F1モナコGP:木曜記者会見 Part.1 - ルクレール、ガスリー、ハジャー

ホームGPとなるルクレールは冷静な分析を交えながらも、奇跡への希望を口にし、特別な舞台への強い思いをにじませた。
3人は前夜に行われたF1映画『F1』の特別試写会を皮切りに、モナコへの抱負、先週のイモラでのバトルの舞台裏、さらにはアイルトン・セナへの敬意まで、多岐にわたるテーマで率直な思いを語った。中でも、F1という競技の魅力と責任を再認識させる、現代のSNS社会における「敬意」の重要性についての発言は、静かだが力強い印象を残した。
Q:昨夜は映画『F1』の特別試写会が行われました。感想を聞かせてください。ピエール、あなたからお願いします。
ガスリー:正直、とても良かったよ。映画を初めて観られたのは本当にクールだった。素晴らしい出来だったと思う。F1にとっても、我々の世界を覗き見る素晴らしいチャンスだよ。ハリウッド映画ではあるけど、個人的にブラッド・ピットのファンだし、彼のおかげでF1ドライバー全員がカッコよく見える。制作陣も素晴らしい仕事をしてくれた。あまりネタバレはしたくないけど、F1をよく知らない人たちにも楽しんでもらえる映画になると思う。
Q:シャルルは?
ルクレール:本当にクールだった。僕たちはF1ドライバーとして観ているから、細かい部分が現実と違うことにはすぐ気付くけど、でもとてもハリウッド的で、それが良かったと思う。F1ドライバーだけでなく、もっと幅広い観客層を対象にしているんだろうね。素晴らしい作品だったよ。シーンの迫力もすごかったし、車に取り付けられたカメラの映像やアングルもとても印象的だった。ブラッド自身も少し運転したと聞いているけど、すごいことだと思うし、きっと楽しかったはず。F1にとっても素晴らしいことで、今まで届かなかった人たちにも届く作品になるだろうね。ストーリーテリングも良かった。
Q:アイザックは?
ハジャー:F1の映画を観るって、ちょっと変な感覚だった。すごく不思議だったけど、F1というスポーツをさらに次の次元に押し上げるものだと思う。スポーツがもっと大きくなるだろうし、それはいいことだよね。2人が言ったように、僕たちドライバーからすると批判的に観てしまう部分もあるけど、F1を知らない子供や初心者には最高の入門になると思う。
Q:地元ヒーローに戻りましょう。シャルル、昨年は素晴らしい結果でした。今年も再現できる可能性は?
ルクレール:正直に言うなら、低いと思う。残念だけど、僕たちのマシンは低速コーナーで特に苦しんでいて、モナコは全部低速コーナーだからね。理論上はあまり期待できるサーキットではない。ただ、モナコは他のどのサーキットとも違って特殊だから、明日走り出したら予想以上に良いサプライズがあるかもしれない。それを期待しているし、もしそうなれば、土曜日に勝負できるよう頑張る。予選がこの週末のすべてだから。でも、紙の上では厳しい戦いになると思う。
Q:ここでいつも速いあなたですが、マシンが完璧でなくてもドライバーが差を生み出せる部分はありますか?
ルクレール:ある程度の差は作れると思う。ポールなんて無理だと思っていても、Q3では期待を背負ってないぶん限界まで攻められることもある。2021年がいい例で、あの年は全然戦えてなかったけど、ここではポールを取れた。だからまだ希望はあるよ。去年のこともまだ記憶に新しいし、このパドックに戻ってきて、その時の感情が蘇ってくる。本当に特別な瞬間だった。
Q:ピエール、次はあなたです。隣にシャルルがいますが、先週末のピラテッラでの出来事について話し合う機会はありましたか?
ガスリー:うん、レース直後に話したし、その後も映像を見返してからモナコ入りしてもう一度話したよ。すべてクリアになっている。前のラップでもターン7でいいバトルをしていて、シャルルがノーズを突っ込んできて軽く接触があった。ターン8まで並走したんだけど、スペースを空けながらポジションを守ろうとしてた。でも結局、コーナーを曲がりきれると思ったけど、グリップが予想より低くてね。全部話し合って解決済みだよ。オフでは仲が良いけど、トラック上では全力で戦う。それが当然さ。
Q:じゃあ問題はないと?
