F1史に刻まれた8つの技術革新
F1の技術革新は、ドライバーと同じく重要な要素だ。F1に革新をもたらした7つのテクノロジーを振り返ってみよう。

ドライバーの腕だめしの場として始まったF1だが、近年は自動車版NASAと呼ぶに相応しい、自動車業界の最先端研究開発の非公式会場となっている。現代のF1マシンは “走る研究室” そのもので、常に新たなドライビングテクノロジーの発明、改善、熟成が重ねられている。そして、多くのイノベーションは短命に終わる。

なぜなら、マシン性能とドライバースキルへの依存が安全性とエンターテイメント性を損なわないために、そしてレースが退屈なDIY対決にならないようにするために、レギュレーションが定期的に変更されているからだ。

ともあれ、テクノロジー開発競争は、チェッカーフラッグや表彰台で振りまかれるシャンパンと同様、このスポーツを形成する要素の一部だ。そこで今回は、F1のスポーツとしてのあり方を大きく変えた "ゲームチェンジャー" と呼ぶべき革新的技術の数々を見ていこう。

ミッドシップ・レイアウト
ミッドシップ・レイアウト
モータースポーツ黎明期のエンジン搭載のアイディアは馬車の時代のそれと同じで、馬力を発生するエンジンはマシンのフロントに置かれていた。これはそれなりに論理的な考えだったが、やがてドライバーたちは高速走行時のアンダーステアに悩まされるようになった。1957年、クーパーがこの固定概念を覆し、より理想的な重量配分を求めてエンジンを “ドライバーの後方:リア駆動軸の前方” にレイアウトした。最初はこの新構造を懐疑的に見る向きもあったが、クーパーのミッドシップマシンを駆ったジャック・ブラバムが1959シーズンと1960シーズンのチャンピオンシップを連覇すると、1961シーズンは全マニュファクチャラーがミッドシップ・レイアウトを追従した。

モノコック設計
モノコック設計
1960年代前半までのF1マシンは、伝統的な鋼管フレームによる設計が主流だった。ところが、ロータスが1962年にアルミニウムシートを貼り合わせた革新的なモノコック構造を導入。マシン重量増の元凶となっていた内部フレームを排除し、ボディパネル全体で応力を分担する構造を採用した。面構造を主体とし、骨格を持たないこのデザインは航空機から着想を得たもので、車体重量を劇的に減らしつつ、加速性能・トップスピード・燃費性能を大幅に高めた。この設計思想がひとつの頂点に達したのは、マクラーレンがのちにチャンピオンシップを制覇する初のカーボンファイバーモノコック車MP4/1を発表した1981年だった。尚、MP4/1は市販車として初めてカーボンファイバーモノコックを採用したマクラーレン F1の原型になった。

アクティブサスペンション
アクティブサスペンション
近年のF1のハイテク化に先鞭をつけたアクティブサスペンションは、F1史上初の合法的な電子ドライバーエイドだった。1982年にロータスのピーター・ライトによって初めて導入されたアクティブサスペンションは、1987シーズンのモナコGPでアイルトン・セナを勝利に導いたことで一躍有名になった。人工的にダンパーの動作を制御するアクチュエータに電子測定システムを組み合わせたアクティブサスペンションは、強大なダウンフォースに対するより優れた車体制御と路面の凹凸から受ける影響の低減を実現した。アクティブサスペンションは各地の主要サーキットで集めた走行データから路面状態を効率的に予測してマシンのサスペンションを調節したため、マシンの車高を一定に保ちながら、グリップと空力効率を最大限に高めることができた。
しかし、結果的にアクティブサスペンションの進化はF1観戦の魅力を奪うことになり、1993シーズンを最後に撤廃された。

ターボチャージャー
ターボチャージャー
1966年に実施されたレギュレーション変更により、過給器、つまりターボチャージャーを備えたエンジンに門戸が開かれた。
そして、1979シーズンのフランスGPでルノーがターボ搭載車初優勝を勝ち取ると、ターボ技術はその価値が広く認められるようになり、1986シーズンには、スターティンググリッドから自然吸気エンジン搭載車が完全に消え、ターボエンジンは最大1,000馬力を超えるまでに成長した。しかし、ターボ全盛の陰で、この技術の根本的な弱点が露呈し始めた。ドライバーたちはターボが効き始めるタイミングが予測できない中でのドライブを強いられ、マシンはますます不安定でコントロールしにくいものになっていった。最終的にFIAは、ターボチャージャーはあまりにも危険かつ高コストで、小規模チームの存続を危うくすると判断し、1988シーズン限りでターボチャージャーを廃止した。しかし、2014シーズンに1.6ℓV6ハイブリッド・パワーユニットへの転換が実施されると、ターボチャージャーはF1の表舞台へ復帰した。

