ウィリアムズは1980〜90年代にかけてF1を支配した名門だが、2000年代以降は長い低迷期にあった。2020年にドリルトン・キャピタル(Dorilton Capital)がチームを買収して以降、体制の刷新と再建が進められており、2025年のバクーGPではカルロス・サインツJr.が同チームに2017年以来となるグランプリ表彰台をもたらした。そのドリルトン会長のマシュー・サベージが、この買収当初、ウィリアムズを「Bチーム」として運営する構想を検討していたことを明かした。
ただし、最終的にその道は選ばれず、独立系チームとして再び頂点を目指す決断を下したという。サベージは英『The Athletic』の取材で次のように語った。「買収時には、さまざまなアプローチを検討していた。いわば“逃げ道”のひとつとして、ハースのようなモデル──つまり顧客チームとして他社の部品供給に依存する形態──を採用する案もあった」しかし、当時すでにF1チームの市場価値は上昇傾向にあり、ウィリアムズの将来的な成長余地を見込んで方針転換を行ったと説明した。「正直に言えば、もし転売を目的に動けばかなりの利益を得られたと思う。だが、僕はまだ先に“やれること”があると感じていた」サベージはまた、「あるミッドフィールドチームが20億ドル台前半のオファーを受けたと聞いている。今の市場ではそれが“底値”になっている」とも語り、F1チームの企業価値が急速に上昇している現状を示唆した。現在、ウィリアムズはコンストラクターズ選手権で中団トップの5位を維持しており、再建の成果が実り始めている。サベージはこの進化を“フライホイール効果”と表現する。「結果が出始めると、信念が生まれる。まるでフライホイールのように、いったん動き出せば勢いは止まらない」チーム代表のジェームス・ボウルズの下で、ウィリアムズはドライバー獲得や人材登用にも積極的だ。カルロス・サインツJr.の加入もその象徴的な一手といえる。「より大きな採用が可能になり、競争力あるチームを築けるようになった」とサベージは語った。さらに彼は、今後5年間での明確な目標も掲げた。「5年以内に表彰台を狙い、チャンピオンシップ争いに加わりたい。目標は変わらない。我々は1シーズンだけでなく、“コンコルド協定1期分”──つまり5年間のチャンピオン争い──を勝ち取りたい」ウィリアムズ復活への覚悟と戦略転換サベージの発言は、ドリルトンによるウィリアムズ再建が単なる投資ではなく「勝利への信念」に基づいていることを示している。買収直後にBチーム化という現実的な選択肢を持ちながら、それを拒み、独立チームとして再びトップを目指す方針を選んだ点は極めて象徴的だ。ウィリアムズは2023年以降、マシン開発・組織構造・人材登用の各面で地道な改革を進め、ついに2025年シーズンで表彰台を記録。サベージの言う「信念のフライホイール」が動き始めたことを裏づけている。今後、チームがどこまで投資を拡大し、技術力と体制の両面で上位勢に迫れるかが焦点だ。Bチームではなく「再び勝つチーム」としてのウィリアムズが、かつての栄光を取り戻せるか──次の5年がその答えを示すことになる。