エンリコ・カルディレが語るフェラーリとアストンマーティンF1の決定的な違い
エンリコ・カルディレは、フェラーリで培われた長い歴史と完成されたプロセスを離れ、アストンマーティンF1で“ゼロから築く組織”に挑んでいる。

勝利を目指す情熱は同じでも、文化、意思決定、そしてチームの成長段階は大きく異なる。確立された基準をなぞるのではなく、自らが新たな基準になる──カルディレはその思想とともに、2026年F1レギュレーションを見据えたアストンマーティンF1の現在地と長期的な改革の方向性を語った。

フェラーリ一筋からの転身──エンリコ・カルディレが語るアストンマーティンF1の現在地
2005年にフェラーリへ入社し、ピサ大学で航空宇宙工学の学位を取得したのち、GTプログラムの空力を統括。2016年にF1チームのエアロ開発責任者、2017年には車両プロジェクトマネージャーへ昇格した エンリコ・カルディレ は、2024年7月に アストンマーティンF1 の最高技術責任者(CTO)に就任した。

当初は2025年初頭の着任予定だったが、慣例的な調整期間を経て実際のスタートは7月中旬。チーム公式サイトのインタビューで、フェラーリと新天地の文化的違いを率直に語っている。

「違いはある」とカルディレは言う。

「目標は同じだ。誰もが勝利に集中している。ただ、フェラーリのF1チームは非常に長く安定した歴史を持ち、プロセスやツールが確立されている。一方で、ここではそれらをまだ構築している最中だ」

新設のコアウィーブ風洞や新シミュレーターの活用、そして“無駄を避けるリーンな組織”の構築が、当面の課題だという。

「最初にチームへ伝えたメッセージのひとつが、アイデンティティを見つけ、我々のビジョンで組織を形作る必要があるということだ。他所から着想を得るのは構わないが、単にコピーするのは違う」

「我々は既存の基準のクローンではなく、基準そのものになりたい。誰かの成功例をそのまま真似るのは、追随者になるということだ。それは成功への道ではない」

“混沌”を恐れない創造性
カルディレは、 アンディ・コーウェル や エイドリアン・ニューウェイ、そして ローレンス・ストロール と合意した明確なビジョンと計画があると語る。

コーウェルが掲げる「創造的で、混沌としたイノベーション・マシン」という表現について、カルディレはこう説明する。

「他チームと違うことをするためには、革新的でなければならない。そして、その過程には多少の混沌が伴う。それを管理する必要はあるが、極端に構造化され硬直した組織では、マシンに大きな価値は生まれない」

「一度うまくいっても、次に何をするかを探し続ける。人を前向きにプッシュし、野心的な目標を設定する。困難は個人の問題ではなく、組織全体で解決すべき課題だ。我々は結果を出すための“大きな家族”でなければならない」

スター集団のマネジメントと意思決定
ニューウェイやコーウェルなど“スター”が集まることでの摩擦について問われると、カルディレは否定的だ。

「問題はない。むしろ、どう協力し、努力を融合させるかを探っている。情報共有と統合が鍵で、サイロ化を避けなければならない」

会議での自身の役割については明快だ。

「ビジョンを示し、明確さをもたらし、決断すること。正しいタイミングで正しい質問をするのが私の仕事だ」

判断に必要な情報量についても現実的な姿勢を見せる。

「100%の情報がなくても決断する必要がある場合がある。後から追加情報で誤りが分かれば、方向転換すればいい。重要なのは勝つことだ。非難の文化ではない」

エンリコ・カルディレ 元スクーデリア・フェラーリ F1

2026年への賭けと長期プロジェクト
2026年はレギュレーション刷新と新パワーユニット導入が同時に訪れる大転換期だ。

「空力コンセプトは完全に変わる。最低重量の引き下げは巨大な挑戦だ。新PU、新燃料……不確定要素が多く、誰がどこに行き着くか予測は難しい」

短期的な速さと長期的な組織改革を並行して進める考えを示す。

「このプロジェクトは、マシンが発表されたら終わりではない。ツール、プロセス、人の働き方、つまりチーム文化そのものを改善している」

“失敗は許されない”
新時代への心境を問われると、カルディレは即答する。

「興奮だ。自分たちだけでなく、他の10台を見るのが楽しみだ。今は何をしても十分だとは言えない。すべてが未知数だからだ」

「我々は来年、正しいところに辿り着く。ただ、それが開幕戦なのか、第2戦なのか、第7戦なのかは分からない。あるのは、コミットメント、集中、そして最終的には正しくなるという自信だ」

「我々には、素晴らしい仕事をするためのすべてがある。失敗は選択肢にない」

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カテゴリー: F1 / アストンマーティンF1チーム / スクーデリア・フェラーリ