佐藤琢磨、インディカー開幕直前インタビュー
佐藤琢磨が、2013年インディカー開幕戦を控えてインタビューに答え、プレシーズンテストの仕上がりや開幕戦の目標を語った。
開幕を目前に控え、バーバー・モータースポーツパークで行われた2日間のテストについて、自己評価を聞かせてください。
確実に前進ができたテストでした。なかなか難しく、思い通りにいかなかった部分もありました。
僕たちは1台体制ですから、やはり、全部のテスト項目の確認作業も自分でやらなければならず、やりたいと考えていたメニューに対し、その半分ぐらいしか今回のテストでは終わらせることができませんでした。テストになると、複数台いるチームの強みが顕著に現れます。それを感じましたね。
マシンの仕上がり具合はどうですか?
ロードコース用の基本的なマシン作りに関して、自分たちにはまだまだ課題があります。そう感じた2日間でした。ただ、開幕戦のセント・ピーターズバーグは、ここバーバー・モータースポーツパークとは全くタイプの異なるストリートコースなので、僕たちはセブリング(インターナショナル・レースウェイ)で行ったストリート用のテストでいい感触を得ていますから、それを武器にいいレースを戦いたいと思います。第2戦でここアラバマに戻って来るときには、気温も上がっているでしょうし、今度はレッドタイヤもあります。状況は今回とはまた変わっていると思います。
テスト1日目から2日目に向けて、マシンセッティングを大きく変更したそうですが、目指す進歩は達成できましたか?
テスト1日目から2日目に向けては、考えていたほどにセッティングを大きく変更できませんでした。1日目である程度の方向性が見えて、その考えに従ってマシンを作ってみたのですが、スピードアップできる余地があまりなく、バランスも思うようにまとまってきませんでした。そんな状況に対応して足回りのセッティング変更を重ね、重量配分など基本的なところの変更をいくつかやりましたが、あまり結果につながらず、少し苦労しました。そういう意味で、テスト2日目も結構厳しい一日でした。朝の気温が低く、路面も悪かったテスト1日目に比べれば、走行距離はかせぐことができましたが、テストプログラムから自分たちが考えていた通りの結果が出ず、確認作業が増えていました。
それでもテスト終了間際、2日目の午後のプラクティスで5番手、2日間の総合で7番手にランクされるラップタイムが出せました。2日間のトップと比較すると0.6秒という差がありましたが、なにかいい発見があったのですか?
テストの終盤の走行では、2日間かけて勉強してきたことを一つにまとめ、ニュータイヤで予選シミュレーションに近いアタックを行いました。全力でのアタックになっていましたから、それでもトップにコンマ6秒の差をつけられたということは重く受け止めています。ポジションは5番手まで上がれましたが、順位はあまり参考にできないかもしれません。タイム差が結構大きいので、これが開幕前に行うことができる最後のテストだと考えると少し不安もあります。しかし、チームはこれからデータを解析しますから、次にバーバー・モータースポーツパークに戻ってくるときに、どれだけマシンへの理解度を高められているか、それがカギになると思います。
バーバー・モータースポーツパークは、オフシーズンの間に路面を改修し、コンディションが昨年とは大きく違っていました。そこで気になるのがタイヤの耐久性ですが、2日間のテストでどう感じましたか?
路面だけでなく、タイヤも新しくなっています。構造もコンパウンドも昨年までとは違っています。ラップタイムの大きなゲインが、それらのタイヤ側の違いによって達成されたのか、タイヤの変更が影響をしていないのかを理解できていません。路面を削ったことでサーキット自体が速くなっていますが、走行を重ねるとラップタイムのダウンはかなり大きい。走っているとタイムがどんどん落ちていきます。バランスも、そのマシンが持っているバランス次第ではありますが、アンダーステアやオーバーステアというハンドリング傾向が、走行を重ねていくとさらに大きくなっていきます。そこにインディカーの2種類あるタイヤが影響してきます。昨年もバーバー・モータースポーツパークでのレースでは、ハードなプライマリータイヤとソフトなオプショナルタイヤの間に大きな差がありましたよね? 黒いサイドウォールを持つハードタイヤの耐久性があまりよくありませんでした。その状況は今年も変わっていないと思います。
タイヤの耐久性からくるラップタイムの落ち込みの大きさは、今年のレースでのピットタイミングなどの作戦にまで影響しそうですか?
