角田裕毅の後任最有力に浮上 レッドブルF1がアイザック・ハジャーを高評価
当初、アイザック・ハジャーにF1のチャンスを与えた際、レッドブルは懐疑的だった。しかし、わずか9戦を終えただけで、その多くの懸念は払拭され、2026年に向けた昇格候補の最右翼と目されるまでになった。角田裕毅がレッドブルのマシンに順応できなかった場合の話ではあるが、これは外部だけでなく、レッドブル内部でも高まりつつある見解だ。

理想的には角田裕毅が成功を収めることが望ましい。2025年シーズンを全うすることはほぼ確実であり、よほど致命的な低迷がない限り、体制変更は起こらないだろう。

ただ、選択肢が限られている中で、ハジャーは真剣な代替候補となっているのは事実だ。とはいえ差し迫った決断ではなく、スペイングランプリでチーム代表クリスチャン・ホーナーが強調したように、レッドブルにはまだ「時間の余裕」がある。

「まだ角田について判断するのは早い」と、ハジャーの昇格可能性について問われたホーナーは語った。

「彼はまだ適応中だ。Q3進出もしているし、ポイントも獲得した。ピットレーンスタートからもポイントを取った。いくつかのインシデントもあったが、まだ道のりは長い。我々には時間があるので、じっくり決めていく」

角田裕毅 レッドブル F1

それでも、ハジャーが「次なる候補」としての位置を確立したことは、印象の大逆転に他ならない。もともとハジャーは、セルジオ・ペレスの解雇とリアム・ローソンの昇格によりレーシングブルズに空席ができたことで、繰り上がりでシートを得たにすぎなかった。

F2でランキング2位に入ったこともあってハジャーが候補となったが、2023年と2024年の3回のFP1走行では目立った印象を残せず、レッドブル側もメンタリティやアプローチに懐疑的だった(中でも2023年メキシコでの走行は比較的良かったが)。つまり、期待値は低かったのだ。

だが、オーストラリアでのF1デビュー戦――フォーメーションラップでクラッシュという散々なスタート――を経て以降、ハジャーは着実に信頼を勝ち取っていった。今では、レッドブル内で「2番手に速いドライバー」とまで評されている。

9戦中5戦でポイントを獲得。初得点は鈴鹿での8位で、予選・決勝ともに中団をリードする走りを見せた。三連戦では、注目の新人キミ・アントネッリやオリー・ベアマンが苦戦する中、ハジャーは常にトップ10圏内にいた。しかも、事前の走行距離が極めて少ない中での成果だ。

予選ではQ3進出5回、Q2敗退4回。マイアミのスプリント予選でもSQ3入り。レーシングブルズは比較的扱いやすいマシンだが、それでもQ1敗退が一度もないという安定感は、ルーキーとして特筆に値する。

確かにバーレーンではQ2の最後にやや慎重になりすぎたと認めていたが、それも「わずかな差」だった。スタートミスとタイヤのオーバーヒートで無得点に終わったが、それ以外はほぼすべてのレースで堅実に走り切っている。

開幕2戦で角田裕毅とチームを組んでいた際には、平均予選タイム差はわずか0.009秒。ローソン復帰以降は、平均0.2秒ほど上回っている。

特に印象的なのは、「オーストラリアのミス」を除けば、彼が毎戦しっかりと走り切っていることだ。イモラのQ3でタムブレロでのミスに苛立ち、5コーナー後のピラテラまでステアリングを叩き続ける姿も見られたが、決勝では見事に立て直した。

鈴鹿ではQ1中に体調不良で崩れかけたものの、そこから気持ちを切り替え、最終的に8位フィニッシュ。モナコではFP2で2度のクラッシュに見舞われたが、そこでも持ち直して好予選・好決勝を戦い抜いた。

感情的な側面は確かにあるが、それが結果に悪影響を及ぼしたことはなく、むしろ「必要な場面で切り替えられる」ことが好意的に評価されている。レッドブルが懸念していた「感情コントロール」も、今のところ大きな問題にはなっていない。彼は“ピアストリ型の冷静なドライバー”ではないが、2025年のF1ルーキーの中では最も信頼できる存在と見なされている。

アイザック・ハジャー レッドブル F1

もちろん、これだけで「昇格に値する」と言い切るのは早計だ。レッドブルのセカンドチームで輝いたドライバーが、本家に昇格して苦しんだ例は数多い(ガスリー、アルボン、ペレス、ローソン、そして今の角田裕毅)。だが、2024年アブダビのポストシーズンテストでレッドブルをドライブした際にも、ハジャーの走りは高く評価された。

そのテストでは角田裕毅も同じマシンを走らせていたが、ハジャーは2024年仕様タイヤ、角田裕毅は2025年仕様という違いがある中で、ハジャーが0.057秒上回った。タイム自体はあまり意味を持たないが、チーム内ではハジャーの速さが際立っていたという認識がある。

今や、ハジャーはそのスピードを“驚くほど安定的に”発揮できるドライバーとなっており、「もし角田裕毅が乗り越えられない場合」の“論理的な選択肢”とみなされている。

ただし、時期としては最適とは言えない。レッドブルは経験豊富なトップドライバー――たとえばルクレールやピアストリ――を獲得するにはコストがかかりすぎるし、現実的な選択肢も多くない。唯一、候補として名前が挙がるとすれば、かつて獲得寸前まで話が進んでいたバルテリ・ボッタス程度だ。

レッドブル・レーシング F1

一方で、ハジャーがレッドブルでフェルスタッペンに挑んだとしても、成功する保証はどこにもない。RB21のような「扱いにくいマシン」で苦戦した実績は、歴代のセカンドドライバーたちが証明している。

そもそも、ハジャーのドライビングスタイルは“深いブレーキングからコーナーに飛び込む”タイプであり、フェルスタッペンのスタイルとは一致しない。仮に2026年のレッドブルが今と同様の“じゃじゃ馬”マシンだった場合、今のパフォーマンスがそのまま通用するとは限らない。

モナコでハジャーはこう語っている。

「シーズン序盤は自分に対して疑問があった。テスト走行が少なかったから、このクルマをちゃんと扱えるのか不安だった。だけど今はもう疑っていない。想像以上に早く慣れることができたし、ここまで自分でも想像していなかったくらい順調に進んでいる。これ以上ないスタートだと思っている」

理想的には、もう少しレーシングブルズで経験を積み、昇格のタイミングを見極めるべきだ。F1キャリア序盤での成功が「即昇格」のシグナルになってしまうと、時期尚早で失敗するリスクが高まる。

それでも、もし角田裕毅が“レッドブルで成功する道”を見出せなかった場合、その穴を埋める候補として、ハジャーは間違いなく最有力だ。

レッドブルは本気で角田裕毅に成功してほしいと願っており、そのためには「フェルスタッペンのスタイルを真似するのではなく、別のセットアップアプローチで自分の強みを活かす」ことが必要だと考えている。そうすることで、たとえパフォーマンスの最大値は下がっても、安定的に高いパフォーマンスを引き出せる可能性がある。

それがレッドブルにとっても、そしてハジャーにとっても、最善の未来につながるだろう。今のところ、彼のF1キャリアは「理想的な滑り出し」と言える。

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カテゴリー: F1 / 角田裕毅 / レッドブル・レーシング / アイザック・ハジャー