ホンダF1 特集:PU開発責任者 浅木泰昭が語るF1エンジン開発の最前線
ホンダのPU開発責任者を務める浅木泰昭が、F1エンジン開発の最前線について語った。

現在、ホンダはテクニカルディレクターの田辺豊治、マネージングディレクターの山本雅史、そして、本田技術研究所 HRD Sakura センター長 兼 F1プロジェクト LPLの浅木泰昭の三頭体制でプロジェクトを進めている。

第2期ホンダF1での成功を収めたホンダエンジンの第一人者でもある浅木泰昭が、F1日本GPの週末、現在のF1エンジンの開発について語った。

「今シーズンの開発目標はメルセデスに追いつくというところにあった。なんとか今年中にメルセデスに追いつこうというターゲットで始めた」と浅木泰昭はコメント。

「F1のパワーユニットにおける信頼性とには2つの種類がある。1つはサーキットで走っている時に粉々にならない信頼性、もう1つは年間3基までという制限のペナルティを受けない信頼性だ。前者の信頼性という意味では、コース上でパワーを出したいのでギリギリを攻めている。ペナルティに関しては開発との兼ね合いでもらってしまうことになるだろうというのは計画の段階であったが、残念ながら、この間クビアト選手のパワーユニットが壊れてしまったが、それを除けばコース上での信頼性という意味では良いところにきている」

「シーズン前にメルセデスの伸び率を考えてターゲットを設定したが、他社の伸びもある。特に最近のレースではフェラーリが伸びているので、2チームともに追いついたというところまでではない。だが、なんとかそれに近い所まではきている」

「もうひとつ、オールホンダとしての取り組みを行なっており、今回はその一環として本田技術研究所の先端技術研究所が協力してエクソンモービルが開発した新しい燃料を投入した。私がSakuraに着任したあたりから、Sakuraだけでなく、オール研究所体制としての治験を全部集めて必要な人材も呼んで戦おうとしている」

「以前も話したが、ホンダジェットの部門がパワーユニットの開発に協力してたのと同じような形で、先端技術研究所のジェット機用燃料などを含めて未来の燃料を研究している部署、協力してもらい開発した。F1に使える燃料としては既存のガソリンに成分として含まれているものを使って開発する必要があり、ホンダ側である程度あたりをつけて『こんなものがいい』という話をエクソンと話しながら、パワーユニットのマッチングを行なっていった」

「正直に言えば、F1に協力してほしいというと最初はあまりいい顔をされない場合もあった。だが、最近では勝つと一緒に喜び、逆に負けると一緒に悔しがってもらえる仲間になってきている。そうした一体感をもららす効果のようなこともある」

「ジェットエンジンにしろ、1つのエンジンを作るのに10年という単位がかかり、先進部門の研究所は、研究している成果も世に出るのかわからない。それがしっかりと世に出て、オーストリアのように勝ったりすると、やはり担当者としてはうれしい。他にも協力してもらっている部分があり、例えば、軸受けは1年前にやってもらっている。空力はフランスGPで良い結果は出なかったが、オーストリアで勝って『よかった』という我々と同じような心の動きがある。仲間になってくれている」

「10年間やっても結果が出るかわからない先進研究をしている人達とF1が融合することで、一緒に上下し、一緒に楽しみ、一緒に悲しむというところが、研究者としてはやってよかったと言ってくれていると思う」

新燃料について具体的に質問された浅木泰昭は「ノッキングに代表されるように、エンジンにダメージを与えるような燃焼を抑えながら、いかに熱効率、同じ燃料量からピストンを押し下げる力を強くするか、気筒内の圧力を上げていくかということだ。それを両立させることが燃料開発。異常燃焼を避け、爆発圧力を高めるということだ」とコメント。

「今そういうことは簡単だが、私が40数年前に大学で習った内燃機関工学とはちょっと違うような現象を扱おうとしているので、そう単純ではなかったりする。そういうことを一緒に最先端な所をやっていく面白さがある」

2015年に復帰されてから5年の進化については「具体的な数字は言えないが、私がSakuraにきた2年前のメルセデスとの差を数字で見て、同じ内燃機関でこんなに差が付くのかと思ったと言えば、具体的な説明になるだろうか」とコメント。

「どうしたらこんな差が付くのだろうかと、正直、その時点では何をやっていいか分からないほどだった。だが、やれることは何でもやれというすごく苦しい状況だったと思う」

2020年のパワーユニット開発については「現時点ではパワーユニットの概念はそんなに変わらないと聞いている。その意味では変わるであろう箇所は先行していろいろやるが、全体としては現在の路線を継続していくことになる」とコメント。

「昨年はメルセデスがトップに見えたのでターゲットにした。まだ後半戦があるのでそこをよく見極めながら来年のターゲットを決めていきたい」

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カテゴリー: F1 / ホンダF1