2009年 F1マシン 実力分析 (プレシーズン編)
全10チームが参加するF1バルセロナ合同テストが終了した。プレシーズンテストは、各F1チームが異なるプログラムを実施し、燃料量も不明なため、正確な実力は判断できない。それでも、ここまでのテストの結果から各チームのF1マシンの紹介を兼ねて、各F1チームの実力を分析してみたい。
2009年は大幅なレギュレーション変更があり、F1マシンの外観は大きく様変わりした。オーバーテイク促進を目指し、フロントウイングは低く幅広くなり、リアウイングは狭く高い形状に変更、装飾ウイングも禁止されたことで2009年のグリッドに並ぶF1マシンはバラエティに富んだものとなる。
台風の目となるか?!ブラウンGP
先週のバルセロナでF1パドックを騒然とさせたのがブラウンGPだ。初テストとなるバルロナテストで、ブラウンGPのマシンBGP001は3日目と最終日にトップタイムを記録。しかも、2位以下に1秒近くの差をつける圧倒的なタイムを叩き出した。フェラーリをはじめ、予選シミュレーションを実施していたチームもあり、燃料量が問題ではないだろう。BGP001は、2009年の勝利を目指し、ホンダF1が2008年シーズンを捨ててまで開発を行った意欲作。ロス・ブラウンがはじめから開発に携わったマシンでもある。そのため、エアロ処理など随所にアドバンテージがみられる。エンジンは、土壇場でホンダエンジンからメルセデスエンジンに載せ替えとなった。しかし、バルセロナでは信頼性に問題はみられず、むしろメルセデスエンジンを得たことがプラスに働いているようだ。また、ブラウンGPはKERSを搭載しないことを選択。それにより、30kgといわれる重量をバラストとして用いることが可能。これもシーズン開始時にはアドバンテージとなるだろう。しかし、懸念点はテスト不足。スリックタイヤが復活となり2つのタイヤの特性も変わった今年は、タイヤマネジメントが重要となる。テスト開始が遅れたブラウンGPは、データ量では圧倒的に少ない。しかし、チームを率いるのはかの名称ロス・ブラウン。ロス・ブラウンの経験と采配が、シーズン中盤以降のパフォーマンスの鍵となってくるだろう。
やはり優勝候補は、フェラーリとBMWザウバー、そしてトヨタ!
ブラウンGPのサプライズはあるだろうが、やはり優勝候補はフェラーリと言えるだろう。フェラーリの新型マシンF60は、基本的に前年マシンF2008の流れをくむマシン。F2008は、セッティングのレンジが狭く、サーキットによって、タイヤの温まりやアンダーステアに問題があった。しかし、今年はそのポイントを改善してくることだろう。ドライバーは、昨年最後まで優勝を争ったフェリペ・マッサとキミ・ライコネン。マッサは昨年の経験で一回り成長することが期待されており、ライコネンもF60がフィットすれば競争力を取り戻すだろう。また、フェラーリはKERSの開発が順調に進んでおり、アドバンテージを得る可能性もある。ただし、そこには信頼性という負の要素も存在する。そこを改善し、昨年のような信頼性や些細なミスによる取りこぼしがなければ、優勝候補の筆頭といえるだろう。
BMWザウバーも良い仕上がりをみせている。BMWは、昨年のカナダGPのクビサの優勝以降、予定通り2009年マシンBMW F1.09にリソースをシフトさせた。シーズン終了後すぐに2009年のエアロパッケージをテストし、KERSのトラック走行も行った。他チームより2か月早いテストがアドバンテージとなっている。しかし、最もKERS導入していたBMWだが、ここにきてKERSの開発が遅れている様子。このKERSの搭載・非搭載がマシンの性能にどれくらい影響するかは未知数といえる。
新車発表以来、安定したパフォーマンスを見せているのがトヨタだ。TF109はトヨタらしい堅実なエアロコンセプトを採用。テストでは、ロングランにおいてフェラーリにも並ぶペースをみせており、レース中のパフォーマンスに期待がかかる。トヨタは、早くからシーズン序盤にはKERSを使用しないことを決定し準備を進めている。ハイブリッドで豊富な経験をもつトヨタがKERSの使用を見送った点が興味深い。トヨタは、2009年の勝負の年と定めて並々ならぬ決意で挑んでいる。チーム初優勝、そしてチャンピオンシップを争う資質を今のところは備えているようにみえる。
レッドブルとウィリアムズはトップチームに食い込めるか
プライベーターであるレッドブルとウィリアムズも面白いポジションにつけている。レッドブル RB5は、鬼才エイドリアン・ニューウェイの想像力が随所にみられるエアロマシン。リアサスペンションにプルロッド式を採用し、マシンの低重心化を徹底。ドライバーにも経験豊富なマーク・ウェバーと勢いに乗っているセバスチャン・ベッテルを起用。またルノーが30馬力差といわれたエンジンの改良を認められたことも朗報といえる。それにより、コンマ2秒はアドバンテージを得られることになる。ただし、極端にコンパクト化したリアエンドの排熱性が今から懸念されているのも確か。レッドブルは信頼性の問題を解決すれば今季上位チームの仲間入りを果たすポテンシャルを秘めているといえる。
一方のウィリアムズも今シーズンにかける意気込みは強い。ウィリアムズも昨シーズンから今シーズンマシンFW31にリソースをシフトさせてきた。FW31は一見シンプルな構造の中に、独自のディテールが織り込まれたマシン。フェンスのような効果を生み出すサイドポッド、リアエンドへの気流をコントロールする雪かきソリューション、またドライバーコックピット両脇に立てられてスケートフィンなど、アイデアは豊富だ。また、フライホイール式のKERSも重量配分や排熱性でアドバンテージを得られる可能性がある。ただし、そのKERSの開発が遅れていることが懸念事項といえる。
マクラーレンとルノーの実力はいかに?!
