F1特集:おうち時間を楽しむF1をテーマにした名画 ベスト5
新型コロナウイルスの感染拡大防止のための“おうち時間”をゆっくりと過ごすためにF1特有の興奮と人間ドラマをスクリーンで再現した名作映画を紹介する。
ドライバーたちの熾烈なライバル関係とドラマ、様々な陰謀、そしてハイスピードな興奮に満ちたF1の世界が、ハリウッドシーンから何回もラブコールを送られてきたのは当然と言える。その中には、このスポーツにひどく惚れ込み、“F1サーカス” の再現を試みた映画監督もいる。
今回はその中から、不朽のクラシックとされる1966年の『グランプリ』から2013年の『ラッシュ / プライドと友情』(『アポロ13』で知られるロン・ハワード監督作品)に至るまで、F1を題材に扱った珠玉の名作映画を5本選りすぐって紹介する。
1.『グラン・プリ』(1966年)
公開から51年が経った今日でさえ、名匠ジョン・フランケンハイマーが監督したこのオスカー受賞作品に比肩できるF1映画は存在しない。1966年のF1シーズンを題材にし、3つの悲痛なラブストーリーをBGMにして展開されるこの作品は、1960年当時世界で最もグラマラスなスポーツとして急成長を遂げていたF1の世界に観客を没入させるために必要な要素を余すところなく備えていた。ハリウッド史上最高額(当時)が投じられた非常に魅惑的アクションシーンはで、ビジュアルと並んでサウンドも重要視されており、エンジンの咆哮が更なる臨場感を生み出していた。この作品の真のヒーローは、米国の人気ドラマシリーズ『ロックフォードの事件メモ』で知られるジェームズ・ガーナー演じるピート・アーロンでもなければ、名優イブ・モンタンが演じたアーロンの好敵手ジャン=ピエール・サルティでもない。この作品で最も強い印象を残しているのは、綿密に考え抜かれて用意されたサルティの台詞だ。「クラッシュを目にした時は、スロットルをさらに踏み込む。他のドライバーがそうできないことを知っているからさ」というその台詞からは、サルティが残酷だった当時のF1を冷静に見守っていたことが窺い知れる。
トリビア:ジェームズ・ガーナーが演じたピート・アーロンが着用していたヘルメットは、当時のF1に参戦していたニュージーランド人ドライバー、クリス・エイモンのヘルメットカラーリングと同じ。
2.『ウィークエンド・チャンピオン~モンテカルロ1971』(1972年)
当時最も有名な映画監督が、当時最も有名なレーシングドライバーのひとりをテーマに撮影したこのドキュメンタリーは、タイトルからも想像できる通り、1971年のモナコGPの週末を舞台にしている(実際にはそれ以外のシーンも若干含まれている)。ジャッキー・スチュワートとロマン・ポランスキーの2人はこの頃から友人関係にあったため、この作品では当時のF1のレース風景やサウンドが前例のない形で実にリアルに示されている。この作品は、「リヴィエラ・クール」と呼ばれたレーニエ公とグレース王妃の時代の美しいモナコを余すところなく映し出している。また、スチュワートのレース哲学、サーキットの安全性に対する彼の率直な視点、さらには彼の後継者と目され当時Tyrrellのチームメイトとして急成長を遂げていた愛弟子フランソワ・セヴェールに対する師弟愛なども垣間見ることができる。F1の歴史に明るい人ほど楽しめるので、おそらくは筋金入りのF1ファンのための作品と言えるが、そこまで詳しくないF1ファンにもおすすめできる作品だ。
トリビア:スチュワートとポランスキーがモナコF3レースを観戦するシーンがあるが、このレースには、後年F1デビューを果たすパトリック・ドゥパイエ、ジャン=ピエール・ジャブイーユ、ロジャー・ウィリアムソンが出走している。
3.『アイルトン・セナ ~ 音速の彼方へ』