ガスリー:うん、大丈夫。
Q:ピエール、あなたはモナコで常に好成績を残してきました。F1キャリアで5回のポイント獲得があります。今週末について、アルピーヌのパフォーマンス予想を教えてください。
ガスリー:シャルルも触れていたように、モナコはパフォーマンスを予測するのが難しいサーキット。マシンの性能差が縮まりやすい場所だから、ドライバーとしての影響力が大きくなる。僕にとってはチャンスに満ちた週末になると思ってる。かなり楽観的に見ているし、ポイント獲得のチャンスもあると信じてる。このコースは本当に好きで、毎年良い結果が出ているから、今年も楽しみにしてるよ。
Q:今週は2ストップ義務レースですが、それが戦略のチャンスになると思いますか?
ガスリー:僕は常に前向きに捉えるタイプだから、これはチャンスだと思う。不確定要素もあるけど、それを恐れるんじゃなくて受け入れるべき。正直、誰にもこれがどう影響するのかはわからない。何も変わらないかもしれない。ただ、ひとつ確かなのは、予選が引き続き重要だってこと。予選をうまくやれば、大きな仕事を成し遂げたも同然。でも戦略の幅が少し広がるのは確かだから、そこに期待している。
Q:アイザック、あなたに移ります。記者会見は久しぶりですね。今季ここまで7戦中4戦で、フェルスタッペンに次ぐレッドブル勢2番手となっています。順調ですね。これまでの進歩を振り返って、F1カーへの適応は予想より早かったですか?
ハジャー:そうだね。シーズン当初は不安があった。テストの機会が少なかったから、「このマシンをちゃんと扱えるのか?速すぎるんじゃないか?」って心配してた。でも今はもう疑念はないし、期待してたよりも早く順応できた。ここまでの展開は自分の想像以上で、これ以上望むことはないくらいのスタートだよ。
Q:今週末のモナコについては?昨年のF2では勝利にあと一歩でしたね。リベンジの思いはありますか?
ハジャー:いや、リベンジという感じではないけど、モナコではいつも良い経験をさせてもらってる。16歳のとき、ここでレッドブルとの契約を結んだ特別な場所でもあるしね。このサーキットの何が好きって、何といっても予選が最高なんだよ。年間で一番エキサイティングな予選だと思うし、まさにそれを楽しみにしてる。
メディアからの質問
Q:シャルル、さきほど「期待は低い」と話していましたが、これまでにも厳しいマシンでここを走っています。このコースではドライバーの力で状況を変えられると思いますか?
ルクレール:もちろん、自分を信じている。これまでストリートサーキットでは比較的良い成績を残してきたし、今回もチャンスはあると思ってる。ただ、今年これまでと違うのは、僕たちのマシンには明確な弱点があって、それが低速コーナーなんだ。そしてモナコはその低速コーナーばかりだから、大きなサプライズがない限り、期待以上の結果を出すのはかなり難しい。でもモナコは特別な場所だし、毎年モチベーションが特に高い。だからこそ、ポジティブな驚きがあることに期待してる。紙の上では厳しいけど、まだ希望は持ってる。
Q:今のマシンに問題があるという話ですが、すでに何度かアップグレードが導入されています。これからの改善計画についてどう見ていますか?今シーズンを諦めるような決断もあり得るのでしょうか?
ルクレール:諦めるなんてことは考えてない。まだ早いよ。もうすぐシーズン中盤にはなるけど、今諦めるわけにはいかない。去年もマクラーレンがアップグレードを入れてから状況を一変させた例がある。バルセロナでの新しいフロントウイング規則も大きなポイントになると思うし、それが僕たちにプラスになるかどうかは、走ってみないとわからない。そこでフレッド(チーム代表)が判断を下すことになるだろうね。来年は本当に重要な年になるから、しっかり準備する必要がある。
マシンに何が悪いのか?正直に言うと、まだはっきりとは分かっていない。開発中のものはいくつかあるけど、具体的なスケジュールは言えないし、状況によって変わる。今のところ分かっているのは、チームが全力でアップデートを前倒しで準備していること。それでギャップを埋められるかは、まだ分からない。でも勝てるようになるかと言われると、まだ確信はない。
Q:昨日、ナツィオナーレ・ピローティ(F1関係者のチャリティ・サッカー試合)がありました。シャルルはゲスト、ピエールはキャプテン、アイザックも出場しました。みなさんにとってこうしたイベントはどれくらい楽しくて、大切なものでしょうか?
