2026年F1パワーユニットの圧縮比を巡って浮上しているメルセデスの技術的疑惑について、伊コリエレ・デッロ・スポルト紙がより踏み込んだ内幕を伝えている。それによれば、約7か月前、メルセデスのエンジニアがレッドブル・パワートレインに移籍した際、この仕組みを伝えたとされ、レッドブルは再現を試みたという。この移籍エンジニアを通じて伝えられた内部情報を起点に、V6エンジンの圧縮比が走行時に規定値を超えているのではないかという疑念が広がっている。
FIAは現時点で明確な否定を行っておらず、事実関係次第ではメルセデスPUを使用する複数チームを巻き込む深刻な問題へと発展する可能性がある。メルセデスPUを巡る疑惑が拡大 FIAは「禁止」か「容認」かの岐路に2026年F1パワーユニットを巡る“圧縮比問題”が、ここに来て一気に緊迫度を増している。メルセデスおよびレッドブルが、新レギュレーション下で想定以上の性能を引き出す手法を見つけたのではないかという疑惑について、チーム側もFIAも明確な否定を行っていないからだ。FIAは水面下で状況を注視していることを認めており、問題は収束するどころか拡大の様相を見せている。焦点はV6エンジンの「圧縮比」問題の核心は、内燃機関V6の圧縮比にある。圧縮比とは、ピストンの上下運動によってシリンダー内の混合気をどれだけ圧縮できるかを示す重要な指標で、エンジン効率と出力に直結する要素だ。一般に圧縮比が高いほど効率は向上し、同じ燃料量からより多くの出力を得られる一方、部品にはより大きな熱・機械的ストレスがかかる。2026年F1レギュレーションでは、電動出力が大幅に増加するのに伴い、内燃機関側の性能を抑制する目的で、圧縮比の上限が従来の18から16へと引き下げられた。しかし検証は「冷間状態」で行われるとされており、エンジンが作動して高温状態になると、コンロッドやクランクシャフト、ピストンなどの熱変形によって、実質的な圧縮比が変化する可能性がある。この点に着目し、走行時には事実上18相当の圧縮比に戻る仕組みを構築したのではないか、というのが今回の疑惑だ。「決定的な違い」 メルセデスは規定に戻せない可能性この問題が事実であれば、影響はメルセデスのワークスチームに留まらない。メルセデスPUを使用するマクラーレン、ウィリアムズ、アルピーヌも同様に直撃を受けることになる。伊コリエレ・デッロ・スポルト紙は、この点に決定的な違いがあると指摘する。レッドブルは規定の圧縮比16に戻す余地を残している一方で、メルセデスはすでに1年以上このコンセプトで開発を進めており、もはや規定内の仕様に戻せない可能性がある、というのだ。FIAは「禁止」か「容認」か 浮上する妥協案報道によれば、先週木曜日にFIA(国際自動車連盟)で全体会議が開かれ、フェラーリやホンダを中心とする他メーカーが強く説明を求めたという。レッドブル自身やアウディも含め、状況に不満を抱く陣営は多い。FIAは現在、難しい選択を迫られている。システムを違反と認定すれば、メルセデスPU勢4チームが2026年シーズンに参戦できなくなる可能性がある。一方で、これを容認すれば、他チームからの抗議や、後日の失格処分といった混乱が避けられない。そこで浮上しているのが妥協案だ。2026年シーズンに限り、メルセデスPU勢に非適合エンジンでの参戦を認める代わりに、「2027年には必ず規定に完全適合させる」という正式な保証を求めるというものだ。しかし、この案は他チームの理解を得られておらず、現時点ではどの陣営も納得していないとされる。2026年F1の幕開けを前に、パワーユニットを巡る問題は単なる技術論争の域を超え、シリーズ全体を揺るがしかねない政治的・競技的危機へと発展しつつある。FIAの判断次第で、F1の勢力図そのものが大きく変わる可能性がある。
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