レッドブル・レーシングの週末は、アップグレードを継続して投入しながらも、その裏側で明暗が分かれる展開となった。アメリカGPの舞台オースティンでは、チームの哲学と体制、そして角田裕毅の立場が改めて浮き彫りになった。チームの技術責任者ピエール・ワシェは、終盤戦に向けて「諦めないアップグレード投入」を続ける方針を明らかにしていた。
フェラーリやメルセデスと2位争いを繰り広げる中、ミルトン・キーンズの製造能力を背景に、現行マシンの改良と2026年新規則車の開発を並行して進めていると強調していた。チームとの噛み合いと高まる去就の緊張感アメリカGPを前に角田裕毅は「チームと自分のリズムが噛み合い始めている」と語り、バクー以降で築いてきた手応えを自信に変えていた。「スプリント週末は一つひとつの走行が重要」と語り、短時間でマシンを仕上げる集中力を強調した。一方、ヘルムート・マルコは『Kleine Zeitung』に対し、2026年のレッドブル体制を「メキシコGP後に決定する」と明言。フェルスタッペン以外の3シートは未定のままであり、角田裕毅とリアム・ローソンの評価が分かれる正念場だとした。「注目度は高まったが、まだ結果が必要だ」と釘を刺す一方で、F2ドライバーのアービッド・リンドブラッドにも触れるなど、後継候補の名も挙げている。その発言を受け、角田裕毅は冷静に受け止めた。「最終的な判断はチームが下すことなので、自分ができるのは走りで証明することだけ」と語り、「自分がコントロールできるところに力を注ぐ」と静かに闘志をにじませた。シンガポールで苦戦したショートランの修正を課題に掲げ、「メキシコまでに結果で示すだけ」と締めくくっていた。型落ち仕様フロントウイングアメリカGPのフリー走行では、新型フロントウイングが投入されたのはエースドライバーのマックス・フェルスタッペンだけだった。角田裕毅のRB21には新仕様が間に合わず、前戦シンガポールと同じ型落ち仕様のフロントウイングが装着された。チームはFP1で比較テストを行ったが、実際には新型はフェルスタッペン用の1セットしか用意されていなかったとみられ、角田には選択肢がなかった。角田裕毅は事実上、“旧仕様を使うしかない立場”に置かれた。スプリント予選(金曜)時点でも新ウイングが割り当てられることはなく、角田は終日、型落ち仕様で走行するしかなかった。角田裕毅自身も木曜の取材でその点に言及している。「まだ試していませんが、ぜひ使ってみたいですね。見た目からしても、よりフロントの回頭性が上がるはずで、シンガポールの予選で自分に足りなかった部分を補ってくれると思います」「どれほどの差があるかは数字ではわかりませんが、確実に自分が求めている方向性です。現状ではフロントのツールを使い切っている状態なので、回頭性を加えられるのは大きい。ただ、今あるものでベストを尽くすつもりです」結果的に、角田裕毅はスプリント予選でも型落ち仕様のまま挑むことになり、マシン特性の違いと戦略判断のわずかなずれが、SQ1敗退という痛恨の結果へとつながった。スプリント予選での采配ミススプリント予選(SQ1)では、角田裕毅がチームの判断ミスにより最終アタックを開始できず、18番手で敗退した。残り1分46秒でピットを離れたが、渋滞とタイムリミットが重なり、最終コーナー手前でチェッカーフラッグを迎えてしまった。「すごく悔しいです。僕の問題ではなく、チームのタイミング管理の部分だったと思います」と角田はコメント。「何かが間違っていて、ラップをするチャンスがまったくなかったのは残念」と振り返った。この結果、スプリントでは後方18番手スタートを余儀なくされた。ローラン・メキース代表の謝罪レッドブル・レーシング代表ローラン・メキースは、角田裕毅のスプリント予選敗退について「我々のミスだ」と公に謝罪した。英スカイスポーツF1に対し、「プログラムがタイトすぎた。裕毅には謝らなければならない」と認めた。チームは冷却を優先して一度ピットに戻す戦略を選択したが、再出走までに約2分を要し、結果的に渋滞に巻き込まれた。無線でも「時間がギリギリだ」「間に合わないかもしれない」と角田が伝えていたが、チームはそのまま送り出した。ピエール・ワシェも「判断が誤っていた」と認め、チーム内部でのプロセス見直しを約束した。ワシェの見解「2回目のラップがあればSQ2進出」レッドブルのテクニカルディレクター、ピエール・ワシェはスプリント予選後、「もし2回目のラップを走れていれば、確実にSQ2に進出していた」と明言した。FP1で角田のマシンを担当した際、2種類のセットアップ比較を行った結果、角田側の仕様がよりバランスの取れた仕上がりだったと明かしている。「裕毅のセットアップの方が高速コーナーでのボトミングを改善し、低速域の性能も失わなかった」とワシェは語った。「マックスはすべてを完璧にまとめてポールを取ったが、裕毅は1周しか走れなかった。我々としては、彼がマシンのポテンシャルを発揮できるよう、体制を見直す必要がある」型落ち仕様と謝罪が示す“序列の現実”今回のアメリカGPでは、角田裕毅が型落ち仕様のフロントウイングをで走行し、さらに戦略ミスでアタック機会を逃すという二重の不運に見舞われた。その一方で、チーム代表と技術責任者がそろって謝罪と擁護のコメントを出したことは、内部的な信頼が失われていない証でもある。ただし、責任の一端は角田自身にもある。SQ1の1回目のアタックで十分なタイムを出せず、トップ15入りを逃したことが、結果的にチームが時間的リスクを取る判断につながった。もし初回走行で安全圏に入っていれば、後半の混雑に巻き込まれることはなかっただろう。チームのアップグレード投入方針やマルコの「結果を求める」発言に見られるように、角田裕毅に課せられたプレッシャーは明確だ。開発体制の中で常に比較・評価の対象に置かれる彼の立場は、いまだ安定とは言えない。型落ち仕様しか与えられなくとも、「走りで示す」と語った角田裕毅。限られたチャンスの中で、自らの力を証明する戦いは続いている。