ガスリー:楽しさは100点満点で1000点くらいだったよ。子供のころからサッカーが大好きだったし、練習も試合も毎回ワクワクしてた。今回、あんな象徴的なスタジアムでプレーできたのは夢のような体験だったね。レースではライバルのドライバーたちと、同じチームで一緒に戦うというのもユニークな感覚だった。昨日はアイザックが左にいて、カルロスと一緒に守備したり攻撃したりしてた。シャルルは昔プレーしていたし、全体としてすごく良い雰囲気だった。チャリティのためにプレーして、ファンも楽しんでくれて、我々も楽しめて、募金も集まって…モナコならではの素晴らしいイベントだと思う。
ハジャー:いやぁ、足にきたね。マジでキツかった。実は、フルサイズの11人制のピッチでプレーしたのは初めてだった。もう経験できたから十分だよ(笑)。思ってた以上にきつかったし、自分の筋肉がサッカー向きじゃないことを実感した。方向転換とか全然できなかった。
Q:アイザックはFCヴェルサイユに入れる可能性ありますか?
ガスリー:ないね(笑)。でもマネージャーならありかも。彼のメンタリティとチームスピリットは素晴らしい。ピッチ上では…まあ、全力で走るよね。トラック上と同じで、全力投球。でも彼の身体にはたぶんきついんじゃないかな。でもチームには貢献してくれる存在だよ。
Q:ピエール、もしF1ドライバーになっていなかったら、サッカー選手を目指していたと思いますか?そして、憧れのクラブや史上最高のサッカー選手は誰ですか?
ガスリー:質問が多すぎるよ、それ(笑)!
Q:じゃあ1つだけ。あなたにとって史上最高のサッカー選手は誰?
ガスリー:それは答えが難しいね。F1で「史上最高のドライバーは誰か」って聞くのと同じで、世代によって違うからね。でもメッシかロナウド、どちらかになると思うよ。
ルクレール:ジダン。
ガスリー:そう、僕も子どもの頃からのアイコンはジダンだった。史上最高かどうかは難しいけど、僕にとっては憧れの存在。最初の夢はサッカー選手だったし、ゴーカートに初めて乗るまでは本気でそう思ってた。でもその最初の一周で、サッカーの夢は消えた。それからは完全にF1一筋。でも今でもサッカーはプレーしてるよ。もしF1がなかったら、サッカー選手になろうと努力してたと思う。実際には無理だったかもしれないけどね。
Q:トリプルクラウンの他2レース、ル・マン24時間とインディ500には特別なポイント制度があります。モナコGPにも特別なポイント配分やルールを導入すべきだと思いますか?
ルクレール:個人的には、今のままでいいと思ってる。少なくともポイントに関しては、特定のレースに多く与えるとか、少なくするとかは必要ない。今の制度はよくできてると思う。ただ、モナコの予選はとても特別だから、予選にポイントを与えるべきかという議論はあってもいいかも。でも今のポイント制度自体は変更する必要はないと思う。レースをもっと面白くする方法は考える余地があるかもしれないけどね。
ガスリー:コピー&ペーストだね(同意)。
ハジャー:同じく。
Q:シャルル、今季の低速性能に課題があるという話が出ていますが、ここモナコのように低速のみのコースであれば、それに特化したセットアップが可能なのでは?高速とのバランスを考える必要はないと思いますが。
ルクレール:確かに、僕たちも同じ疑問を持ってここに来たよ。その答えは明日、走ってみないと分からない。でも確かに、モナコは完全に低速だけだから、その方向に全振りしてマシンを仕上げることができる。通常のサーキットでは高速・低速のバランスを取らないといけないけど、ここでは低速だけを考えればいい。もしかしたら、これまで見えなかった何かが見えてくるかもしれないし、そうなることを期待している。
Q:先ほどバルセロナでの新規則について触れていましたが、今回のルール変更はフェラーリのマシンにどれくらい影響すると思いますか?
