F1と英政府が異例の接近 スターマー首相が官邸で記念レセプション開催
F1イギリスGP週に政治とF1が交差するのは珍しいことではない。だが、これまでは首相や閣僚がグリッド上に姿を見せたり、表彰台でトロフィーを授与する程度だった。

しかし今年は様相が異なる。F1発足75周年を記念し、イギリスGPを前にした水曜、F1関係者が首相官邸10ダウニング街に招かれ、キア・スターマー首相主催のレセプションが開催された。

庭園には、オリバー・ベアマン、エステバン・オコン、カルロス・サインツ、アレックス・アルボンといった現役F1ドライバーが顔を揃え、チーム代表の小松礼雄(ハース)、ジェームス・ボウルズ(ウィリアムズ)、アンディ・コーウェル(アストンマーティン)、ジョナサン・ウィートリー(ザウバー)、フラビオ・ブリアトーレ(アルピーヌ)も出席。

ほかにもリバティ・メディアのCEOデレク・チャン、元F1王者ジャッキー・スチュワート、デイモン・ヒル、ジェンソン・バトン、F1アカデミー責任者のスージー・ヴォルフ、モータースポーツUK会長のデイビッド・リチャーズらが集まった。

マクラーレンとウィリアムズのF1マシンが展示される中で記念撮影が行われたこの集まりは、一見するとフォトセッション中心の社交イベントのように見えるが、実際には非常に深い意味を持っていた。

F1は今や“変化の一部”として政治との連携を進める

かつて「スポーツと政治は混ぜるべきではない」とされたが、現代社会ではF1もこの考え方を改めている。政府と連携し、前向きな変化を後押しする方針だ。そして政府側もまた、F1が社会にもたらす影響力を無視できなくなっている。

F1産業は英国国内で6000人を直接雇用し、関連産業を含めれば4万1000人の雇用に関わり、年間120億ポンド(約2兆4000億円)もの経済効果をもたらしている。

F1 CEOのステファノ・ドメニカリは、ダウニング街の庭園でこう語った。

「F1は英国にとって世界に誇れる“名刺”だ。F1には人々を団結させ、感動を生み出し、現実世界にインパクトを与える解決策を見出す力がある。私はF1のリーダーとしてその役割を追求し続けたい」

現職首相がF1をここまで歓迎するのは前例のないこと

現職の英国首相がこれほど明確にF1への支持を表明するのは初めてだ。これまでもF1イベントに政治家が出席することはあったが、その多くは閣僚や副首相に留まっていた。

今回の招待について、スターマー首相は次のように語った。

「ここは政府の中心であり、私の職場であり、私の自宅でもある。この場所に皆さんをお迎えするのは、我々の意思表示だ。我々はF1を祝福するとともに、皆さんが行っているすべてを全力で支援したいという決意を示している」

首相はさらに、F1の技術が他産業に波及していることや、F1アカデミーやMission 44といった社会的プログラムの重要性にも言及。次のように語った。

「F1が我が国にもたらしているのは、技術やイノベーション、経済効果だけでなく、無数の人々に喜びを届け、英国の“ソフトパワー”と世界的な評価を高めていることだ。これは“ブランド・ブリテン”の一部だ」

「F1はずっと英国に根づいてきた」

イギリスグランプリ F1 イギリスGP

この発言が持つ意味は極めて大きい。F1に対する政府の好意的な姿勢は、今後の制度面や産業支援にも追い風となり得る。

モータースポーツUKのリチャーズ会長も、過去との違いをこう語る。

「昔のF1はタバコ会社にスポンサーされ、F1を仕切っていたのは英国に納税しない個人だった。その資金は海外に流れ出ていた。

それが今や、メーカーが続々と参入し、F1を中心に強固な産業基盤が英国に築かれている」

リチャーズは政府に対し「称賛し、後押しし、あとは放っておいてくれればいい」とコメント。

「F1から派生した産業は数多くある。それらに目を向け、支援してくれれば十分。F1そのものは健全なビジネスだ。『ここに本拠地があるって素晴らしいよね』と言ってくれれば、それだけでいい」

F1は今、英国でかつてないほどの成功を収めており、今回のダウニング街レセプションはその象徴だ。

スターマー首相は、最後にこう語った。

「僕は大のフットボールファンだけど、1966年以降ずっと“フットボールが帰ってくる”と夢見てきた。でもF1は最初から英国にあった。

1950年の初開催以来、10人の英国人ワールドチャンピオンが誕生している。これは本当に素晴らしいことだ。フットボールはまだ“帰還”の途上だけど、F1は何度でも“帰ってきている”」

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カテゴリー: F1 / F1イギリスGP