ホンダ:2020年 インディ500 プレビュー
1911年に始まった世界で最も長い歴史を誇るレース、インディアナポリス500が今年もアメリカ東部のインディアナ州で行われる。全長2.5マイル(約4km)の超高速オーバルコースを使ってのレースは、今年が104回目の開催です。時速230マイル(時速約370㎞)を超える、インディカーならではの驚異的スピードを保っての接近戦、ザ・グレイテスト・スペクタクル・イン・レーシング開催の時がいよいよ迫ってきている。

インディ500といえば5月末のメモリアルデーウイークエンドと決まっていたが、今年は新型コロナウィルスのパンデミックのため、8月23日決勝へ日程が変更されている。100年を越す歴史の中で、8月のインディ500開催は初めてのこと。それでも、予選を決勝の1週前の土曜日、日曜日の2日間を使って争うこと、その前に3日間のプラクティスを行うところ、予選翌週の走行は金曜日の最終プラクティスのみとなる点など、伝統的なスケジュールは維持されている。

決勝日に30万人以上の観客を集めるインディ500は、世界で最も大きなスポーツイベントとして名を馳せているが、アメリカ、特にインディアナ州周辺で新型コロナウィルスの感染状況がまだ十分に収まっていないため、今年はプラクティスから決勝レースまでファンは観客席に入れないことに決まった。インディアナポリス・モーター・スピードウェイにはコースを取り囲むようにそびえ立つ巨大な観客席があるため、その収容人員数の半分、さらには4分の1に入場者を減らしてでも伝統のレースはファンを迎えて開催したい、とスピードウェイもインディカー・シリーズも検討を続けた。しかし、ファン、そして地域の安全のために無観客レースとする苦渋の決断に至った。スタンドにファンのいないインディ500というのも、104回目を迎える今年、史上初めて実現することとなった。

インディ500の決勝に出場できるのは33台。8月の開催とあって、今年は例年以上に暑いコンディションで500マイルレースが戦われる可能性が考えられる。その上、今年のインディカーは安全性向上のためにコクピット部を覆うエアロスクリーンが装着されており、マシンの重量も重量配分も昨年までのものとは大きく変わっているから、ドライバーとチームはセッティングを仕上げるのに3日間のプラクティスでは少ないぐらいかもしれない。

今年のインディ500でホンダは18台のエントラントに2.4リッターV6ツインターボエンジンを供給する。ホンダドライバーの中にはインディ500ウイナーが4人含まれている。スコット・ディクソン(2008年)、ライアン・ハンター-レイ(2014年)、アレクサンダー・ロッシ(2016年)、佐藤琢磨(2017年)だ。

約3カ月遅れて6月に開幕した2020年シーズン、ディクソンは開幕3連勝を飾り、4レース目は彼のチームメートで昨年のルーキー・オブ・ザ・イヤー、フェリックス・ローゼンクヴィストがキャリア初優勝を飾っている。彼らのChip Ganassi Racingにはマーカス・エリクソンも今年から加わっており、3人の協力体制によってインディ500でも活躍することが期待されている。

ハンター-レイはAndretti Autosportから11年目の出場。そして、彼のチームは今年も技術提携チームを含めると合計6台での共闘体制を敷いている。その中には昨年のインディ500で2位フィニッシュ、惜しくもインディでの2勝目を逃したロッシも含まれている。伝統の一戦を制するには、豊富なデータこそが武器になる。過去6年間で3勝のAndretti軍団は今年も強力だ。

佐藤琢磨はRahal Letterman Lanigan Racingから3年目の出場となる。一昨年に1勝、昨シーズンは2勝をマークしていることが示す通り、チームワークはトップレベルにある。昨年のインディ500での佐藤琢磨は、終盤に優勝争いに食い込み、3位でフィニッシュし、2勝目への手応えを強く感じることとなった。今年も彼にはキャリア6勝の実績を持つグラハム・レイホールという力強いチームメートがおり、インディ500では、今年の第2戦にスポット参戦して優勝争いを行なったスペンサー・ピゴットも加わった3台体制で戦っている。

初めてのインディ500にHondaエンジンで挑むルーキーは、スペイン出身、日本のスーパーフォーミュラに昨年参戦し、デビュー年ながら1勝を挙げたアレックス・パロウ(Dale Coyne Racing with Team Goh)。彼はインディカーデビュー3戦目のロードアメリカで3位フィニッシュして初表彰台に上り、翌日のシリーズ第4戦ではポールポジション争いを行うなど、すばらしい順応ぶりで好パフォーマンスを見せてきている。第5、6戦となったアイオワのショートオーバルでも高い戦闘力を見せており、インディ500での走りも楽しみだ。

その他にも昨年2勝しているコルトン・ハータ(Andretti Harding Steinbrenner Autosport)、昨年のインディ500ルーキー・オブ・ザ・イヤーのサンティーノ・フェルッチ(Dale Coyne Racing with Vasser-Sullivan)など、コンペティティブなドライバー、そして実力あるチームが数多く存在する。今年もインディ500はし烈を極めた、見応え十分のスリリングかつエキサイティングな戦いとなるだろう。

佐藤琢磨 (2017年インディ500ウイナー、インディ500挑戦は今年が11回目)
「インディ500というレースは、勝ったことのあるなしにかかわらず、レーシングドライバーにとって本当に特別なものです。みんながこのレースを戦うときを特別な機会と捉え、それが訪れることを心待ちにします。今年は通常とは全く異なる状況下でレースが開催されます。パンデミックによって5月ではなく8月の開催に変わったことも含め、私たち出場者にとって非常に挑戦のしがいのある戦いになっています。観客なしでのレースになることも決まりました。それでも、私たちは伝統のレースであるインディ500が開催されることに深く感謝をしており、‟500”を戦えることをとても楽しみにしています。優勝経験のあるなしは、プラクティスが始まれば、もうほとんど何の意味も持ちません。どれだけ集中して戦えるかこそが重要になります。インディで勝ったことのあるドライバーも、初勝利を目指すドライバーたちと同じようにハングリーなのです。誰もが勝ちたいと心から考えるレースだからです。今年は無観客でのレースになりますが、私を含めたドライバーたちは全員、ファンの応援、歓声があったら……と考えています。しかし、現状は非常に難しいものになっていますから、レース主催者をはじめとする人々の決断を尊重し、全面的に支持しています。来年、2021年にはまたたくさんのファンが見守る中でのレースを戦えることと期待しています。今年はファンの皆さんに、テレビでのレース観戦を楽しんでいただきたいと思っています」

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カテゴリー: F1 / インディカー / 佐藤琢磨