マクラーレンのパフォーマンス不足が問題視されている。MP4-24は序盤のテストを2008年仕様のウイングで行っていたことからリアエンドに問題を抱えているとの推測が広まっており、最近のテストではタイムシートの中団以下に沈んでいる。また、2年目のシーズンとなるルイス・ハミルトンとヘイキ・コバライネンのマシン開発能力の真価が問われる年になるともいえるだろう。昨年の優勝マシンMP4-23は、エイドリアン・ニューウェイが設計しその後のトレンドを生んだMP4-20、フェルナンド・アロンソが熟成させたMP4-22の流れを組む完成されたマシンだった。しかし、レギュレーションが改善された今年は、全く新しいマシンということになる。また、ハミルトンとコバライネンはマシンの好みが対極にあるといわれ、そこもデメリットになる可能性がある。ただし、多くの経験をもつマクラーレン。KERSの開発は順調とされており、このまま中団に沈むとは到底思えない。
ルノーもその実力が未知数だ。ルノー R29は、テスト開始では苦しんでいたが、最近のテストでは好パフォーマンスを見せている。しかし、フロントノーズやサイドポッドなどのエアロデザインは奇抜であり、それが正解か不正解かは判断がつかない。アロンソも現段階ではトップ10がやっととの発言をしている。ただし、ルノーもKERSの開発は順調といわれており、テスト中もKERSを搭載しての走行が多い。そして、昨年末にパフォーマンスを向上させ、シンガポールGPと日本GPで優勝するという実績をみせている。2度のワールドチャンピオンの実力とマシン開発力は疑いなく、昨年のように大きく飛躍する可能性はある。
トロ・ロッソとフォース・インディアは下位争いを脱することができるか?
昨年は親チームであるレッヅブルを凌ぐパフォーマンスをみせたトロ・ロッソ。今年は開幕から新車STR4を手にいれ、昨年よりスタート地点は良い。ドライバーは2年目のセバスチャン・ブルデーとセバスチャン・ブエミの新ダブル・セバスチャン。同じシャシーを採用するレッドブル RB5が好パフォーマンスをみせているため、必然的にポテンシャルは高いと思われる。しかし、予算的には厳しい1年になることが予想され、昨年みせたようなチーム力・エンジニアリング力を見せられるかが鍵となるだろう。
フォース・インディア VJM02は、マクラーレン・メルセデスとの提携により、メルセデスエンジン、マクラーレンのギアボックスとKERSを採用する。エンジンとギアボックスをセットで供給されるため、チームはそれ以外の部分にリソースを集中させられるメリットがある。元来、低予算で運営されていたチームだけに、工夫されたディテールには定評のあるチーム。そのメリットをどのように生かせるかが、最下位を脱出する鍵となるだろう。
しかし、トロ・ロッソ、フォース・インディアともに、新車の発表が遅れたことにより、テスト不足という懸念点が存在する。先にも述べたようにスリックタイヤの使い方がレースを大きく分けることが想像されるため、その差をいかに埋められるかにかかっていると思われる。
いずれにせよ、テストでは、特にトップチームは本来のパフォーマンスを隠している可能性が大いにあり、全チームの実力はやはりオーストラリアGPの予選で明らかになるだろう。さらに復活したスリックタイヤのマネジメント、KERSの導入なども明暗を分けることになる。最初の4戦で大体のパフォーマンスを把握し、次のヨーロッパラウンドでどのような動きがあるか注目したい。(F1-Gate.com)
カテゴリー: F1 / F1マシン
2009年は大幅なレギュレーション変更があり、F1マシンの外観は大きく様変わりした。オーバーテイク促進を目指し、フロントウイングは低く幅広くなり、リアウイングは狭く高い形状に変更、装飾ウイングも禁止されたことで2009年のグリッドに並ぶF1マシンはバラエティに富んだものとなる。
台風の目となるか?!ブラウンGP