この作品はモータースポーツ伝記映画というジャンルに再び脚光を集め、また、モータースポーツ伝記映画はかくあるべきという手本を示すことにもなった。3度のワールドチャンピオンに輝いた伝説のドライバーであり、途轍もなく大きな使命を背負っていたアイルトン・セナの人生を追っていることだけで既にこの作品は素晴らしいが、監督のアシフ・カパディアがFOMの貴重な映像アーカイブへのアクセスを特別に許されたため、いくつかの驚くべき秘蔵映像が確認できるという点も素晴らしい。中でも、セナの倫理観が剥き出しになるドライバー・ブリーフィングの場面は圧巻だ。この作品において惜しむべきは、セナ全盛期のF1を狭い視野で描いてしまっている点だ。この作品では、宿敵アラン・プロストが当時のFISA会長ジャン=マリー・バレストルと結託した悪役として描かれている。また、1988年エストリルでセナがプロストに対して行った危険な幅寄せ、そして両者の確執を決定づけた翌1989年イモラでの事件などについても言及されていない。また、セナが1992シーズンのタイトルを逃したのはマシンの戦闘力の低さが理由だとしている一方で、前年の1991シーズンにおいてナイジェル・マンセルとWilliamsの度重なるトラブルに助けられる形でセナがタイトルを手にできた事実についても一切言及がない。このようにいくらか事実が歪曲されているが、F1史に燦然と輝く不世出のキャラクターをテーマにしたストーリーとしては素晴らしく、非常に楽しめる内容になっている。
トリビア:アシフ・カパディア監督がこの次に手がけた作品は、故エイミー・ワインハウスの生涯を描いたドキュメンタリー『AMY エイミー』(2015年公開)。
4.『ラッシュ / プライドと友情』(2013年)
F1が初めて全世界にカラー放送された1976シーズンのタイトル争いは今も語り草となっており、Ferrariで前シーズンのチャンピオンを獲得した王者ニキ・ラウダと当時McLarenに加入したばかりの英国人ジェームズ・ハントの好対照なパーソナリティはレースファンたちを大いに惹きつけた。このクレイジーなシーズンを映画化するにあたり、監督のロン・ハワードはラウダ役にダニエル・ブリュールを抜擢。ブリュールはラウダの冷静沈着なパーソナリティを再現し、炎に包まれたニュルブルクリンクでのクラッシュから復活に至るまでの悲痛な過程を見事に演じきった。肺の膿を吸引する施術を受けた直後に「もっとやってくれ」と医師に懇願するシーンは迫真の演技だ。レースシーンの大半やセットは上手く再現されているが、一部不自然な部分もある。中でも顕著なのは、本来平坦な場所に建っているはずのポールリカール・サーキットのピットビルディングの再現シーンに、ブランズハッチ名物の急峻なパドックヒル・ベントが使われているという点だ。また、ラウダとハントの個人的なライバル関係も、史実やラウダ本人の記憶より誇張されている部分がある。ともあれ、繰り返し観たくなる傑作であることは間違いない。
トリビア:英国のBTCCにレギュラー参戦するロブ・オースティンがスタントドライバーとして参加しており、米国人レーサーであるブレット・ランガー役も演じている。ニュルブルクリンクでのドライバーズ・ミーティングのシーンで「あいつ怖がってんだろ」という台詞を発しているのが彼だ。
5.『伝説のレーサーたち - 命をかけた戦い -」
『アイルトン・セナ ~ 音速の彼方へ』の成功を受け、ポール・クラウダー監督が25年前に自身が着想したF1の安全性に関するドキュメンタリーの製作に踏み切った。この作品が公開された2014年初頭、F1では20年に渡り死亡事故が起きていなかった。この作品は、オスカー賞ノミネート経験を持つマイケル・ファスベンダーの朗々たるナレーションに導かれ、F1がその成長過程においてどうやって安全性を進化させてきたのかを年代順に追っていく。この作品の登場人物の豪華ぶりは素晴らしいものがある。マリオ・アンドレッティ、ジェンソン・バトン、エマーソン・フィッティパルディ、ルイス・ハミルトン、デイモン・ヒル、ニキ・ラウダ、ナイジェル・マンセル、ジョディ・シェクター、ミハエル・シューマッハ、サー・ジャッキー・スチュワート、セバスチャン・ベッテルなど、過去のワールドチャンピオン経験者たちが続々とインタビューに登場している上に、バーニー・エクレストンやマックス・モズレー、ロン・デニスなど、このスポーツの実力者たちも登場している。
スチュワートをはじめとする1960年代~1970年代を生き抜いた世代のドライバーたちが語る友人や同僚たちを事故で失った経験談や、事故で夫やパートナーを失った女性たちの人生を立て直すための超人的な努力に関するエピソードは観る者の胸を締め付けるが感動的だ。
トリビア:目ざといファンなら、1996年開幕戦メルボルンで記録されたマーティン・ブランドルの大クラッシュを回想するシーンに1994年アデレイドで開催されたオーストラリアGPの映像が混ざっている不自然さに気づくはずだ。
