フェリペ・マッサ弁護団 「F1首脳はクラッシュを意図的に隠蔽」 英高裁で主張
フェリペ・マッサ(元フェラーリF1ドライバー)が提起した2008年F1世界選手権を巡る訴訟が、ロンドン高等裁判所で終盤の局面を迎えている。訴訟の予審(pre-trial stage)は11月1日(金)に終了予定であり、正式審理(full hearing)に進むかどうかの判断が下される見通しだ。

マッサはFIA、Formula One Management(FOM)、および元F1最高責任者バーニー・エクレストンを相手取り、2008年のタイトルを失ったことに関する損害賠償を求めている。請求額は6400万ポンド(約120億円)にのぼる。

訴訟の焦点は、2008年シンガポールGPでの「クラッシュゲート」事件が、F1首脳陣によって意図的に隠蔽されたかどうかにある。

マッサ弁護団「F1首脳はクラッシュを意図的に隠蔽した」
マッサ側の弁護士ニック・デ・マルコKCは法廷で、当時のF1運営陣がネルソン・ピケJr.の故意クラッシュを「意図的に隠蔽した」と主張した。

「この意図的なクラッシュは、世界のスポーツ史上でも最も深刻な不正操作事件の一つだ。それは単にレース操作を目的としたものではなく、観客やドライバーの命を危険にさらす行為だった」とデ・マルコは語った。

「その後に起きたのは、この共謀の存在を意図的に隠す行為だ。スポーツの公正性を守るべき立場の人々が共謀し、史上最悪のスキャンダルを覆い隠そうとしたのだ」。

マッサは2023年に公開されたエクレストンのインタビューをきっかけに訴訟を起こしている。エクレストンは当時、「自分とFIA会長マックス・モズレーは“クラッシュゲート”を知っていたが、F1への悪影響を恐れて結果を取り消さなかった」と発言したとされている。

ただしエクレストンは後に「そのような発言をした記憶はない」と否定し、弁護士デヴィッド・クエストKCを通じて反論している。

「ハミルトンが上回っただけ」FOM側が反論
これに対し、FOMの弁護士アネリーズ・デイKCは、「マッサがチャンピオンになれなかったのは、単純にルイス・ハミルトンがシーズンを通して上回ったからだ」と主張した。

「この訴訟によってマッサが望む“賞”を手にすることはない。今後12〜18カ月にわたる訴訟で得をするのは弁護士だけだ」と述べたうえで、「シンガポールGPでもシーズン全体でも、ハミルトンはマッサ(および他の全員)を上回った。それに不当な点はない。マッサは史上最高のドライバーの一人と戦う不運に見舞われただけだ」と語った。

訴訟の背景 ― 「クラッシュゲート」がもたらした影響
問題の2008年シンガポールGPでは、ルノーのネルソン・ピケJr.がチームの指示で14周目に意図的にクラッシュ。これによりセーフティカーが導入され、チームメイトのフェルナンド・アロンソが戦略的に優位となって優勝した。

マッサはレースをリードしていたが、ピットストップで燃料ホースをつけたまま発進するミスにより13位でフィニッシュ。結果的にノーポイントに終わり、最終戦ブラジルGPでハミルトンに1ポイント差で王座を奪われた。

マッサ側は、「FIAが当時の事件を即座に調査し、シンガポールGPの結果を取り消していれば、選手権結果は覆っていた」と主張している。

裁判所の判断と今後の行方
予審では、FIA・FOM・エクレストン側が訴えの却下(strike out)を求めており、裁判所は本格審理に進めるかどうかを判断する。もし審理が認められれば、F1の最高機関が2008年当時にどのような情報を持っていたのか、そしてどのような判断を下したのかが法廷で改めて明らかにされることになる。

F1界に残る“17年前の傷跡”
シンガポールGPでの「クラッシュゲート」事件から17年。今もなおその影はF1界に残っている。今回の訴訟は単なる過去の結果争いにとどまらず、モータースポーツにおける公正性・統治責任・透明性といった根本的課題を再び問うものとなっている。

法廷が正式審理を認めるか否か、その判断はマッサにとってのみならず、F1の歴史と信頼性そのものを左右する分岐点となる。

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カテゴリー: F1 / フェリペ・マッサ