そうですね。レースのある4月には気温もグッと上がりますから、その分、タイヤのゴムに対する負荷も大きくなります。路面が速くなった分、走り始めのラップタイムは上がりますが、摩耗の進み具合も大きくなると思いますから、トレッド表面がオーバーヒートをし出したら、あっという間にラップタイムは落ちるでしょう。そういう意味で、僕たちはタイヤに優しいマシン作りをしなければいけません。しかしそれをやると、速いラップタイムが出せなかったりします。セブリングで行ったテストでは『自分たちのセッティングがタイヤに優しいのかな』という印象を持ちました。最終的にいいタイムも出せました。今回のバーバーでのテストにおいては、自分たちはロングランをやることができませんでしたが、周回を重ねたタイヤでのラップタイムの落ち込みは大きかったです。最後にそこそこのタイムが出せたことはよかったと思うのですが、実際のラップタイムの差以上に自分たちに与えられた課題は大きいと感じています。
2013年シーズン用の新Hondaエンジンはどういう印象ですか?
昨年と比べ、エンジン全体を着実にレベルアップしてきていますね。ドライバビリティも上がっているので感触はすごくいいです。プッシュ・トゥ・パスを使ってハイブーストになったときのパフォーマンスもいいですから、セント・ピーターズバーグの開幕戦でライバルたちとレースをするのが楽しみです。今年さらに重要な要素になる耐久性に関しても、今回のテストでも自分たちのエンジンには一切問題は出ていませんし、ほかのHondaチームでも問題が出たという話は聞いていません。昨年一シーズンを戦って、このオフの間にも懸命の開発を続けたことにより、耐久性を大きく向上させてくれたと感じています。また、燃費を突き詰め、パワーもさらに引き出すという最も根本的な部分においても、昨年より大きくパフォーマンスが上がっていると感じています。
2回テストをやって、トータル3日間の走行を終えましたが、A.J. Foyt Racingというチームと一緒に仕事をすることにはずいぶんと慣れましたか?
それはもう全く問題ない状態になっています。メカニックたちはすごくよくしてくれていますし、シーズンを一緒に戦うことをとても楽しみにしてくれています。こちらとしても毎回走るのが楽しいし、気持ちがいいんです。エンジニアのドン・ハリデイともいい関係を築けてきています。今回のテストでは、走行2日目の午後になにをやってもうまくいかないときがありました。そこではチームの皆にフラストレーションがたまっていたと思うのですが、自分たちは正しく対処ができたと思います。あのような状況では、いかに冷静に、正しい軌道に戻せるかが大事だと思います。僕たちは一度基本に戻って確認をし、その結果、ニュータイヤに替えて走ったときにいいラップタイムが出せました。昨年も見えていたA.J. Foyt Racingの安定感が今年も存在している。そう感じることができました。マシンからさらなるスピードをいかにして引き出すかが一つの課題ですが、エンジニアとはとてもいい感じで仕事ができていますし、ラリー・フォイトはすごく細かくチームを見てくれているので、シーズンが進む中で、さらにA.J. Foyt Racingはよくなっていくと期待しています。
走行2日目の終盤、1セットのタイヤを長く使い続けて、最終的にマシンのセッティングを向上させられたというのは、ベテランエンジニアの力が出たところだったのですか?
はい、そうだと思います。もちろん、酷使をするとタイヤがどう変化するのかを見たかったという事情もありました。もっと早くコンディションのいいタイヤを投入したいと感じていましたが、1つの比較テストを完了させるためにも同じタイヤで走り続ける必要もありました。ただ、あのときはラップタイムが悪く、マシンのバランスも悪く、ドライバーの自分としても機嫌が悪くなってくる……と、とても難しい状況でした。
あのときの我慢が、結果的に最後に出る速いラップタイムにつながったということですね?
そうです。マシンやタイヤに対する理解度をかなり深めることができたと思います。
ピットストップなど、シーズン開幕に向けたチームの準備はどうですか?
今回の2日間のテスト中にもピットストップの練習を繰り返しました。しかし、計画していただけの量の練習ができませんでした。燃料を入れるパートの練習を今回はやっていて、前回のセブリングでのテストではタイヤ交換の練習をかなり行いました。それでもまだ練習が少ないと思いますが、豊富な経験を持つチームですし、僕自身もインディカーは4年目ですから、お互いに余裕を持ち、確実な状態で開幕戦を迎えることができると思います。
開幕戦の予選、決勝の目標を教えてください。
昨年のセント・ピーターズバーグでの開幕戦は、予選をマシンに不具合を持ったままの状態で迎えたため、あまりいい戦い方ができませんでした。しかし、決勝ではいい走りができました。だから、サーキットに対する僕自身の持つ好感度というのは高いです。そして、今年のレースに対する期待度も高いです。A.J. Foyt Racingは、昨年のセント・ピーターズバーグで力強いレースを戦っていましたから、お互いに1シーズンを経てさらに進化をしているところを見せたいですね。ほかの出場チームのレベルアップも大きく、今シーズンの勢力図がどうなっていくのかもまだ分かっていませんが、自分たちとしては予選でも決勝でもベストのリザルトを手に入れたいと考えています。
カテゴリー: F1 / 佐藤琢磨 / インディカー
開幕を目前に控え、バーバー・モータースポーツパークで行われた2日間のテストについて、自己評価を聞かせてください。
確実に前進ができたテストでした。なかなか難しく、思い通りにいかなかった部分もありました。
僕たちは1台体制ですから、やはり、全部のテスト項目の確認作業も自分でやらなければならず、やりたいと考えていたメニューに対し、その半分ぐらいしか今回のテストでは終わらせることができませんでした。テストになると、複数台いるチームの強みが顕著に現れます。それを感じましたね。
マシンの仕上がり具合はどうですか?
