのかもしれない。でも僕には関係なかった。マクラーレン、マネジメント、そして自分自身への信頼があったから、何も変わらなかった」

「だから、ヘルメットをかぶった瞬間に、僕たちは話すのをやめていた」

両者の因縁はF1以前、1990年のマカオF3グランプリにまでさかのぼる。

「率直に言って、我々にはモータースポーツの中で厳しい瞬間があった」

当時の状況を、ハッキネンは細かく説明している。

「マカオでは2ヒート制で、合計タイムで勝者が決まった。僕は第1ヒートで勝ち、ミハエルは数秒後ろの2位だった」

「第2ヒートでは彼が勝ち、僕は数秒後ろだった。つまり、トータルでは僕が勝つ状況だった。だから『最後までついていこう』と思った」

「マカオは全長7キロほどの市街地コースで、F3で走るには本当にクレイジーな場所だ」

最終ラップで、シューマッハが高速コーナーでミスを犯し、ハッキネンに絶好のチャンスが訪れる。

「簡単に抜ける状況だった。後ろについて、オーバーテイクを準備した。その瞬間、彼がミラーを見て、わずかにステアリングを切った。僕は彼のリアタイヤに触れ、そのままコースアウトした」

「完全に怒り狂ってもおかしくなかった。でも、こう思った。何が変わる? 何も変わらない」

「彼は本当にタフなドライバーだった」

ハッキネンは、シューマッハが他の多くのドライバーと衝突を繰り返してきたことにも触れている。

「デイモン・ヒル、ジャック・ヴィルヌーヴ、デビッド・クルサード……多くのドライバーと問題を抱えていた。非常にアグレッシブで、時にはフェアプレーではなかった」

「そのたびに大騒ぎになった。でも僕は『彼の哲学や考え方を変えなければ』と思っていた」

しかし、それが無意味だと悟るのに時間はかからなかった。

「彼のマネジメント、チーム、メディア、誰に話しても何も変わらなかった」

「だから自分の仕事に集中した。それが結果的に、大きなリスペクトにつながったと思う」

ふたりは、言葉による非難や公の応酬を選ばなかった。

「口で戦うことはなかった。コース上で戦おう、くだらないことはやめよう。それが、彼の僕に対する態度に影響した部分もあったと思う」

マカオの一件以降、ハッキネンはシューマッハのレース哲学を完全に理解したという。

「だから、一緒に走るたびに小さな駆け引きはあった。でも、接触することはなかった」

それこそが、F1史に残る名勝負を生んだ、ふたりだけの関係性だった。

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カテゴリー: F1 / ミハエル・シューマッハ