ブラッド・ピット主演『F1/エフワン』 “クラッシュゲート”など実事件が着想源

2008年のF1シンガポールGPでは、当時ルノーF1に所属していたネルソン・ピケJr.が、チームメイトのフェルナンド・アロンソに有利な状況を作るために故意にクラッシュ。これによりチーム首脳陣に厳罰が下され、チーム代表のフラビオ・ブリアトーレにはF1からの永久追放処分(後に撤回)、テクニカルディレクターのパット・シモンズには5年間の活動禁止処分が科された。
今週世界各国で劇場公開される映画『F1/エフワン』では、こうした“クラッシュゲート”を彷彿とさせる複数のプロットが盛り込まれている。ただし劇中においては、ペナルティポイントや処分に言及されることはない。
元F1ドライバーという設定の主人公ソニー・ヘイズを演じたピットは、F1公式ポッドキャスト『Beyond the Grid』の中で次のように語った。
「現実の出来事から多くを取り入れたよ。具体的にどの出来事か、わかる人にはわかるはずだ。1994年に起きたことや、2008年に起きたこと――そこから着想を得たんだ」
さらにこう続けた。
「全体的に多くの実例を参考にした。敬意を込めて言うけど、フェルナンド(アロンソ)についてもよく調べた。僕らのチームは万年最下位で、ルールを駆使しなきゃ戦えない状況だった。ギリギリまで攻めないと勝負にならなかった。だからソニーというキャラはそういうところから始まり、最初は周囲に嫌われているんだ」

映画では、ピット演じるヘイズがわざとミスをしてセーフティカーを導入し、チームメイトのジョシュア・ピアース(ダムソン・イドリス演)が有利になるよう仕向けるという描写も含まれている。これは明らかに“クラッシュゲート”を模した設定だが、制作陣はあくまでF1ファンやF1メディアを主なターゲットにはしていないと説明する。
しかし、その倫理的な描写について、モータースポーツ・コムが制作陣に疑問を投げかけた。スポーツマンシップに反する行為を美化しているように見えるのではないか、と。
これに対し、監督のジョセフ・コシンスキーは次のように答えた。
「ルイス(ハミルトン)とも話し合ったけど、我々としては絶対にソニーを“ズルをするキャラ”にはしたくなかった。限界ギリギリまで攻めるけど、一線は越えないという描写を目指した」
また、ケビン・マグヌッセンのような、接触をいとわず強引なラインを取るドライバーもモデルとして参考にしたという。
「どのドライバーが一番ドアを閉めてくるか、確率的に見て検証もした。誰が最もそういうことをやる可能性があるか、リアルに反映させたんだ」
モナコGPの際にF1ドライバーたちと映画を鑑賞したときには、「これ絶対来ると思ってた」とドライバー同士がささやき合う場面もあったという。
レーシングシーンのリアリティについては、プロデューサーのジェリー・ブラッカイマーも強調した。
「ルイスが脚本段階から参加していて、我々を常に正しい方向に導いてくれた。リアルさは非常に重要だったけど、それと同時に観客を惹きつけるストーリー性も必要だった」
F1のCEOステファノ・ドメニカリもこの映画の意義を次のように強調する。
「F1のことをあまり知らない観客が観た場合、そこに批判は起きないと思う。彼らには、ただレースアクションとリアルなバトルが映っているように見えるはずだ」
映画『F1/エフワン』は、リアリズムとドラマ性のバランスを追求しながら、現実のF1が抱える倫理のグレーゾーンにも踏み込んだ野心作といえそうだ。
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