カテゴリー: F1 / F1動画
ドライバーたちの熾烈なライバル関係とドラマ、様々な陰謀、そしてハイスピードな興奮に満ちたF1の世界が、ハリウッドシーンから何回もラブコールを送られてきたのは当然と言える。その中には、このスポーツにひどく惚れ込み、“F1サーカス” の再現を試みた映画監督もいる。
今回はその中から、不朽のクラシックとされる1966年の『グランプリ』から2013年の『ラッシュ / プライドと友情』(『アポロ13』で知られるロン・ハワード監督作品)に至るまで、F1を題材に扱った珠玉の名作映画を5本選りすぐって紹介する。
1.『グラン・プリ』(1966年)
公開から51年が経った今日でさえ、名匠ジョン・フランケンハイマーが監督したこのオスカー受賞作品に比肩できるF1映画は存在しない。1966年のF1シーズンを題材にし、3つの悲痛なラブストーリーをBGMにして展開されるこの作品は、1960年当時世界で最もグラマラスなスポーツとして急成長を遂げていたF1の世界に観客を没入させるために必要な要素を余すところなく備えていた。ハリウッド史上最高額(当時)が投じられた非常に魅惑的アクションシーンはで、ビジュアルと並んでサウンドも重要視されており、エンジンの咆哮が更なる臨場感を生み出していた。この作品の真のヒーローは、米国の人気ドラマシリーズ『ロックフォードの事件メモ』で知られるジェームズ・ガーナー演じるピート・アーロンでもなければ、名優イブ・モンタンが演じたアーロンの好敵手ジャン=ピエール・サルティでもない。この作品で最も強い印象を残しているのは、綿密に考え抜かれて用意されたサルティの台詞だ。「クラッシュを目にした時は、スロットルをさらに踏み込む。他のドライバーがそうできないことを知っているからさ」というその台詞からは、サルティが残酷だった当時のF1を冷静に見守っていたことが窺い知れる。
トリビア:ジェームズ・ガーナーが演じたピート・アーロンが着用していたヘルメットは、当時のF1に参戦していたニュージーランド人ドライバー、クリス・エイモンのヘルメットカラーリングと同じ。
2.『ウィークエンド・チャンピオン~モンテカルロ1971』(1972年)
当時最も有名な映画監督が、当時最も有名なレーシングドライバーのひとりをテーマに撮影したこのドキュメンタリーは、タイトルからも想像できる通り、1971年のモナコGPの週末を舞台にしている(実際にはそれ以外のシーンも若干含まれている)。ジャッキー・スチュワートとロマン・ポランスキーの2人はこの頃から友人関係にあったため、この作品では当時のF1のレース風景やサウンドが前例のない形で実にリアルに示されている。この作品は、「リヴィエラ・クール」と呼ばれたレーニエ公とグレース王妃の時代の美しいモナコを余すところなく映し出している。また、スチュワートのレース哲学、サーキットの安全性に対する彼の率直な視点、さらには彼の後継者と目され当時Tyrrellのチームメイトとして急成長を遂げていた愛弟子フランソワ・セヴェールに対する師弟愛なども垣間見ることができる。F1の歴史に明るい人ほど楽しめるので、おそらくは筋金入りのF1ファンのための作品と言えるが、そこまで詳しくないF1ファンにもおすすめできる作品だ。
トリビア:スチュワートとポランスキーがモナコF3レースを観戦するシーンがあるが、このレースには、後年F1デビューを果たすパトリック・ドゥパイエ、ジャン=ピエール・ジャブイーユ、ロジャー・ウィリアムソンが出走している。
3.『アイルトン・セナ ~ 音速の彼方へ』
この作品はモータースポーツ伝記映画というジャンルに再び脚光を集め、また、モータースポーツ伝記映画はかくあるべきという手本を示すことにもなった。3度のワールドチャンピオンに輝いた伝説のドライバーであり、途轍もなく大きな使命を背負っていたアイルトン・セナの人生を追っていることだけで既にこの作品は素晴らしいが、監督のアシフ・カパディアがFOMの貴重な映像アーカイブへのアクセスを特別に許されたため、いくつかの驚くべき秘蔵映像が確認できるという点も素晴らしい。中でも、セナの倫理観が剥き出しになるドライバー・ブリーフィングの場面は圧巻だ。この作品において惜しむべきは、セナ全盛期のF1を狭い視野で描いてしまっている点だ。