ミハエル・シューマッハ 誰も入れないバーで語ったF1スターの本音
7度のF1ワールドチャンピオンであるミハエル・シューマッハは、イタリア滞在中に“思いがけず自分専用のバー”を手にしたことがあった。そのエピソードを明かしたのが、『Top Gear』『The Grand Tour』『Clarkson’s Farm』などのヒット番組で知られる元エグゼクティブ・プロデューサー、アンディ・ウィルマンである。

ウィルマンは、イタリアでミハエル・シューマッハにインタビューした際の、かなり型破りな体験を振り返った。

舞台は、シューマッハが滞在していた高級ホテル。ウィルマンはインタビューのために、ホテルのバーを特別に閉鎖してもらうことに成功した。結果として、そこは意図せず“シューマッハの私設バー”と化し、彼はミカ・ハッキネンが「しばしば自分より速かった」ことや、ジャック・ヴィルヌーヴとの物議を醸した接触について語ることになったという。

ミハエル・シューマッハが満喫した“貴重なバー体験”
ウィルマンは、このシューマッハへのインタビューが、かつてBBCで放送されていた番組『Speed』のために行われたものだったと振り返る。

シューマッハは、「Superstars of Speed」と題されたエピソードに登場したスポーツ界のスターのひとりだった。

「シューマッハは、僕にとっていちばん好きなドライバーだった」と、ウィルマンは『Midweek F1』ポッドキャストで語っている。

「ジェレミー(クラークソン)と僕で、『The Science of Speed(※正確には別タイトル)』というテレビシリーズをBBC向けに作った。科学部門の番組で、各エピソードごとにスピードの異なる側面を扱っていた。その中のひとつが“人”についての回で、当然ながら彼(シューマッハ)を起用する必要があった」

「それでロス・ブラウンが、彼へのインタビューを取り付けてくれた。僕たちはムジェロに向かった。彼はテスト中で、翌週にはフェラーリでワールドチャンピオンを決めるために日本へ行く直前だった。本当にやることが山積みの時期だった」

「当時、ひとつのチームしかテストしていなければ、サーキットで撮影するためにバーニー(エクレストン)にお金を払う必要はなかった。でも現地に着くと、『追加で1万ポンド必要だ』と言われた。理由は、ザウバーに乗った若いドライバーが急きょテストに来ていたからだった」

「彼はキミ・ライコネンという名前で、F1に乗るだけの経験があるかどうかを見極めるためのテストだった。覚えている人もいると思うけど、彼は暫定的なスーパーライセンスを与えられていた。とにかく、彼がそこにいた。僕たちはその時点では何も知らなかった」

「そんなこんなでシューマッハと会って、僕たちは『テストが終わったあと、ホテルで話を聞かせてほしい』とお願いした。すると彼のマネージャーのサビーネ(ケーム)が、『いいわ、30分だけね。テストが終わったあと、ホテルでやりましょう』と言ってくれた」

「僕は撮影クルーと一緒にホテルに戻った。ムジェロにある、いわゆるビジネスホテルだった。そこで支配人のところへ行って、『数時間、インタビューのためにバーを閉めてもらえませんか?』と聞いた」

「返事は即座に『ノー』だった」

「そこで僕たちは、『ミハエル・シューマッハのインタビューなんです。しかも、彼はこのホテルに泊まっている』と伝えた。するとその支配人の表情が、まるでジョン・クリーズ演じるバジル・フォールティみたいに変わった。彼は『ちょっと待って…』と言って、バーにいた全員を追い出した。全員だ。バーは閉鎖され、撮影の準備が整えられた」

「撮影が始まると、彼は本当に素敵な人だった。何でも話してくれた」

「ミカ・ハッキネンのほうが自分より速いことがよくあった、という話もしたし、ヴィルヌーヴにぶつかった件についても、なぜそうしたのかを語っていた。そういう話題までね」

「でもサビーネが『もう40分よ、そろそろ終わりにして』と制止し始めた」

「それで撮影を終えて、みんなで機材を片付け始めた。でも彼は席を立たなかった。僕たちは『どうしたんだ?』と思った」

「すると彼が『このバーは、いつまで閉まっているんだ?』と聞いてきた。僕は『僕たちが終わるまでです』と答えた。すると彼は『じゃあ、君たちがいる間は誰も入ってこられないんだね?』と言った。『そうです』と答えると、彼は『じゃあビールを1杯もらおう』と言った」

「そこからさらに、30分くらい飲んでいた。僕たちは片付けのスピードを意図的に落とした。すると彼はこう言ったんだ。『理解してほしい。イタリアでは、僕はどこにも行けない。まるで世界一給料の高い移動販売員みたいなものだ。夕食は部屋でとって、妻に電話をして、それで終わり。でも今は、バーにいられる』と」

「僕たちは、そんな彼のことが大好きになった」

“過去の話”として封印されかけたインタビュー
しかし、その後の編集段階で問題が起きた。

「インタビューを編集して、ヴィルヌーヴとの件を含めた内容にしようとしたら、バーニーが映像の使用を許可しなかった。彼は『それは昔の話だ、終わったことだ。金庫にしまっておけ』と言った」

「ところが後になって、彼から電話がかかってきた。『考え直した。使っていい。ただし、ミハエル本人から“問題ない”というファクスが必要だ』と」

「それで、もうひとりのマネージャーであるウィリー・ウェバーに連絡した。すると彼は『私はバーニーと同じ考えだ。あれは過去の話で、古い歴史だ。でも、ミハエルには聞いてみよう』と言った」

「しばらくしてウィリーから電話がかかってきて、『ミハエルは“いや、インタビューは受けた。テレビでまた見たいとは正直思わないけど、確かにインタビューはした”と言っている』と伝えられた。それで彼はファクスにサインした。僕たちは、ますます彼のことが好きになったよ」

Top Gearに出演したF1スターたち
シューマッハは、ウィルマンがエグゼクティブ・プロデューサーを務めていた『Top Gear』に出演したF1アイコンのひとりでもある。

同じく7度のワールドチャンピオンであるルイス・ハミルトンも2度出演しており、そのほかにもセバスチャン・ベッテル、ナイジェル・マンセル、デイモン・ヒル、ジェンソン・バトン、キミ・ライコネン、ダニエル・リカルドらが番組に登場した。

ウィルマンにとって“お気に入りのF1ドライバー”はシューマッハだが、『Top Gear』での“最高の出演者”はベッテルだったという。

ベッテルは2011年に番組に出演し、特にナイジェル・マンセルのモノマネで大きな反響を呼んだ。ウィルマンは、その出来があまりにも完璧だったことに驚かされたと語っている。

そのモノマネは、レッドブル時代の同僚であり、伝説的F1デザイナーであるエイドリアン・ニューウェイから教わったものだったという。

「正直なところ、最初は『ドイツ人だし、ちょっと微妙かもしれない』と思っていた。でも実際は完璧だった。本当に面白かった」

ベッテルは番組恒例の「Reasonably-Priced CarでのF1スターラップ」にも挑戦し、スズキ・リアーナで1分44秒0を記録。最終的なランキングでは4位につけ、そのトップに立っていたのは元レッドブルのチームメイト、ダニエル・リカルドだった。

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カテゴリー: F1 / ミハエル・シューマッハ