【F1】 2021シーズンのレギュレーション変更:その理由と影響
2021年のF1は、グラウンドエフェクトの復活、ホイールの大型化、予算制限など大変革が予定されている。実際に何がどう変わり、F1というスポーツの未来にどのような違いをもたらすのだろうか?

世の中には、ルールがほぼ固定されていて、ほんの少しの変更も大きな騒ぎと大変な作業を生み出すスポーツが存在するが、F1はそのようなスポーツではない。70年もの長い歴史の中で、モータースポーツ最高峰カテゴリーとされるF1世界選手権のテクニカルレギュレーションは、定期的に変わってきた。

新たに開発されたエンジニアリングやテクノロジーが随時そのシステムに流入してくるF1は進化が不可避のスポーツだ。テクニカルレギュレーションが変更されずに新シーズンを迎えることは滅多にない。しかし、それでも大きな変化、てこ入れが必要になる時がある。リセットボタンが押され、テクニカルレギュレーションは “進化” から “改革” へ舵を切る。

2021シーズンのF1はまさにこのような大改革が計画されている。今年8月にその詳細が公開され、各チームは開発プログラムのメインシーケンスをスタートさせている。2021シーズンのレギュレーション変更には、マシンのルックスをより魅力的なものにする様々な外観面での変更も含まれているが、より充実したレースの実現が主目標に設定されている。現在までに判明している主な変更内容について解説していこう。

接近戦の実現
F1の主な問題 — より正確に表現すれば “最大のチャレンジ” — は相反する2つの目標を掲げているところにある。F1は地上最速マシンを求めている一方、地上最高のレースを求めている。しかし、ほとんどの場合、前者が後者の妨げになってしまう。

F1通算13勝を記録したデビッド・クルサードはこの問題について次のように要約する。

「ひとつ確実に分かっているのは、隣接して走行できるマシンが好レースのカギだということだ。しかし、F1にはジレンマを抱えている。F1は世界最速のレーシングマシンを求めているスポーツでもあるからだ。つまり、エアロダイナミクスが高度に進化したマシンを求めているわけだが、この欲望は接近戦の欲望の真逆に位置している」

F1のオーバーテイクは簡単であってはならないが、過去数シーズンは「オーバーテイクがあまりにも難しい」という声が大きくなってきている。この問題の元凶とされているのが “ウェイク・タービュランス”、つまり走行中のマシンが後方に生み出す激しい乱流だ。

F1マシンのエアロダイナミクスは、ボディワークにスムーズで一定の空気流が当たる時に最大限の効果を発揮するようになっている。しかし、オープンホイールレーシングでは、露出したフロントホイールが空気流を阻害して後方にタービュランス(乱流)を生み出す。そのため、各チームはこのようなタービュランスをマシンの外側へ誘導し、スムーズな空気だけをマシンに当てられるようにする研究に長時間を費やしている。

その研究の結果であるエアロダイナミクスはマシンの単独走行時は優れた効果を発揮するが、乱流の中でバトルをしなければならないレースでは効果が薄れてしまう。また、前走マシンが接近すればするほど乱流は激しくなるので、エアロダイナミクスのパフォーマンスはさらに低下する。結果、レース中のオーバーテイクが難しくなってしまうのだ。

これを受けて、2021シーズンのレギュレーション変更に向けて、これまでとは完全に異なるダウンフォース発生メソッドの研究開発を推進させようという動きが出ている。

グラウンドエフェクト
複雑怪奇な形状に進化した現在のフロントウイングやバージボードに代わり、F1は “グラウンドエフェクト” ソリューションを推進しようとしている。マシン底面でダウンフォースが発生されるようになるのだ。しかし、ここにも「二兎を追う」性格が確認できる。接近戦を熱望しているが、スピードやパフォーマンスを犠牲にするのも嫌なのだ。

FIAのシングルシーター・テクニカルマターズ部長を務めるニコラス・トンバジスは次のように説明する。

「(2021年レギュレーションのマシンは)底面が丸ごとディフューザーになっていて、ベンチュリ構造の気流路が貫いている。サイドポッドの入り口からリアにかけてトンネルのような形状になる。2017シーズンのデータに基づくと、前走マシンに接近すると通常約50%のダウンフォースが失われるが、グラウンドエフェクトを採用すれば約5〜10%のロスに留まる見込みだ。つまり、前走マシン接近時に失われるダウンフォース量を大幅にセーブできるのだ」

