2026年F1レギュレーションを巡り、パワーユニット(PU)メーカー間で激しい解釈論争が起きている。焦点は圧縮比。関係者の間では、あるメーカーが規定を“満たしつつ”、走行時に実質的な圧縮比を引き上げる手法を見つけたのではないか、という疑念が広がっている。事態が解決しなければ、開幕戦での抗議に発展する可能性もある。
論点は「16:1」をどう測るか2026年の技術規則では、内燃機関の幾何学的圧縮比は16:1に制限される(現行は18:1)。測定手順は技術規則の補足文書(いわゆる手順文書)で常温・静的に定義されている。一方で、高温・高負荷の実走行時には部材の熱膨張などで寸法が変化し得る。この“静的合格/動的上昇”のギャップを突く解釈上の余地が問題視されている。誰が問題視しているのか複数のPUメーカーが、FIAに対し、解釈の明確化を求めている。根拠として挙げられるのが、競技中は常に規則に完全適合していなければならないという総則条項だ。一方、名指しは避けられているものの、パドックではメルセデスやレッドブル・パワートレインズが話題に上り、アウディを含む他勢力が是正を求めている、との見方がある。FIAの立場:測定は静的、ただし議論は継続FIAは「熱膨張が寸法に影響する可能性はあるが、現行規則は高温下での測定を要求していない」と説明。一方で、「技術フォーラムで継続的に協議し、必要なら規則や測定手順の調整を検討する」ともしており、結論は未定だ。なぜ“今”問題になるのか・再設計の時間切れ:2026年3月8日の開幕(メルボルン)までに、PUの大規模な設計変更は現実的でない。・追随困難:仮に手法が合法と確定すれば、他メーカーが短期で同等化するのは不可能に近い。・ダウングレードも重い:信頼性耐久の再検証が必要で、供給数(カスタマー分)も含め調整が難航する。性能インパクトはどれほどか反対派の試算では、圧縮比の実質引き上げで約15馬力。ラップタイムに換算すると最大0.3秒に達し得る。2026年はICE(内燃)比率がシステム出力の約半分強に低下するとはいえ、効率向上の余地は依然としてICEが最大。燃料はエネルギー流量規制に移行し、より希薄燃焼が要求されるため、圧縮比の影響度は大きい。抗議は現実になるか解釈が不透明なまま開幕を迎えれば、オーストラリアGPでの抗議は避けられない。空力の柔軟性問題で導入された“動的監視”のように、測定手順そのものの進化が求められる局面に来ている。行方FIAが即時の明確化に踏み切るのか、将来向けの是正で落とすのか。どちらにせよ、2026年F1の序盤勢力図を左右しかねない技術×解釈の攻防は、すでに始まっている。