ロードコース用の基本的なマシン作りに関して、自分たちにはまだまだ課題があります。そう感じた2日間でした。ただ、開幕戦のセント・ピーターズバーグは、ここバーバー・モータースポーツパークとは全くタイプの異なるストリートコースなので、僕たちはセブリング(インターナショナル・レースウェイ)で行ったストリート用のテストでいい感触を得ていますから、それを武器にいいレースを戦いたいと思います。第2戦でここアラバマに戻って来るときには、気温も上がっているでしょうし、今度はレッドタイヤもあります。状況は今回とはまた変わっていると思います。
テスト1日目から2日目に向けて、マシンセッティングを大きく変更したそうですが、目指す進歩は達成できましたか?
テスト1日目から2日目に向けては、考えていたほどにセッティングを大きく変更できませんでした。1日目である程度の方向性が見えて、その考えに従ってマシンを作ってみたのですが、スピードアップできる余地があまりなく、バランスも思うようにまとまってきませんでした。そんな状況に対応して足回りのセッティング変更を重ね、重量配分など基本的なところの変更をいくつかやりましたが、あまり結果につながらず、少し苦労しました。そういう意味で、テスト2日目も結構厳しい一日でした。朝の気温が低く、路面も悪かったテスト1日目に比べれば、走行距離はかせぐことができましたが、テストプログラムから自分たちが考えていた通りの結果が出ず、確認作業が増えていました。
それでもテスト終了間際、2日目の午後のプラクティスで5番手、2日間の総合で7番手にランクされるラップタイムが出せました。2日間のトップと比較すると0.6秒という差がありましたが、なにかいい発見があったのですか?
テストの終盤の走行では、2日間かけて勉強してきたことを一つにまとめ、ニュータイヤで予選シミュレーションに近いアタックを行いました。全力でのアタックになっていましたから、それでもトップにコンマ6秒の差をつけられたということは重く受け止めています。ポジションは5番手まで上がれましたが、順位はあまり参考にできないかもしれません。タイム差が結構大きいので、これが開幕前に行うことができる最後のテストだと考えると少し不安もあります。しかし、チームはこれからデータを解析しますから、次にバーバー・モータースポーツパークに戻ってくるときに、どれだけマシンへの理解度を高められているか、それがカギになると思います。
バーバー・モータースポーツパークは、オフシーズンの間に路面を改修し、コンディションが昨年とは大きく違っていました。そこで気になるのがタイヤの耐久性ですが、2日間のテストでどう感じましたか?
路面だけでなく、タイヤも新しくなっています。構造もコンパウンドも昨年までとは違っています。ラップタイムの大きなゲインが、それらのタイヤ側の違いによって達成されたのか、タイヤの変更が影響をしていないのかを理解できていません。路面を削ったことでサーキット自体が速くなっていますが、走行を重ねるとラップタイムのダウンはかなり大きい。走っているとタイムがどんどん落ちていきます。バランスも、そのマシンが持っているバランス次第ではありますが、アンダーステアやオーバーステアというハンドリング傾向が、走行を重ねていくとさらに大きくなっていきます。そこにインディカーの2種類あるタイヤが影響してきます。昨年もバーバー・モータースポーツパークでのレースでは、ハードなプライマリータイヤとソフトなオプショナルタイヤの間に大きな差がありましたよね? 黒いサイドウォールを持つハードタイヤの耐久性があまりよくありませんでした。その状況は今年も変わっていないと思います。
タイヤの耐久性からくるラップタイムの落ち込みの大きさは、今年のレースでのピットタイミングなどの作戦にまで影響しそうですか?