ルクレール:すべてのマシンに何らかの影響はあると思う。それがポジティブかネガティブかは、まだ分からない。でも正直なところ、僕たちにとってはそこまで大きな影響はないと思ってる。ただ、それは時間が経ってみないと分からない。他のチームにより大きな影響が出てくれれば、僕たちにとっては有利になる。とはいえ、大きく勢力図が変わるようなゲームチェンジャーにはならないと思っている。でも少しの差なら生まれるかもしれないし、僕たちにとってプラスになることを願っているよ。
Q:シャルルとピエール、イモラでの激しいバトルについて改めて話しましたか?ピエールはグラベルにも出ていましたね。
ルクレール:もちろん話したよ。ピエールは僕の親友の1人だし、特に問題があったわけじゃない。カート時代からたまに接触してたし、そういう話には慣れてるんだ。僕たちはオン・トラックとオフ・トラックをきちんと切り分けられるタイプだから。ピエールはヘルメットをかぶれば容赦しないし、僕も同じ。それでいいと思うし、そうあるべきだとも思ってる。
レース後に彼のところへ行って、「最初はちょっと熱くなってたし、早めに前に出たかったんだ」って言ったら、彼は「いやいや、自分のミスだよ」って。でもそのあと映像を見て、「やっぱり君が少しアグレッシブだったね」って言ってきて、僕も納得した(笑)。あの場面自体は特別なことではなかったよ。前のコーナーでは少し攻めすぎてたし。正直、チームとしてはフラストレーションの溜まる状況だ。11番手スタートで失うものも少なかったから、周囲よりリスクを取ったのは確か。最終的にピエールが飛び出したのはただのレースインシデントで、どちらか一方に責任があるとは思っていない。
ガスリー:大切なのは、お互いに尊敬の念があるってこと。今回は僕だったけど、次はシャルルがミスするかもしれないし、その逆もある。でもお互いリミットギリギリで戦っているという理解があるし、意図的でない限り、こういうことは起きるもの。今後も起こるだろうけど、常にリスペクトが前提。それが一番大事なんだ。
Q:イモラでのクラッシュ後、ミック・ドゥーハンがSNSで中傷を受けた件についてどう思いますか?偽のスクリーンショットが拡散され、誤解を招いたようです。
ルクレール:詳しい状況は知らなかったけど、大きな枠で言えば、そういうことは絶対にあってはならない。F1を目指して育った身として、チームやファン同士のリスペクトを大切にしてきた。今はSNSの影響で状況が悪化しているし、偽の情報もどんどん出回っている。でもどんな場合でも一番大切なのは「敬意」だよ。こういうことが僕たちのスポーツで起きるのは悲しいね。
ガスリー:シャルルの言う通りだよ。どんな形であっても中傷は許されない。とても残念なことだ。F1はこれまで良いコミュニティを築いてきたし、サポートも多かったけど、ヘイトを広めるようなことはなかった。すべての選手、チーム、エンジニア、メカニックにも家族がいる。まず「人間」であるということを忘れてはならない。だからこそ、何よりもリスペクトが大切なんだ。
Q:皆さんはアイルトン・セナを尊敬していると聞いています。セナがこの難しいモナコで6勝を挙げた記録は、彼の技術への尊敬の気持ちにどう影響していますか?
ハジャー:うん、実は今回、ヘルメットをセナ仕様にしたんだ。ブラジルでやっても良かったんだけど、モナコでこそ意味があると思った。この街の“王様”といえばアイルトンだから。子どものころ、YouTubeで彼のモナコの走りをたくさん観て、「F1ドライバーとしてこの地を走るなら、絶対に彼に敬意を表したい」と思ってたんだ。僕のヘルメットにはセナのポールラップや勝利年などの記録も書いてある。いいアイデアだったと思ってる。
ルクレール:もちろん、僕にとっても大きなインスピレーションだった。特にモナコでの彼の成績は、僕にとってものすごく影響があったよ。父は実際にモナコの街中で彼の走りを見ていて、グランプリのたびに「アイルトンの走りは本当にすごかった」と話してくれた。特に雨の中での彼の走りには驚かされたよ。当時のオンボード映像も本当に信じられないレベルで、それが“アイルトンの魔法”の一部だと思う。モナコでの彼の走りは、間違いなく伝説の1ページだ。
ガスリー:僕も2人と同じ気持ちだね。インターネットで見られる彼のラップやドキュメンタリーの映像――特に雨のモナコでプロストと戦っていたレースは印象的だった。僕はフランス人だから、プロストについて語ると必ずセナの名前が出てくる。子どものころから2人とも憧れだったし、特にセナがモナコで語っていた「走っていて感じるもの」を言葉にする力には、ずっと魅了されてきた。
Q:シャルル、自分のホームレースであるモナコGPが苦しい週末になるかもしれないという現実について、どれほどフラストレーションを感じていますか?
ルクレール:まだフラストレーションは感じていないよ。だってまだコースを走ってないからね。今はただ「良い意味での驚きがあるかもしれない」という強いモチベーションがある。それは日曜のレースが始まるまでは変わらないと思う。
もし実際に走り始めて、「マシンに全然ペースがない」と分かれば、そこで初めてフラストレーションが出てくる。だって、そうなったらモナコで78周もしなきゃいけないから(笑)。
でもどんな状況でも、自分のベストを尽くすよ。予選のQ3まで――最後のラップを終えるまで――は「何か魔法のようなことが起こるかもしれない」と希望を持ち続ける。その時点までは、正確に自分の立ち位置も分からないしね。予選までは常に、奇跡を信じて全力で走るつもりだよ。
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