この作品では、宿敵アラン・プロストが当時のFISA会長ジャン=マリー・バレストルと結託した悪役として描かれている。また、1988年エストリルでセナがプロストに対して行った危険な幅寄せ、そして両者の確執を決定づけた翌1989年イモラでの事件などについても言及されていない。また、セナが1992シーズンのタイトルを逃したのはマシンの戦闘力の低さが理由だとしている一方で、前年の1991シーズンにおいてナイジェル・マンセルとWilliamsの度重なるトラブルに助けられる形でセナがタイトルを手にできた事実についても一切言及がない。このようにいくらか事実が歪曲されているが、F1史に燦然と輝く不世出のキャラクターをテーマにしたストーリーとしては素晴らしく、非常に楽しめる内容になっている。
トリビア:アシフ・カパディア監督がこの次に手がけた作品は、故エイミー・ワインハウスの生涯を描いたドキュメンタリー『AMY エイミー』(2015年公開)。
4.『ラッシュ / プライドと友情』(2013年)
F1が初めて全世界にカラー放送された1976シーズンのタイトル争いは今も語り草となっており、Ferrariで前シーズンのチャンピオンを獲得した王者ニキ・ラウダと当時McLarenに加入したばかりの英国人ジェームズ・ハントの好対照なパーソナリティはレースファンたちを大いに惹きつけた。このクレイジーなシーズンを映画化するにあたり、監督のロン・ハワードはラウダ役にダニエル・ブリュールを抜擢。ブリュールはラウダの冷静沈着なパーソナリティを再現し、炎に包まれたニュルブルクリンクでのクラッシュから復活に至るまでの悲痛な過程を見事に演じきった。肺の膿を吸引する施術を受けた直後に「もっとやってくれ」と医師に懇願するシーンは迫真の演技だ。レースシーンの大半やセットは上手く再現されているが、一部不自然な部分もある。中でも顕著なのは、本来平坦な場所に建っているはずのポールリカール・サーキットのピットビルディングの再現シーンに、ブランズハッチ名物の急峻なパドックヒル・ベントが使われているという点だ。また、ラウダとハントの個人的なライバル関係も、史実やラウダ本人の記憶より誇張されている部分がある。ともあれ、繰り返し観たくなる傑作であることは間違いない。
トリビア:英国のBTCCにレギュラー参戦するロブ・オースティンがスタントドライバーとして参加しており、米国人レーサーであるブレット・ランガー役も演じている。ニュルブルクリンクでのドライバーズ・ミーティングのシーンで「あいつ怖がってんだろ」という台詞を発しているのが彼だ。
5.『伝説のレーサーたち - 命をかけた戦い -」
『アイルトン・セナ ~ 音速の彼方へ』の成功を受け、ポール・クラウダー監督が25年前に自身が着想したF1の安全性に関するドキュメンタリーの製作に踏み切った。この作品が公開された2014年初頭、F1では20年に渡り死亡事故が起きていなかった。この作品は、オスカー賞ノミネート経験を持つマイケル・ファスベンダーの朗々たるナレーションに導かれ、F1がその成長過程においてどうやって安全性を進化させてきたのかを年代順に追っていく。この作品の登場人物の豪華ぶりは素晴らしいものがある。マリオ・アンドレッティ、ジェンソン・バトン、エマーソン・フィッティパルディ、ルイス・ハミルトン、デイモン・ヒル、ニキ・ラウダ、ナイジェル・マンセル、ジョディ・シェクター、ミハエル・シューマッハ、サー・ジャッキー・スチュワート、セバスチャン・ベッテルなど、過去のワールドチャンピオン経験者たちが続々とインタビューに登場している上に、バーニー・エクレストンやマックス・モズレー、ロン・デニスなど、このスポーツの実力者たちも登場している。
スチュワートをはじめとする1960年代~1970年代を生き抜いた世代のドライバーたちが語る友人や同僚たちを事故で失った経験談や、事故で夫やパートナーを失った女性たちの人生を立て直すための超人的な努力に関するエピソードは観る者の胸を締め付けるが感動的だ。
トリビア:目ざといファンなら、1996年開幕戦メルボルンで記録されたマーティン・ブランドルの大クラッシュを回想するシーンに1994年アデレイドで開催されたオーストラリアGPの映像が混ざっている不自然さに気づくはずだ。
カテゴリー: F1 / F1動画