ハースF1とトヨタの線引き「“金でシートを買う”は章男さんのやり方ではない」

日本人ドライバーやトヨタ系ドライバーがF1シートを得るのではないか、あるいは資金力を背景に「シートを買う」形になるのではないか。そうした見方に対し、ハースF1チーム代表の小松礼雄は明確な線引きを示した。
「“金でシートを買う”ようなことは、章男さんのやり方ではない」。トヨタとの協業が注目を集める今だからこそ、小松礼雄は繰り返し強調する。トヨタの関与はワークス化や特定ドライバーの押し込みを目的としたものではなく、あくまで人材育成と組織強化に軸足を置いた現実的なパートナーシップだ。その思想は、ハースF1のドライバー選考にもはっきりと反映されている。
トヨタがハースF1チームと結んだ今回の契約は、同社にとって2009年末にケルンを拠点とするワークスチームを撤退させて以来、実に16年ぶりとなるF1最高峰への関与となる。当時のトヨタは8シーズンにわたって多額の投資を行ったものの、レース勝利を挙げることはできず、結果としてF1から撤退した。
その後、トヨタのモータースポーツ活動は大きく舵を切る。F1撤退後はスポーツカー部門に注力し、世界耐久選手権で成功を重ね、ル・マン24時間レースでは5連覇を達成するなど、トップカテゴリーでの競争力を確立してきた。こうした経緯から、トヨタが再びF1に深く関与する可能性は、長らく現実的ではないと受け止められてきた。
その流れが変わり始めたのが昨年10月だ。前代表のギュンター・シュタイナーの後を継いでハースF1チーム代表に就任した小松礼雄と、トヨタCEOであり熱心なモータースポーツ愛好家として知られる豊田章男との間で、テクニカルパートナーシップ契約が結ばれた。これはトヨタにとって、ワークス復帰ではなく、あくまで協業という立ち位置を明確にした関与だった。
この提携によって、グリッドで最小規模のチームの一つであるハースには、実務面で大きな変化がもたらされた。その象徴が、TPC(Testing of Previous Car/旧型車テスト)プログラムの導入だ。2年以上前のマシンを用い、特定仕様のピレリタイヤで行われるこのプライベートテストは、現行車両の開発が厳しく制限されるF1において、若手ドライバーに走行機会を与えると同時に、エンジニアやメカニックの育成にも役立つ。

2025年シーズンを通じて、このTPCプログラムには複数のトヨタ系ドライバーが参加した。平川亮、宮田莉朋、坪井翔に加え、元ザウバーのベテランである小林可夢偉もハースVF-23で走行を行っている。また、かつてハースに所属していたロマン・グロージャンがテストに参加し、テレビ企画の一環としてジェームス・ヒンチクリフがステアリングを握る場面もあった。
なかでも平川亮は、アブダビGPの金曜FP1に出走するなど、F1の公式セッションでも経験を積んでいる。しかし小松礼雄は、トヨタの支援を受けるドライバーであっても、ハースのレースシートは実力によってのみ与えられると強調する。
「彼らの目標の一つは人材育成であり、その中にはドライバーも含まれます」と小松礼雄は語る。
「しかし最も重要なのはパフォーマンスです。レースカーに乗る人間は、パフォーマンス面で最良の選択でなければなりません。その点は全員が理解しています」
「仮に章男さんがアカデミー出身の日本人ドライバーを望んだとしても、そのドライバーが十分でなければ、起用すること自体が冗談になってしまいます。そうなれば『トヨタは金でシートを買った』と言われるでしょう。それは章男さんのやり方ではありません。我々のやり方でもありません。常にパフォーマンスでドライバーを選びます」
ロバンペラをめぐる憶測への明確な否定
トヨタのF1活動が拡大するなかで、WRC王者カッレ・ロバンペラのF1転向を巡る憶測も浮上している。ロバンペラはトヨタの支援のもとスーパーフォーミュラに参戦することになっており、将来的なシングルシーター挑戦が注目を集めている存在だ。
しかし、その動きがハースF1チームと直結するのかという点について、小松礼雄は明確に否定している。
「ロバンペラ選手がハースに来る?そんな計画は全くありません」と小松礼雄はmotorsport-total.comに語った。
「トヨタさんの関心と、うちの活動は別です。もちろん、彼が良いドライバーであることは間違いありませんが、現時点でハースの計画には入っていません」
トヨタの関与は確かに広がりを見せているが、それは特定のドライバーをF1に押し上げるためのものではない。ハースF1チームとトヨタの間には、役割と目的について明確な線引きが存在している。その根底にあるのは、「金でシートを買う」という発想を否定し、パフォーマンスを最優先するという一貫した姿勢だ。
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