そうですね。レースのある4月には気温もグッと上がりますから、その分、タイヤのゴムに対する負荷も大きくなります。路面が速くなった分、走り始めのラップタイムは上がりますが、摩耗の進み具合も大きくなると思いますから、トレッド表面がオーバーヒートをし出したら、あっという間にラップタイムは落ちるでしょう。そういう意味で、僕たちはタイヤに優しいマシン作りをしなければいけません。しかしそれをやると、速いラップタイムが出せなかったりします。セブリングで行ったテストでは『自分たちのセッティングがタイヤに優しいのかな』という印象を持ちました。最終的にいいタイムも出せました。今回のバーバーでのテストにおいては、自分たちはロングランをやることができませんでしたが、周回を重ねたタイヤでのラップタイムの落ち込みは大きかったです。最後にそこそこのタイムが出せたことはよかったと思うのですが、実際のラップタイムの差以上に自分たちに与えられた課題は大きいと感じています。
2013年シーズン用の新Hondaエンジンはどういう印象ですか?
昨年と比べ、エンジン全体を着実にレベルアップしてきていますね。ドライバビリティも上がっているので感触はすごくいいです。プッシュ・トゥ・パスを使ってハイブーストになったときのパフォーマンスもいいですから、セント・ピーターズバーグの開幕戦でライバルたちとレースをするのが楽しみです。今年さらに重要な要素になる耐久性に関しても、今回のテストでも自分たちのエンジンには一切問題は出ていませんし、ほかのHondaチームでも問題が出たという話は聞いていません。昨年一シーズンを戦って、このオフの間にも懸命の開発を続けたことにより、耐久性を大きく向上させてくれたと感じています。また、燃費を突き詰め、パワーもさらに引き出すという最も根本的な部分においても、昨年より大きくパフォーマンスが上がっていると感じています。
2回テストをやって、トータル3日間の走行を終えましたが、A.J. Foyt Racingというチームと一緒に仕事をすることにはずいぶんと慣れましたか?
それはもう全く問題ない状態になっています。メカニックたちはすごくよくしてくれていますし、シーズンを一緒に戦うことをとても楽しみにしてくれています。こちらとしても毎回走るのが楽しいし、気持ちがいいんです。エンジニアのドン・ハリデイともいい関係を築けてきています。今回のテストでは、走行2日目の午後になにをやってもうまくいかないときがありました。そこではチームの皆にフラストレーションがたまっていたと思うのですが、自分たちは正しく対処ができたと思います。あのような状況では、いかに冷静に、正しい軌道に戻せるかが大事だと思います。僕たちは一度基本に戻って確認をし、その結果、ニュータイヤに替えて走ったときにいいラップタイムが出せました。昨年も見えていたA.J. Foyt Racingの安定感が今年も存在している。そう感じることができました。マシンからさらなるスピードをいかにして引き出すかが一つの課題ですが、エンジニアとはとてもいい感じで仕事ができていますし、ラリー・フォイトはすごく細かくチームを見てくれているので、シーズンが進む中で、さらにA.J. Foyt Racingはよくなっていくと期待しています。
走行2日目の終盤、1セットのタイヤを長く使い続けて、最終的にマシンのセッティングを向上させられたというのは、ベテランエンジニアの力が出たところだったのですか?
はい、そうだと思います。もちろん、酷使をするとタイヤがどう変化するのかを見たかったという事情もありました。もっと早くコンディションのいいタイヤを投入したいと感じていましたが、1つの比較テストを完了させるためにも同じタイヤで走り続ける必要もありました。ただ、あのときはラップタイムが悪く、マシンのバランスも悪く、ドライバーの自分としても機嫌が悪くなってくる……と、とても難しい状況でした。
あのときの我慢が、結果的に最後に出る速いラップタイムにつながったということですね?
そうです。マシンやタイヤに対する理解度をかなり深めることができたと思います。
ピットストップなど、シーズン開幕に向けたチームの準備はどうですか?
今回の2日間のテスト中にもピットストップの練習を繰り返しました。しかし、計画していただけの量の練習ができませんでした。燃料を入れるパートの練習を今回はやっていて、前回のセブリングでのテストではタイヤ交換の練習をかなり行いました。それでもまだ練習が少ないと思いますが、豊富な経験を持つチームですし、僕自身もインディカーは4年目ですから、お互いに余裕を持ち、確実な状態で開幕戦を迎えることができると思います。
開幕戦の予選、決勝の目標を教えてください。
昨年のセント・ピーターズバーグでの開幕戦は、予選をマシンに不具合を持ったままの状態で迎えたため、あまりいい戦い方ができませんでした。しかし、決勝ではいい走りができました。だから、サーキットに対する僕自身の持つ好感度というのは高いです。そして、今年のレースに対する期待度も高いです。A.J. Foyt Racingは、昨年のセント・ピーターズバーグで力強いレースを戦っていましたから、お互いに1シーズンを経てさらに進化をしているところを見せたいですね。ほかの出場チームのレベルアップも大きく、今シーズンの勢力図がどうなっていくのかもまだ分かっていませんが、自分たちとしては予選でも決勝でもベストのリザルトを手に入れたいと考えています。
カテゴリー: F1 / 佐藤琢磨 / インディカー