メルセデスF1の予選新テクニック 0.05秒と失格リスクは紙一重

ジョージ・ラッセルとアンドレア・キミ・アントネッリが実践したこのテクニックは、計測ライン直前で一瞬アクセルを戻すという異例の操作によって約0.05秒のタイム短縮を実現するものだ。しかし、その効果の裏には、操作を誤れば予選失格につながりかねない大きなリスクも潜んでいる。
メルセデスが見つけた新たな抜け道
この手法の鍵となるのは、2026年から導入された複雑なエネルギーマネジメント規則だ。
現在のF1では、ストレートでバッテリーを使い切る際に「ランプダウンレート」と呼ばれる制限が設けられている。これは、350kWから突然0kWへ出力を落とすことを防ぐための規定で、出力は1秒あたり最大50kWずつしか減らせない。
この規則が設けられた理由は、ストレート終盤で前方のマシンが急激に減速することを防ぎ、安全性を確保するためだ。
しかし、本来であれば計測ラインまで350kWを維持できる区間でも、ラインまでの距離が十分でない場合は途中から300kW、250kW、200kWと段階的に出力を落とさなければならず、最高速の伸びが制限される。
メルセデスはここに着目し、ドライバーが完全にアクセルを戻した場合はランプダウンレートの適用対象外となる規定を利用。計測ライン直前まで350kWを維持し、アクセルオフと同時に電力供給を終了させることで、通常より早く高い最高速へ到達できるようにした。
その結果、約0.05秒のラップタイム短縮効果が得られるという。
一度封じられたアイデアを別の方法で復活
実はシーズン序盤にも、メルセデスとレッドブル・レーシングは似た発想のテクニックを使用していた。
当時はMGU-Kを「緊急停止」させることでランプダウンレートを回避していたが、日本GPではその影響でコース上で減速・停止するマシンが現れた。
これを受けてFIAは、MGU-Kの緊急停止機能は本当の緊急時以外には使用できないと各チームへ通達。この手法は事実上使用できなくなった。
そこでメルセデスは、MGU-K停止ではなく「アクセルオフ」という別の例外規定を活用し、同様の効果を得る方法を開発した。

最大の難関はドライバーの操作精度
一見すると単純なアクセル操作に見えるが、実際には非常に高度なテクニックが要求される。
重要なのは、バッテリー残量が0%になる前にアクセルを戻すことだ。
もしバッテリーを完全に使い切った瞬間にMGU-Kが停止すると、出力が一気にゼロとなり、ランプダウンレート違反になる可能性がある。
その場合は技術規則違反と判断され、予選結果の抹消や最後尾スタートにつながる恐れもある。
しかも、ドライバーは毎周同じ場所でアクセルを戻せばよいわけではない。
バッテリー消費量は周回ごとに変化するため、その時点の残量に応じてアクセルを戻す位置も毎回変わる。距離看板や広告看板などを目印にできるものではなく、常にバッテリー残量を把握しながら操作する必要がある。
シミュレーターと音声システムで成功率を高める
『The Race』によると、メルセデスはイギリスGP前にラッセルとアントネッリへシミュレーターで繰り返し練習を行わせ、この操作を体に覚え込ませていた。
さらに、バッテリー残量が設定値まで減少すると、ドライバーのイヤホンへ音声信号を送るシステムも導入。この合図を受けてアクセルを戻すことで、毎周ほぼ最適なタイミングで操作できるようにしていたという。
ライバルチームもこの手法の存在を把握しており、今後はハンガロリンクなどエネルギーマネジメントの重要性が高いサーキットを中心に導入を検討するとみられる。
ただし、約0.05秒というメリットを得られる一方で、タイミングがわずかに遅れるだけで技術規則違反となる危険もある。メルセデスが編み出したこのテクニックは、2026年F1におけるエネルギーマネジメント競争の新たな武器となる一方、極めて高いリスクと隣り合わせの戦略でもある。
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