レッドブルF1で権力闘争か ホーナー解任直前にスイス信託が2%株式を取得
クリスチャン・ホーナーの突然の解任を受けて、レッドブル内部での権力構造に変化があったのではないかという憶測が広がっている。その引き金となったのが、わずか数日前にスイスの信託会社「Fides Trustees SA」がレッドブルGmbHの株式2%を取得したという事実だ。

オーストリアの商業登記簿によると、5月28日に承認申請がなされ、5月31日付で取引が正式に完了。この2%の株式は、タイの共同創業者チャレーム・ユウヴィディヤが保有していたもので、スイス・ジュネーブに拠点を置くFidesに移転された。

この動きに対し、オーストリア国内では「これこそがホーナー解任の本当の理由」とする見方もある。すなわち、ユウヴィディヤが2%の持ち分を放棄したことで、実質的な影響力まで失われたのではないかという推測だ。

だが、Motorsport-Total.comによる調査では、その主張を裏付ける具体的な証拠は見つかっていない。レッドブルGmbHもこの件については「社内または家族の意思決定についてはコメントしない」としたうえで、「このような信託構造は、大規模で成功した企業において永続的な継続性を確保するための一般的な手法だ」と説明している。

またFidesは、複数の超富裕層ファミリーの資産管理を行う「独立系の家族オフィス」であり、株式移転後もユウヴィディヤ家が実権を保持している可能性が高いとされる。

レッドブル・レーシング F1 クリスチャン・ホーナー

一方で、英国法人登記簿にも興味深い情報が見られる。レッドブルの英国拠点であるミルトンキーンズには、F1チーム「Red Bull Racing」や「Red Bull Technology」「Red Bull Powertrains」など6つの法人が存在し、そのすべてにおいてホーナーは取締役として名を連ねている。

2023年には、各法人で最も高額な報酬を受け取った役員の情報が開示されており、その金額は合計で年俸約2060万ポンド(約41億円)に上ると推定されている。ホーナーは現在も雇用契約上の地位を保持しており、会社からは「オペレーションの責任から解かれた」と発表されたが、本人は送別のスピーチで「今後も会社に雇用される」と述べたという。

ただし、Motorsport-Total.comの情報筋によれば、ホーナーが今後も長期的にレッドブルに残る可能性は低く、最終的には契約解除に伴う多額の退職金が支払われる見通しだ。

今回の一連の出来事において、スイス信託への株式移転が直接の引き金だったのか、それともタイ側からの支持が徐々に失われていった結果なのかは、依然として不透明だ。

しかし確かなのは、創業者ディートリッヒ・マテシッツ亡き後、オーストリア側とタイ側の間でレッドブル帝国の主導権をめぐる微妙な綱引きが続いているということだ。そしてその中で、かつて絶対的な権力を握っていたホーナーがついにその座を追われた――それが2025年7月のレッドブルの現実である。

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カテゴリー: F1 / レッドブル・レーシング