ホンダF1の副テクニカルディレクターを務める本橋正充が、F1メキシコGPでトロロッソ・ホンダが最新スペックのエンジンではなく“スペック2”を走らせた理由を説明した。アメリカGPから連戦となるメキシコGPで、トロロッソ・ホンダは、再びピエール・ガスリーのパワーユニット(PU)を未使用の新仕様に交換した。アメリカGP後、組み立て上の不具合の懸念が見つかったためで、シーズン残り2戦に全力を尽くすべく、今回ペナルティーを受け入れてでも新たなPUを投入する作戦を選択した。
ただ、メキシコGPでは、新仕様ではなく旧仕様のPUを使うことが事前からの既定路線だった。その理由をホンダF1の副テクニカルディレクターの本橋正充はこう説明する。「ロシアGPで新たなスペックのPUを投入したものの、メキシコの高地という特殊な状況では、平地とは違う特殊なキャリブレーションが必要なことは事前から分かっていました。そのため、パフォーマンスを最大限に把握しきれている旧仕様を入れて、ここに合わせたチューニングを行った方がパフォーマンスを発揮できるという判断をしました。新仕様については、ロシア、鈴鹿とやってきて、だいぶ手の内には入れていると思うのですが、メキシコという特殊な条件では何が起こるか分からないというのもありますし、きちんとレースを戦いたいという意味で、確実性があり、ほぼ把握した状態で使える旧仕様の方をここで使うことを決めていました」メキシコGPの開催されるメキシコシティは標高2200mを超える高地である。1965年、その高地での対応を武器にホンダF1が初めて勝利を獲得したグランプリとしても知られている。現在のPUにとって、高地がどう特殊で、それにどう対応したかについて本橋正充は語る。「標高の高さから空気密度が低くなってきますが、ICEには燃焼に必要な分の酸素を送り込まなければいけないので、その分ターボの仕事量が増えてきます。とはいってもレギュレーションを含めて、ターボの使い方、回転数などは制約があるので、ターボを高性能にすることには限界があります。そして、ターボが目一杯仕事をすると、燃焼を始めさまざまな部分の挙動が他のサーキットとは違ってくるため、そういったところのチューニングが必要になります。また、燃焼を賄えたとしてもエネルギーマネージメントも他とは変わってきます。特に一番大きいのは温度関連だと思っています。空気密度が低いというのは燃焼に対する酸素量だけではなく、PUの冷却面にも影響が出ます。通常より冷えなくなるので、若干高温になっても、きちんとトルクを出し、PU全体の機能として成立するようなセッティングやチューニングを施さなければなりません」高地対策に加え、もちろんサーキットの特性に合わせたセッティングにも気を使わなければならない。「このコースは長めのストレートもありますが、そこまでパワー感度が高いコースではありません。ストレートの後にコーナーがあってまたストレートという感じで、特にセクター3には中速から低速のコーナーがありますが、そこをうまく抜けないとストレートスピードが変わってきて、全体のラップタイムに影響が出ます。ですから、その部分を重視したドライバビリティーのセッティングが大事で、そういう意味でもドライバビリティー含めてより適切に対応できる旧スペックの方が、ここでは分があるのだと思います」と本橋正充は語った。メキシコGPの特殊性に対応したPUのセッティングと、車体側のアップデートがうまく噛み合い、プラクティスからトロロッソ・ホンダはペースよく走行した。ブレンドン・ハートレーはプラクティス1で9番手、プラクティス2で6番手となり、ガスリーもプラクティス3では8番手につける。予選では、Q1を10番手で突破したハートレーに期待がかかったが、最後のアタックでタイムを伸ばすことができず14番手にとどまった。決勝では、PU交換のためペナルティーを受け最後尾スタートとなったガスリーが、難しいタイヤ戦略をものにし、レース後半に速さを見せて10位入賞を果たした。この週末、マシン全体がうまく調整できた証となる1ポイント獲得だった。シーズンも大詰めとなり、残すところあと2戦。新仕様のPUの成果、そしてチーム全体のパフォーマンスアップを示し、今回失ったコンストラクターズチャンピオンシップの順位を回復するために、チームは一丸となって残り2戦に全力で挑む。