F1には1970年代後半〜1980年代初頭にかけてグラウンドエフェクトが流行した過去がある。しかし、スピードの向上による危険性増加に歯止めをかけるためにこのテクノロジーは禁止され、フラットボトムが導入された。

新たなグラウンドエフェクトはベンチュリ構造のトンネルに流した空気を現行マシンより高い位置のディフューザーに向けて送る。ホイールカバーやハブなどその他の整流エレメントと連携し、前走マシンが生み出す気流がより細くより高く排出されるため、後走マシンは乱れていない気流の中で接近できるようになる。

トンバジスはさらに説明を続ける。「ふたつの強力なボーテックス(空気の渦)が、ホイールが起こした乱流を持ち上げてマシン後方へ飛ばす。結果として、マシン後方の気流はよりクリーンになる」

クルサードは、グラウンドエフェクトカーのドライブは現行マシンと大きく変わらないだろうと考えている。

「ドライバーがマシンの底面と上面で発生するダウンフォースの "違い" を感じることはない。ただダウンフォースを感じるだけだ。スリップストリームの効果は異なるものになるはずだが、個人的にはそれがどれほど大きな効果になるのかは分からない。オーバルレーシングはハイスピードでも接近走行できるマシンのノウハウに長けているので、米国から何かを学べるかもしれない。成り行きを見守っていく必要がある」

タイヤ
過去数シーズンに渡りドライバーたちが不満を述べ続けているのはオーバーテイク(とその不足)だけではない。ドライバーの大半は、現行よりデグラデーション(性能劣化)が少なくてグリップに優れているタイヤを熱望している。後者はかなり前から存在するリクエストだが、前者はタイヤサプライヤーがブリヂストンからピレリに替わった2011シーズン以降のリクエストだ。

2021シーズンにF1はタイヤへの考え方を変える予定だが、タイヤのルックスにも変化を加える。マシンをより魅力的なルックスにすべくホイールサイズが現行の13インチから18インチに変更される。

トンバジスが説明する。「デグラデーションが少なく、ドライバーがタイヤマネージメントにそこまで頭を悩ませないで済むタイヤを実現するにはどうすれば良いのかについてピレリと細かく話し合っている。2021シーズンのタイヤは対応範囲を広げる必要がある。現行タイヤほど繊細なものにはならないだろう」

F1のチーフテクニカルオフィサーを務めるパット・シモンズは、タイヤ性質の変更は接近戦を生む重要な要素だとしつつ、ル・マンで使用されているタイヤのように劣化しない超ハードタイヤをピレリにリクエストすることは考えていないと語っている。

「私見を述べれば、過去2シーズンのピレリへのリクエストは完全に間違っていた。デグラデーションの早いタイヤは向かうべき方向ではなかった。しかし、私たちはピットストップをF1の重要な要素のひとつとして考えている。また、ファンが2秒台の素早いピットストップを楽しんでくれていることも理解している」

コストキャップの導入
F1は2021シーズンにコストキャップを導入する予定で、各チームの予算に上限(現在より少ない金額)が設定される。FIAはテクニカル面のリセットと合わせて予算制限を実施すればチーム間格差が少なくなると考えている。

コストキャップ導入についてクルサードは次のような見解を示している。

「年間予算の見直しが必要だという意見には賛成だ。なぜなら、どのチームもひとり勝ちを狙っているが、スポーツとして成立させるためには競争が必要だからだ。ファンは誰が勝つか分からない不確実性を期待してレースを観戦している。それでもトップチームとそうではないチームが生まれるだろう。コストキャップを導入しても、小規模なチームの助けにはならないはずだ。なぜなら、彼らの予算は設定される上限に満たないからだ」

「レギュレーションが変更されるとビッグチームがさらに強くなりがちだ。なぜなら、変更に対応できるリソースがあるからだ。つまり、ビッグチームは2020シーズンを戦いながら2021シーズンのマシンを開発できる。しかし、小規模なチームにはできない。このため、コストキャップ導入直後はチーム間格差が生まれるはずだが、その差は徐々に縮まるだろう」

このエントリーをはてなブックマークに追加

カテゴリー: F1 / F1マシン