ランド・ノリス、予選でステアリング表示を減らして掴んだF1首位の座
ランド・ノリス(マクラーレン)は、ステアリングホイール上に表示されるデータ量を削減するという独自のアプローチを導入し、集中力を高めて予選でのパフォーマンスを最大化しているという。

メキシコGPでの勝利により、ノリスは2025年F1ドライバーズ選手権の首位に返り咲いた。チームメイトのオスカー・ピアストリに対して安定した結果を残しており、その背景には「見える情報を減らす」という決断があったようだ。

データ削減がもたらした集中力向上
ノリスはモナコGP以降、ステアリングホイールから「デルタ表示」を削除している。このデルタとは、ドライバーが各コーナーで自己ベストより速いか遅いかを示すタイム指標で、通常はスピード表示の上部右側に配置されている。

多くのドライバーがラップの進行状況を把握するためにこれを参照するが、ノリスはその情報が逆に判断を鈍らせると感じていたという。
「デルタを見てしまうと、ラップを途中で諦めたり、安全策を取ったりすることがある」とノリスは語る。予選ではそれを排除することで、自身の感覚と限界を頼りに走り切るスタイルを選択した。

「とにかく全コーナーを最大限攻める」
「デルタがあれば助けになるか、逆に悪化させるかは分からない」とノリスはメキシコGP予選後に語った。

「でも、デルタを外している時は、どんなにラップの出だしが悪くても、どんなコーナーでもとにかく全力で攻めるようになる。
デルタがないから、全体のタイムがどうなのか分からないんだ。だからこそ、すべてのコーナーで最大限を引き出そうとする。逆に、あれを見てると気を取られてしまうから、良いことじゃないんだ。
今日みたいに上手くいった時は、最終的に出てきたラップタイムを見るのがすごく気持ちいいね」

ノリスはラップ完了後に最終タイムを確認するのみで、走行中は最低限の情報(タイヤ温度、ギア、ブレーキバランスなど)だけをモニターしている。これにより、マシンの挙動やコーナー進入の感覚に集中できるようになったという。

レース時はデルタを再導入
ただし、この“情報削減戦略”は予選専用だ。決勝レースでは再びデルタを表示し、燃料やエネルギーセーブ量の基準として活用する。レース中は安定したペース維持やチーム戦略の把握が求められるため、予選とは異なる情報管理が必要になる。

ランド・ノリス(マクラーレン)

ノリスの「データ断ち」が意味するもの
このステアリング変更は、ノリスが心理的負荷をコントロールする新たな段階に入ったことを示している。現代F1では、ドライバーが1周で得られるデータ量が膨大で、過剰な情報が逆に感覚的判断を妨げるケースも多い。

ノリスのように“データより感覚”を優先する選択は、ミスを減らすと同時に、マシンの限界を直感的に引き出す手法として注目されている。特に2025年のマクラーレンが抱えるリアタイヤの扱いに関して、ドライバーの感覚精度が勝負を分ける状況にあるため、この決断は理にかなっている。

この“視覚情報を減らす戦略”は、集中力とパフォーマンスのバランスを再定義する象徴的な試みとも言える。ノリスがメキシコで見せた完璧なポールラップは、その成果の何よりの証明だ。

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カテゴリー: F1 / ランド・ノリス / マクラーレンF1チーム