KERS(運動エネルギー回生システム)
KERS(運動エネルギー回生システム)
KERSとは「Kinetic Energy Recovery System(運動エネルギー回生システム)」の略称で、簡単に言えば、『マリオカート』シリーズのダッシュキノコのようなものだ。運動エネルギーを電気エネルギーに変換してバッテリーに貯蔵するKERSは、マシンがブレーキング時に放出するエネルギーを回生し、加速時にボタンを押して一時的なパワーブーストを得るシステムだ(現在の最大エネルギー量は1周あたり160馬力 / 6.5秒に制限されている)。サステイナブルなテクノロジーを提示する一環として2009シーズンから導入されたKERSは、オーバーテイクを増加させ、レースをよりエキサイティングにするという理由からファンの好評を得た。また、KERSはルイス・ハミルトンやニコ・ロズベルグなどをはじめとするドライバー陣からも好評を得たが、技術研究開発予算を切り盛りするチームボスたちにとっては必ずしも好評とは言えなかったようで、当時ルノーを率いていたフラビオ・ブリアトーレは、KERSの開発コストは年間予算の半分に相当すると主張していた。

トラクションコントロール
これまで登場したF1テクノロジーの中で自動運転に最も近いトラクションコントロールは、ホイールスピン時に自動的に駆動力制御を行い、さらなる加速制御、パーフェクトなスタート、マシンの横滑り防止を実現するイノベーションだ。これはどのチームにとっても魅力的なものだったが、ファンや評論家は、ドライバースキルの重要性を大幅に下げ、潤沢な予算のチームを有利にする可能性もあるとしてこのイノベーションを受け入れなかった。トラクションコントロールは1994シーズンから正式に禁止されたが、その後も一部のチームがレギュレーションの抜け穴を利用してトラクションコントロールに近い効果を得ていた。しかし、2008シーズンにトラクションコントロールを永続的に禁じるルールが施行されると、よりエキサイティングなレーススタートが見られるようになった。

セミオートマチック・ギアボックス
セミオートマチック・ギアボックス
1989シーズンにフェラーリが導入し、ナイジェル・マンセルに劇的な開幕戦勝利をもたらしたセミオートマチック・ギアボックスは、2つのシフトバレル機構でクラッチ操作の必要性を排除することで、パワー伝達の損失を最小限に抑えたシームレスなギアチェンジを可能にした。同時に、フェラーリはステアリングホイールの裏側に取り付けられたパドルを介したギアシフトも開発した。変速時にステアリングホイールから手を離す必要がなく、より迅速なギアチェンジを可能にしたセミオートマチック・ギアボックスは、1990年代のF1レーシングを根底から変える一大イノベーションとなった。また、セミオートマチック・ギアボックスはF1のステアリングホイールの多機能化の先駆けにもなり、ドライバーたちは、Wii Uのコントローラーを思わせるパドルやボタン、トグルスイッチ、スクリーンなどを介して、燃料の混合比からブレーキバイアスにいたるマシンパフォーマンスの全てを確認・コントロールできるようになった。

ヘイロー
ヘイロー
モータースポーツイノベーションの多くはレースのスピードアップを実現するものだが、同時にレースの危険性も高める。そのため、出火を防ぐ構造やセーフティセルなど、ドライバーの安全性を高めるシステムも進化を続けている。その最新の実例がハロで、ドライバーをめがけて飛んでくる大きな飛散物から頭部を守ることを目的に2018シーズンから導入された。チームはルールで義務付けられたこの異様なデバイスをシャシーデザインに組み込む必要に迫られ、エアロダイナミクス面と応力分布に極めて複雑な波及効果をもたらした。満場一致で支持されているテクノロジーではないが、新たなチャレンジはより優れたイノベーションの原動力になるので、ハロが新世代F1デザインの先導役を担う可能性は残されていると言えるだろう。

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カテゴリー: F1 / F1マシン