F1マシン列伝:ブラウンGP BGP001 “幻となったホンダ RA109”
ブラウンGPが2009年に圧倒的な強さでダブルタイトルを獲得したF1マシン『BGP001』は、ホンダがF1を継続していれば、『ホンダ RA109』としてグリッドに並んでいるはずのマシンだった。
大幅に空力コンセプトを変更した2007年マシン『RA107』の開発に失敗したホンダF1は、2008年にチーム代表としてロス・ブラウンを招聘して立て直しを図っていた。しかし、リーマン・ショックのあおりを受けてホンダは2008年限りでF1撤退を決断した。
チームは、ロス・ブラウンがホンダのF1活動に関連する企業を束ねる持株会社である「Honda GP Holdings Ltd.」社が保有するホンダF1株式の100%を買い取る形売却された。なおチームの売却価格は「1ポンド」であったほか、ホンダから新経営陣に「100億円に達しない額」の保証金も支払われていたとされている。
ホンダF1は、前年からの失敗を引きづった2008年マシン『RA108』に早期に見切りをつけ、新レギュレーションが導入される2009年にむけて『RA109』の開発にシフトしていた。ロス・ブラウンはマシン開発に当初から携わっていた。
チーム売却のごたごたによる開発の停滞、そして、F1エンジンをホンダからメルセデスに変更するという作業が発生したにも関わらず、ブラウンGP BGP001は冬のテストで衝撃的なデビューを飾る。BGP001は初テストでノーセットアップの状態からトップタイムを塗り替え、その実力は開幕前からフェラーリのフェリペ・マッサも「敵わない」と白旗を挙げるほどだった。
2009年、ブラウンGPは17戦中8勝を挙げる強さでコンストラクターズタイトルを獲得。6勝を挙げたジェンソン・バトンがドライバーズタイトルを獲得し、ダブルタイトルを制覇した。
では、なぜブラウンGP BGP001はそれほどまでに速かったのだろうか?
前述のとおり、2009年を勝負の年と見据えたホンダは、2008年シーズンを捨て、早くから2009年のレギュレーションに沿ったRA109の開発を進めてきた。その恩恵はしっかりと表れており、BGP001は全チームで最も遅い発表になったにも関わらず、各チームが冬季テストで早い時期から詰めてきたエアロコンセプトの長所をすでに備えていた。
論争となったダブルディフューザーを生み出したことからも、ホンダF1が空力レギュレーションに対して相当なシミュレーションが行われてきたことがわかる。
2009年のレギュレーションでダウンフォースは昨年の50%減となったが、各チームはテストの段階で80%くらいまでダウンフォースを取り戻していた。2008年時点でRA108のダウンフォースレベルは、すでに他チームに比べ90%以下だったとも言われている。そのため、継続起用となったバトン&バリチェロは、ダウンフォース削減の影響をほとんど感じなかったと考えられている。
そして、最も大きな影響を与えたのはメルセデス・エンジンだと考えられている。フェラーリ・エンジンの搭載も検討したブラウンGPだが、シャシーとのマッチングの良いメルセデス・エンジンを採用した。ブラウンGPのエンジニアはメルセデス・エンジンは、ホンダ・エンジンと比較して「70馬力は上」だと語っている。ルーベンス・バリチェロも、メルセデス・エンジンのパワーとドライバビリティの高さを絶賛。ブラウンGPの突然の速さがエンジンの違いによってもたらされたのは確かだ。
またブラウンGPは、同じくメルセデス・エンジンを搭載するフォース・インディアとは異なり、ホンダが独自に設計した相当軽量なギアボックスを搭載し、優れたリアのトラクションを発揮した。ギアボックスと連結するリアサスペンション、すなわち全体のサスペンション・ジオメトリーも独自に開発されたものであり、2009年マシンのパフォーマンスに苦しんだマクラーレンとは対照的だった。
そして、KERSを搭載していなかったこともアドバンテージとなった。KERSの開発には高いコストが掛かるため、ブラウンGPは、KERSの搭載を見送った。そのおかげで30kgといわれるKERSの重量による負荷を受けず、理想的な前後重量配分を保つことができた。また各チームがKERSの信頼性に時間を費やすなか、KERS非搭載のブラウンGPは大きなトラブルなく走行距離を延ばし、セットアップを煮詰めることに成功した。
仮にホンダが2009年もF1を継続していた場合、ホンダ RA109がブラウンGPと同じような強さを発揮できていたかはわからない。だが、仮に継続しれば、ホンダF1の運命は大きくことなっていたかもしれない。
最終的にブラウンGPはメルセデスが買収するかたちで1年で消滅。現在のダブルタイトルを6連覇中のメルセデスの拠点となっているのは、ホンダF1が築いたブラックリーのファクトリーだ。現在、レッドブルと組んだホンダF1はそのメルセデスを倒すべく開発を進めている。
