マックス・フェルスタッペン 圧勝の2023年F1シーズンを振り返る
マックス・フェルスタッペンにとっては「勝利がすべて」だ。F1史上最も圧倒的なシーズンを締め括ったオランダのライオンが、F1ワールドチャンピオン3連覇までの道のりを振り返った。

“史上最高” 尽くしのF1 2023シーズンでマックス・フェルスタッペンが達成した記録の数はあまりに多く、その重みで各記録の重要性が潰れてしまうように思えるほどだ。

しかし、このオラクル・レッドブル・レーシングを牽引するエースドライバーは第21戦ブラジルGPでひときわ重大な記録を成し遂げた。それは、過去71年間破られず、2023シーズン前までは更新不可能とさえ考えられていた金字塔だ。

ブラジルGPを制してシーズン17勝目を飾った結果、2023シーズンのフェルスタッペンの勝率はかつて1952シーズンにアルベルト・アスカリが残した75%をはるかに超え、85%という前代未聞の数字(※)に達した。少なくとも、この数字と記録はフェルスタッペンの3冠達成シーズンがいかに驚異的だったかを裏付けている。

※さらに第22戦ラスベガスGP・最終戦アブダビGPでも優勝した結果、2023シーズンのフェルスタッペンは開催中止となった第6戦エミリア・ロマーニャGPを除く全22戦で19勝をマーク。最終的な勝率は86.4%に到達した。

では、フェルスタッペンにとって、この圧倒的なシーズンにおけるハイライトは何だったのだろうか? 後悔しているミスはあるのだろうか? ワールドチャンピオン3連覇を成し遂げた26歳のオランダ人ドライバーが、第21戦ブラジルGP後にパーフェクトシーズンの中で特に際立っていた瞬間をピックアップした。

まずはバーレーンでのテストと開幕戦まで時を戻しましょう。RB19がチャンピオンシップを制圧するマシンになることは最初から実感できていましたか?
マックス・フェルスタッペン:大興奮はしなかった。僕たちはとても落ち着いていたよ。RB19の感触は良かったけれど、ライバルたちがどんなことをしているかは分からなかったから、とにかく平静を保ち、自分たちの走行プランに徹する必要があった。テストは非常に安定していて、トラブルにいくつも遭遇することもなく、マシンを上手く走らせることができた。かなり順調だった。

開幕戦はライバル勢とかなりの接戦になると予想していた。だから、バーレーンでのRB19の好調ぶりには良い意味で驚かされたけれど、あくまで1レースに過ぎない。当然、そのあとも自分たちのマシンが速く、特にレースで強いことが分かれば、見通しはかなり明るくなる。

また、僕たちは、圧倒的なマシンでも簡単にミスが起きてしまうようなタフなコンディションでも良いリザルトが得られた。ほとんどのレースで僕たちは驚異的な仕事をやってのけることができた。

マックス・フェルスタッペンフェルスタッペンの驚異的なシーズンは開幕戦バーレーンでの優勝から始まった

RB19はいきなり圧倒的だったわけではありません。サウジアラビアではメカニカルトラブルに見舞われ、あなたもRB19に100%満足していませんでした。状況が変わったのはいつだったのでしょうか?
バクー(第4戦アゼルバイジャンGP)だ。僕が勝ったわけではないから最高のレースではなかったけれど、多くの学びを得た。実際にレースで優勝するよりも得られた学びの方が重要になるときもある。なぜなら、バクー以降の僕たちは素晴らしい快進撃を続けることになったからね。

僕たちがバクーで発見したのは、ブレーキバイアス、デフロック、エンジンブレーキ間のごくわずかなマシンセッティングだ。このような部分はマシンへの理解を深めている段階では扱いが非常に難しい。でも、バクーはそのセッティングを試して最適解が得られたという意味で重要なレースだった。
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バクーでの学びが1週間後のマイアミGP優勝に活きたのですね。
そうだね。でも、自分の予選のせいで少しばかり難しくしてしまった(フェルスタッペンは9番手から決勝をスタート)けれどね! とはいえ、僕たちに優れたレースペースがあることは分かっていた。良いリザルトが得られる自信もあった。

いずれにせよ冷静を保つ必要があった。なぜなら、僕は大半のライバルと違う戦略を選び、ハードタイヤでスタートしてファーストスティントをかなり長く引っ張る必要があったからね。あのときはこれがかなり上手く機能したんだ。

だから、マイアミが再び軌道に乗るための素晴らしい週末になったことは確かだ。バクーで試したセッティング変更はマイアミでもう少し感触が良くなり、よりニュートラルに感じられるようになった。

今シーズン最も印象に残っている瞬間のひとつが、モナコGPであなたが獲得したポールポジションです。Q3最後のフライングラップで、あなたは最終セクターに入るまでフェルナンド・アロンソに0.3秒遅れていましたが、コントロールラインを越えるとアロンソに0.084秒差をつけていました。セクター3のコーナー数はわずか7ですが、どのようにしてあのようなタイムを出したのでしょう?
自分が遅れを取っていることは分かっていたし、あの最終セクターを普段通りにまとめるだけでは追いつけないことも分かっていた。あの時は「ウォールにクラッシュするか、信じられないようなセクタータイムが出るかどうかはともかく、全力で攻めなければ」と考えていた。

ときには、コンフォートゾーンの少し外側へ踏み出してリスクを取らなければならない。普段ならその必要はないけれど、ストリートサーキットではそのようなリスクを取るべき場合もある。

確かにあのときはマシンの左右が何度かガードレールをかすめていたね! でもラッキーなことに上手くいった。あのような瞬間はアドレナリンが大量に出るから面白い。モナコのようなサーキットは心拍数が高いままだし、良いラップをまとめるために要求される集中力も他のサーキットより常に少し高めだ。

