キャデラックF1が呼び戻した情熱 パット・シモンズが再び勝負の世界へ

現在、シモンズはキャデラックF1のエグゼクティブ・エンジニアリング・コンサルタントを務めている。彼がこの新興プロジェクトに惹かれた理由は、野心、現実性、そして長期的な視野が同時に存在していたからだ。
「パドックに入ったとき、誰がレースに勝とうがどうでもいい、という本当に奇妙な感覚を覚えた。それがすごく不思議だった。時間が経つにつれて、その競争心を失っている自分に気づき、恋しくなった」とシモンズはAutocarに語っている。
この感覚は、F1のテクニカルディレクターとして規則作りに携わっていた晩年に、より強くなっていったという。ルールの設計には深く関わりながらも、その結果が現場でどのような影響を及ぼすのかから、次第に距離を感じるようになっていた。
彼は多くのレギュレーション作業に誇りを持っている一方で、2026年F1レギュレーションの一部については、自身の哲学と一致しなかったことも率直に認めている。特にパワーユニットの方向性については、「自分が望んでいたものではなかった」と明言した。
キャデラックF1の提案が与えた決定打
そうした背景の中で、キャデラックF1の参戦計画は、シモンズに強い印象を残した。
「その提案を見たとき、正直に“すごい”と思った。本当に印象的だった。非常に野心的で、資金面もしっかりしている。そして何より、とても現実的だ」
彼が評価したのは、短期的な話題作りやブランド主導の派手さではなかった。キャデラックF1は、F1に一時的に挑戦するのではなく、腰を据えて根付くことを前提にしている。
「これは“試み”以上のものになる。現実になるんだ」
チームの構造も、その考え方を反映している。シャシー開発とレース運営の中枢はシルバーストンに置かれ、F1の伝統的な技術基盤の中に身を置く。一方で、2028年以降を見据えたパワーユニット開発はノースカロライナで進められており、インディアナポリス近郊には大規模な製造・運営拠点の建設も計画されている。
シモンズは、アメリカ側の施設は実際に目にして初めて、そのスケールを実感できるものだと語る。さらに重要なのは、それらを閉ざされた場所にしないという方針だ。
「僕たちはファン中心でありたい。F1はとても秘密主義的で、特にエンジニアは“大きな秘密を守っている”と思いがちだ」
「でも、僕たちが話している“住宅ローン”はファンが払っている。ファンがいなければ、レースもスポンサーも、大企業の参入もない。すべてはファン次第なんだ」

経験と安定を重視したドライバー像
キャデラックF1の現実主義は、ドライバー選考にも表れている。
「利用可能なドライバー全員を対象に、大きなマトリクスを作った。その中で、徐々にチェコとバルテリが浮かび上がってきた」
基準は明確だった。即戦力であり、勝利を知るドライバーであることだ。
「勝者だ。2人で16勝している。このグリッドで、16勝を挙げたドライバーを2人揃えているチームは多くない」
バルテリ・ボッタスについては、ウィリアムズ時代からの信頼関係が判断を後押しした。
「彼のことはよく知っているし、とても好きだ。1周の速さは本当に抜群で、予選でも非常に強い」
一方、セルジオ・ペレスについては、レッドブルでの厳しい最終年を経て、慎重な再評価が行われた。
「彼が交代させられたあと、その状況を見て、チェコを見直すきっかけになった。彼の取り組み方、細部への注意、関与する姿勢は本当に素晴らしい」
シモンズは、参戦初年度から不要な混乱を招くことを強く避けたいとも語っている。
「自分が次のルイス・ハミルトンだと証明しようとして、壁に投げ込むようなドライバーはいらない。僕たちはそれを必要としていない」
F1の将来とキャデラックF1の立ち位置
シモンズは、キャデラックF1の枠を超えて、F1全体の方向性にも深く関心を寄せている。予算上限については、その必要性を明確に擁護した。
「チームは定期的に破綻していた。それは持続可能じゃなかった」
また、自身が立ち上げに関わった持続可能燃料についても、形式的な取り組みだという批判を否定する。
「ほぼすべての分子が持続可能だと認証されなければならない」
2026年F1については、視覚的な変化は控えめになる一方で、戦略性が増すと見ている。DRSに代わってアクティブエアロが導入され、オーバーテイクはエネルギーマネジメントが鍵になる。
「今の追い抜きの補助は“プッシュ・トゥ・パス”だ。レースはより戦術的になる。守るために使うのか、抜くために使うのか。その使い方が問われる」
補足:シモンズが語る「関与する価値」
この発言群から浮かび上がるのは、キャデラックF1が単なる新規参戦チームではなく、長期的な責任と現実的な覚悟を前提にF1へ向き合っているという点だ。
パット・シモンズにとって、このプロジェクトは役職や立場以上に、「勝敗を再び気にかける理由」を取り戻す場となっている。その姿勢こそが、キャデラックF1の土台を静かに形作っている。
カテゴリー: F1 / キャデラックF1チーム