カテゴリー: F1 / ブラウンGP / ホンダF1 / F1マシン
大幅に空力コンセプトを変更した2007年マシン『RA107』の開発に失敗したホンダF1は、2008年にチーム代表としてロス・ブラウンを招聘して立て直しを図っていた。しかし、リーマン・ショックのあおりを受けてホンダは2008年限りでF1撤退を決断した。
チームは、ロス・ブラウンがホンダのF1活動に関連する企業を束ねる持株会社である「Honda GP Holdings Ltd.」社が保有するホンダF1株式の100%を買い取る形売却された。なおチームの売却価格は「1ポンド」であったほか、ホンダから新経営陣に「100億円に達しない額」の保証金も支払われていたとされている。
ホンダF1は、前年からの失敗を引きづった2008年マシン『RA108』に早期に見切りをつけ、新レギュレーションが導入される2009年にむけて『RA109』の開発にシフトしていた。ロス・ブラウンはマシン開発に当初から携わっていた。
チーム売却のごたごたによる開発の停滞、そして、F1エンジンをホンダからメルセデスに変更するという作業が発生したにも関わらず、ブラウンGP BGP001は冬のテストで衝撃的なデビューを飾る。BGP001は初テストでノーセットアップの状態からトップタイムを塗り替え、その実力は開幕前からフェラーリのフェリペ・マッサも「敵わない」と白旗を挙げるほどだった。
2009年、ブラウンGPは17戦中8勝を挙げる強さでコンストラクターズタイトルを獲得。6勝を挙げたジェンソン・バトンがドライバーズタイトルを獲得し、ダブルタイトルを制覇した。
では、なぜブラウンGP BGP001はそれほどまでに速かったのだろうか?
前述のとおり、2009年を勝負の年と見据えたホンダは、2008年シーズンを捨て、早くから2009年のレギュレーションに沿ったRA109の開発を進めてきた。その恩恵はしっかりと表れており、BGP001は全チームで最も遅い発表になったにも関わらず、各チームが冬季テストで早い時期から詰めてきたエアロコンセプトの長所をすでに備えていた。
論争となったダブルディフューザーを生み出したことからも、ホンダF1が空力レギュレーションに対して相当なシミュレーションが行われてきたことがわかる。
2009年のレギュレーションでダウンフォースは昨年の50%減となったが、各チームはテストの段階で80%くらいまでダウンフォースを取り戻していた。2008年時点でRA108のダウンフォースレベルは、すでに他チームに比べ90%以下だったとも言われている。そのため、継続起用となったバトン&バリチェロは、ダウンフォース削減の影響をほとんど感じなかったと考えられている。
そして、最も大きな影響を与えたのはメルセデス・エンジンだと考えられている。フェラーリ・エンジンの搭載も検討したブラウンGPだが、シャシーとのマッチングの良いメルセデス・エンジンを採用した。ブラウンGPのエンジニアはメルセデス・エンジンは、ホンダ・エンジンと比較して「70馬力は上」だと語っている。ルーベンス・バリチェロも、メルセデス・エンジンのパワーとドライバビリティの高さを絶賛。ブラウンGPの突然の速さがエンジンの違いによってもたらされたのは確かだ。
またブラウンGPは、同じくメルセデス・エンジンを搭載するフォース・インディアとは異なり、ホンダが独自に設計した相当軽量なギアボックスを搭載し、優れたリアのトラクションを発揮した。ギアボックスと連結するリアサスペンション、すなわち全体のサスペンション・ジオメトリーも独自に開発されたものであり、2009年マシンのパフォーマンスに苦しんだマクラーレンとは対照的だった。
そして、KERSを搭載していなかったこともアドバンテージとなった。KERSの開発には高いコストが掛かるため、ブラウンGPは、KERSの搭載を見送った。そのおかげで30kgといわれるKERSの重量による負荷を受けず、理想的な前後重量配分を保つことができた。また各チームがKERSの信頼性に時間を費やすなか、KERS非搭載のブラウンGPは大きなトラブルなく走行距離を延ばし、セットアップを煮詰めることに成功した。
仮にホンダが2009年もF1を継続していた場合、ホンダ RA109がブラウンGPと同じような強さを発揮できていたかはわからない。だが、仮に継続しれば、ホンダF1の運命は大きくことなっていたかもしれない。
最終的にブラウンGPはメルセデスが買収するかたちで1年で消滅。現在のダブルタイトルを6連覇中のメルセデスの拠点となっているのは、ホンダF1が築いたブラックリーのファクトリーだ。現在、レッドブルと組んだホンダF1はそのメルセデスを倒すべく開発を進めている。
カテゴリー: F1 / ブラウンGP / ホンダF1 / F1マシン