フルウェットタイヤが選ばれない理由 F1が直面する「見えない」課題

FIAは現行世代マシンでこのスプレーを抑えることを目指してきたが、大きな進展は見られず、装着テストされたホイールカバーの失敗もあり、可視性の問題は根本的に解決されていない。
加えて、タイヤそのものの性能にも問題がある。現F1王者マックス・フェルスタッペンを含む複数のドライバーが、たとえ路面状況がフルウェット向きであっても「できる限りインターミディエイトで走り続けたい」と語っている。
ピレリはこの問題を解決すべく、両タイヤの「クロスオーバーポイント(使い分けの境界)」の改良に取り組んでいる。2025年の目標は、ドライのラップタイムに対して115~116%のタイムがフルウェットの使用開始基準だったが、実際にはそれが118%近くになっていたと、ピレリのモータースポーツ責任者マリオ・イゾラは説明する。
複雑なドライバーからのフィードバック
しかし問題は水量やクロスオーバーポイントだけではない。英オートスポーツ誌の独占インタビューで、イゾラは近年のフルウェットに関して、さらに重要な課題があると明かしている。
「これまで我々はアクアプレーニング(浮き上がり)を防ぐ方向で開発を進めてきた」とイゾラは言う。「ドライバーからのコメントがそうだったからだ。しかし、そのフィードバックをより詳しく分析した結果、実際はコーナリング時のグリップ低下に関するものだったことが分かった」
そのグリップ低下は、トレッドブロックの挙動に起因しているという。
「アクアプレーニング対策として溝を増やすと、ブロック(ゴム部分)が小さくなってしまう。そのブロックが動くと熱が発生し、それがフルウェットタイヤの“オーバーヒート”を引き起こす。冗談のようだが本当の話だ」とイゾラは語った。
このオーバーヒートがグリップ低下につながり、それがドライバーたちの不満の原因だったという。

2026年に向けた大規模な見直し
こうした知見はすでに2025年型フルウェットに一部取り入れられており、イゾラによれば「現行の構造とコンパウンドに合わせてトレッドパターンを少し修正し、ブロックの動きを減らすことでオーバーヒートを抑制」する改善を施したという。
テスト環境には限りがあるが、ピレリは2026年の大幅なレギュレーション変更に合わせて、タイヤ全体を刷新する計画だ。
「2026年に向けた最優先目標は、インターミディエイトとフルウェットのクロスオーバーポイントを改善すること。チームがどちらのタイヤを選んでもパフォーマンスを犠牲にしないようにしたい」とイゾラは語る。
「そのために、これまでとはまったく異なるトレッドパターンの導入も検討している」
テスト不足という根本的な制約
F1のウェットタイヤ開発に関する議論で繰り返し登場するのが「テスト機会の不足」だ。ドライバーたちはフルウェットへの不満を口にするが、ピレリ側は「開発そのものが困難なのだ」と訴える。
「現在も、ウェット条件かつ高負荷のコースでテストすることができないという問題がある」とイゾラ。
「そのため我々は、バルセロナやヘレスなどでのテスト時に、必ずウェットタイヤを予備で持ち込んでいる。雨が降れば予定を切り替えてウェットテストに活用する。ただし散水装置がないので水量はコントロールできず、完全なテスト環境とは言えない。それでも、実際のレース週末に近い水準ではある」
2026年に向け、ピレリの挑戦は続く。フルウェットタイヤが再び信頼され、選ばれる未来は訪れるだろうか──。
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