先週のバルセロナでF1パドックを騒然とさせたのがブラウンGPだ。初テストとなるバルロナテストで、ブラウンGPのマシンBGP001は3日目と最終日にトップタイムを記録。しかも、2位以下に1秒近くの差をつける圧倒的なタイムを叩き出した。フェラーリをはじめ、予選シミュレーションを実施していたチームもあり、燃料量が問題ではないだろう。BGP001は、2009年の勝利を目指し、ホンダF1が2008年シーズンを捨ててまで開発を行った意欲作。ロス・ブラウンがはじめから開発に携わったマシンでもある。そのため、エアロ処理など随所にアドバンテージがみられる。エンジンは、土壇場でホンダエンジンからメルセデスエンジンに載せ替えとなった。しかし、バルセロナでは信頼性に問題はみられず、むしろメルセデスエンジンを得たことがプラスに働いているようだ。また、ブラウンGPはKERSを搭載しないことを選択。それにより、30kgといわれる重量をバラストとして用いることが可能。これもシーズン開始時にはアドバンテージとなるだろう。しかし、懸念点はテスト不足。スリックタイヤが復活となり2つのタイヤの特性も変わった今年は、タイヤマネジメントが重要となる。テスト開始が遅れたブラウンGPは、データ量では圧倒的に少ない。しかし、チームを率いるのはかの名称ロス・ブラウン。ロス・ブラウンの経験と采配が、シーズン中盤以降のパフォーマンスの鍵となってくるだろう。
やはり優勝候補は、フェラーリとBMWザウバー、そしてトヨタ!
ブラウンGPのサプライズはあるだろうが、やはり優勝候補はフェラーリと言えるだろう。フェラーリの新型マシンF60は、基本的に前年マシンF2008の流れをくむマシン。F2008は、セッティングのレンジが狭く、サーキットによって、タイヤの温まりやアンダーステアに問題があった。しかし、今年はそのポイントを改善してくることだろう。ドライバーは、昨年最後まで優勝を争ったフェリペ・マッサとキミ・ライコネン。マッサは昨年の経験で一回り成長することが期待されており、ライコネンもF60がフィットすれば競争力を取り戻すだろう。また、フェラーリはKERSの開発が順調に進んでおり、アドバンテージを得る可能性もある。ただし、そこには信頼性という負の要素も存在する。そこを改善し、昨年のような信頼性や些細なミスによる取りこぼしがなければ、優勝候補の筆頭といえるだろう。
BMWザウバーも良い仕上がりをみせている。BMWは、昨年のカナダGPのクビサの優勝以降、予定通り2009年マシンBMW F1.09にリソースをシフトさせた。シーズン終了後すぐに2009年のエアロパッケージをテストし、KERSのトラック走行も行った。他チームより2か月早いテストがアドバンテージとなっている。しかし、最もKERS導入していたBMWだが、ここにきてKERSの開発が遅れている様子。このKERSの搭載・非搭載がマシンの性能にどれくらい影響するかは未知数といえる。
新車発表以来、安定したパフォーマンスを見せているのがトヨタだ。TF109はトヨタらしい堅実なエアロコンセプトを採用。テストでは、ロングランにおいてフェラーリにも並ぶペースをみせており、レース中のパフォーマンスに期待がかかる。トヨタは、早くからシーズン序盤にはKERSを使用しないことを決定し準備を進めている。ハイブリッドで豊富な経験をもつトヨタがKERSの使用を見送った点が興味深い。トヨタは、2009年の勝負の年と定めて並々ならぬ決意で挑んでいる。チーム初優勝、そしてチャンピオンシップを争う資質を今のところは備えているようにみえる。
レッドブルとウィリアムズはトップチームに食い込めるか
プライベーターであるレッドブルとウィリアムズも面白いポジションにつけている。レッドブル RB5は、鬼才エイドリアン・ニューウェイの想像力が随所にみられるエアロマシン。リアサスペンションにプルロッド式を採用し、マシンの低重心化を徹底。ドライバーにも経験豊富なマーク・ウェバーと勢いに乗っているセバスチャン・ベッテルを起用。またルノーが30馬力差といわれたエンジンの改良を認められたことも朗報といえる。それにより、コンマ2秒はアドバンテージを得られることになる。ただし、極端にコンパクト化したリアエンドの排熱性が今から懸念されているのも確か。レッドブルは信頼性の問題を解決すれば今季上位チームの仲間入りを果たすポテンシャルを秘めているといえる。
一方のウィリアムズも今シーズンにかける意気込みは強い。ウィリアムズも昨シーズンから今シーズンマシンFW31にリソースをシフトさせてきた。FW31は一見シンプルな構造の中に、独自のディテールが織り込まれたマシン。フェンスのような効果を生み出すサイドポッド、リアエンドへの気流をコントロールする雪かきソリューション、またドライバーコックピット両脇に立てられてスケートフィンなど、アイデアは豊富だ。また、フライホイール式のKERSも重量配分や排熱性でアドバンテージを得られる可能性がある。ただし、そのKERSの開発が遅れていることが懸念事項といえる。
マクラーレンとルノーの実力はいかに?!
