マックス・フェルスタッペンはなぜ去らなかったのか メルセデスF1接触の真相

その沈黙を破るように、フェルスタッペンが初めて当時の状況と自身の価値観について語った。そこにあったのは、単なる契約やパフォーマンスを超えた、レッドブルとの深い結びつきだった。
噂が広がった2025年中盤と「一線」
2025年F1シーズン中盤、2026年F1レギュレーション大改革を前に不確実性が高まる中で、フェルスタッペンの将来を巡る噂が一気に加速した。
フェルスタッペンはレッドブルと2028年末まで契約を結んでいるが、それでも彼の名前はグリッド最大の「もしも」の中心に置かれた。
この噂は8月のハンガリーGPを前に、公の場でいったん終止符が打たれる。
「今こそ噂を止める時だと思う。僕にとっては、残ることはずっと明確だった」
そう語り、2026年もレッドブルにとどまる意思を明言した。
だが、明確さは「会話が一切なかった」ことを意味するわけではなかった。
フェルスタッペンが語る“決断の基準”
フェルスタッペンはBBC Sportのインタビューで、仮に将来を考えるとき、F1での速さだけでは決断に至らないと強調した。
「僕にとってはF1だけの話じゃない。何かを変えるには、いろいろな要素がすべて揃わないといけない。将来の役割だったり、そういうことも含めてだ」
「もし何かを変えるとしたら、それは本当に大きなことになる。ここは第二の家族のような存在だから、それを簡単に他で再現することはできない」
「速いF1マシンが欲しいからとか、環境を変えたいからという理由だけで動くことはない。F1の外でやっていることも含めて、すべてが噛み合わないといけない」
この言葉から浮かび上がるのは、フェルスタッペンの忠誠心が契約ではなく、文化的で感情的な結びつきに根ざしているという事実だ。

「話し合いはあった」──しかし意味合いは
では、メルセデスとの話し合いは本当にあったのか。その問いに対し、フェルスタッペンは否定しなかった。
「正直に言えば、話し合いは確かにあった。でも同時に、とてもフレンドリーでオープンなものだった。それ以上のものではない」
興味や対話と、迷いは別物だという姿勢が、そこにはにじむ。
フェルスタッペンにとって、価値を理解した上での対話は自然な行為であり、それが今いる場所への疑念を意味するわけではない。
F1の外でも続く“完成形”への探求
フェルスタッペンの視線は、常にF1の枠内だけに収まっていない。9月にはニュルブルクリンク北コースでGT3デビュー戦勝利を挙げ、その後も多様なカテゴリーで走り続けている。
「常に細部を探し続けている。クルマを学び、自分自身を学ぶためだ。F1の外でもいろいろなことをしている」
「いろいろなクルマを走らせることは、F1でレースをする上でも決してマイナスにはならない。より完成度の高い、オールラウンドなドライバーになるためだ」
この姿勢もまた、彼が“今すぐ環境を変える理由がない”ことを物語っている。
メルセデスとの話し合いは、確かに一瞬背景に存在した。しかし、レッドブルとの信頼、歴史、共有されたビジョンは揺らいでいない。
速さと憶測に支配されがちなF1の世界で、フェルスタッペンのメッセージは静かだが明確だ。
レッドブルを去るには、速いマシン以上の理由が必要になる。それは「家族」を書き換える決断に等しいのだから。
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