マイアミGPは10連勝、そして他を寄せ付けないパフォーマンスの始まりとなりました。あなたが最も圧倒的な強さを示せたと考えているのはどのレースですか?
当然だけれど、すべてのレースが異なる展開になる。マシンがいきなり最高のときもあれば、最初は全然まとまっていないときもある。そうかと思えば、すべてがまとまりドライブの感触が信じられないほど素晴らしい週末もある。

バルセロナはそれに近い感じだったと思う(スペインGPでのフェルスタッペンはポールポジション / ファステストラップ / 優勝 / 全周回リードの “グランドスラム” を達成)。

でも、個人的にバルセロナよりさらに良かったのは鈴鹿での日本GPだ。前戦のシンガポールはかなり落胆させられる結果だったけれど、FIAがフロントウイングの新規定を導入したことも敗因のひとつだった。

あのときは誰もが「新規定のせいでマックスはシンガポールで苦戦した」と言っていたけれど、僕としては「新規定なんて関係ないことを鈴鹿で見せてやる」という気持ちだった。鈴鹿で良いリザルトを手に入れるためにものすごく燃えていた。

鈴鹿でのポールポジションがあなたにとって今年最高の予選だったのでしょうか?
最高の予選は他にも数回あった。ベルギーGPでのポールポジションはカウントされないかもしれないけれど(ギアボックス交換による5グリッド降格ペナルティが科された)、僕が一番楽しめた予選のひとつだ。雨上がりのスパのようなコンディションでは、ドライバーの実力をすべて出さなければならない。

とはいえ、鈴鹿でのRB19はまるでレールの上を走っているかのようで、ドライブしていて信じられない気持ちだった。あのとき、僕はドライブしながら笑顔を浮かべていたけれど、予選ラップでああなることは滅多にない。

マックス・フェルスタッペン F1ザントフォールトのトリッキーな天候もフェルスタッペンの勝利を阻めなかった

今シーズン最大のプレッシャーを感じたのはどのレースでしたか?
良い質問だね。路面コンディションにもよるからなんとも言えない。たとえば、ザントフォールトの決勝は雨の中をスリックタイヤでドライブしていた。

普段ならウェットでのドライビングは楽しいけれど、チャンピオンシップをリードしているのにコースアウトしてスタックしてしまったら、大量のポイントを失うことを知っていた。だから、当然ながら限界の少し下あたりをキープしながらドライブするわけだけれど、ある意味それもまた危険なんだ。

あのときスリックを履いて走っていた僕はちょっとプレッシャーを感じていたはずだ。失うものが何もない後方のドライバーたちが自分より少し速くなるときがある。タイトル争いをしているときはまったく異なる心境になるんだ。

2023シーズンは数多くの記録が達成されましたが、最も印象的だったひとつがセバスチャン・ベッテルが保持していた歴代最多連勝記録の更新で、あなたはイタリアGPで10連勝を達成しました。あなたは常々「記録のためにレースをしているわけではないので、スタッツは重要ではない」と発言していますが、イタリアGPのスタート前は記録更新が頭をよぎったのではないですか?
あの週末は優勝できるチャンスが大きいことを知っていたので、とにかく落ち着くことを意識していた。もちろん、10連勝の可能性については「そうなれば素晴らしい」とは思っていた。

レース前に若干ナーバスになるのはいつものことだけれど、自分にできるのはミスを犯さないようにすることと、できるだけベストなレースをすることだけだ。ナーバスになるのは記録更新がかかっているからではなくて、突然マシンに違和感を覚える可能性があるからだ。

好調が続いていると、世間は連勝記録を意識するようになる。チームにとってはすごく良いことだけれど、僕自身は週末ごとの自分のパフォーマンスを評価していくだけだ。

マックス・フェルスタッペン F1 レッドブル・レーシングオラクル・レッドブル・レーシングのクルーたちと3度目のタイトル獲得を祝うオラクル・レッドブル・レーシングのクルーたちと3度目のタイトル獲得を祝う

カタールはいかがでしたか? タイトル獲得がドラマティックな展開の代わりにスプリントレース2位入賞で決まったことは気になりませんでしたか?
気にならないね。次のチャンスが来たらタイトルを決めてやろうと固く心に決めていた。正直に言うと、タイトルを獲れるのなら、いつ・どのようにして獲るかは関係ない。僕にとってはチャンピオンになることが最も重要だ。

あなたの2023シーズンは17勝・表彰台獲得2回・ポールポジション11回・スプリント4勝・ファステストラップ8回・史上最多ポイント獲得・史上最多連勝・チーム史上最多優勝回数・最多勝率の更新(本インタビューが収録された第21戦ブラジルGP終了時点)など、目覚ましい記録尽くしの1年になりました。では、今年ミスを犯した場面はあったのでしょうか?
そう来たか(笑)。そうだね、シルバーストンではピットレーンに出ていきなりウォールにヒットしてしまった。あれは少し恥ずかしかった。

でも、あの前に誰かをひいてしまったせいで色々あった。1本のケーブルがマシンに引っかかってしまい、ホイールが乗り越えたことでマシンが跳ね、一旦後ろを向いてから前を向き直そうとしたときに上手くターンできなかった。だから、あれはミスということになるね。

真面目な話、現在はバジェットキャップ制度が導入されているし、結果としてウイングを壊してしまったことに変わりはなく、チームにとって出費になる。だから、あれは僕のミスだし、自分に怒りを感じていた。

自分に怒りを感じるときがたまにあるけれど、翌日に違う結果を出せることも分かっている。だから「このミスは忘れて明日に向けて集中して挽回しよう」という心境だった。僕はいつもこう考えるようにしている。

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カテゴリー: F1 / マックス・フェルスタッペン / レッドブル・レーシング