マクラーレンのパフォーマンス不足が問題視されている。MP4-24は序盤のテストを2008年仕様のウイングで行っていたことからリアエンドに問題を抱えているとの推測が広まっており、最近のテストではタイムシートの中団以下に沈んでいる。また、2年目のシーズンとなるルイス・ハミルトンとヘイキ・コバライネンのマシン開発能力の真価が問われる年になるともいえるだろう。昨年の優勝マシンMP4-23は、エイドリアン・ニューウェイが設計しその後のトレンドを生んだMP4-20、フェルナンド・アロンソが熟成させたMP4-22の流れを組む完成されたマシンだった。しかし、レギュレーションが改善された今年は、全く新しいマシンということになる。また、ハミルトンとコバライネンはマシンの好みが対極にあるといわれ、そこもデメリットになる可能性がある。ただし、多くの経験をもつマクラーレン。KERSの開発は順調とされており、このまま中団に沈むとは到底思えない。
ルノーもその実力が未知数だ。ルノー R29は、テスト開始では苦しんでいたが、最近のテストでは好パフォーマンスを見せている。しかし、フロントノーズやサイドポッドなどのエアロデザインは奇抜であり、それが正解か不正解かは判断がつかない。アロンソも現段階ではトップ10がやっととの発言をしている。ただし、ルノーもKERSの開発は順調といわれており、テスト中もKERSを搭載しての走行が多い。そして、昨年末にパフォーマンスを向上させ、シンガポールGPと日本GPで優勝するという実績をみせている。2度のワールドチャンピオンの実力とマシン開発力は疑いなく、昨年のように大きく飛躍する可能性はある。
トロ・ロッソとフォース・インディアは下位争いを脱することができるか?
昨年は親チームであるレッヅブルを凌ぐパフォーマンスをみせたトロ・ロッソ。今年は開幕から新車STR4を手にいれ、昨年よりスタート地点は良い。ドライバーは2年目のセバスチャン・ブルデーとセバスチャン・ブエミの新ダブル・セバスチャン。同じシャシーを採用するレッドブル RB5が好パフォーマンスをみせているため、必然的にポテンシャルは高いと思われる。しかし、予算的には厳しい1年になることが予想され、昨年みせたようなチーム力・エンジニアリング力を見せられるかが鍵となるだろう。
フォース・インディア VJM02は、マクラーレン・メルセデスとの提携により、メルセデスエンジン、マクラーレンのギアボックスとKERSを採用する。エンジンとギアボックスをセットで供給されるため、チームはそれ以外の部分にリソースを集中させられるメリットがある。元来、低予算で運営されていたチームだけに、工夫されたディテールには定評のあるチーム。そのメリットをどのように生かせるかが、最下位を脱出する鍵となるだろう。
しかし、トロ・ロッソ、フォース・インディアともに、新車の発表が遅れたことにより、テスト不足という懸念点が存在する。先にも述べたようにスリックタイヤの使い方がレースを大きく分けることが想像されるため、その差をいかに埋められるかにかかっていると思われる。
いずれにせよ、テストでは、特にトップチームは本来のパフォーマンスを隠している可能性が大いにあり、全チームの実力はやはりオーストラリアGPの予選で明らかになるだろう。さらに復活したスリックタイヤのマネジメント、KERSの導入なども明暗を分けることになる。最初の4戦で大体のパフォーマンスを把握し、次のヨーロッパラウンドでどのような動きがあるか注目したい。(F1-Gate.com)
カテゴリー: F1 / F1マシン