佐藤琢磨が、インディ500のレース週末を振り返った。AJフォイト・レーシング・ダラーラ・ホンダがアウトにはらんできたサガ・カラムとターン1のウォールとの板挟みになったとき、佐藤琢磨のレースはインディ500ではなくインディ0.5にもならないのではないかと思われた。
だが、素早い修復作業とチームのレース戦略、それに佐藤琢磨自身の懸命な追い上げにより、序盤の不運を乗り越えた彼は、優勝したファン・パブロ・モントーヤとわずか6秒差の13位でフィニッシュしたのである。レース中にホンダ勢の最速ラップを記録した佐藤琢磨のパフォーマンスは、オープニングラップでのアクシデントさえなければトップ6に入ってもおかしくないほど素晴らしいものだった。新しいエアロキットが導入された影響もあって、今年のインディ500に向けた準備はいつも以上に慌ただしいものとなった。「気持ち的には、インディ・グランプリがフィニッシュした段階でレースは始まっていました」と佐藤琢磨。「ロードコース用マシンからスーパースピードウェイ用マシンにエンジンを積み替え、メカニックたちはたった1日で準備を終わらせなければいけませんでした。例年、インディ500用の“インディカー”は、2ヶ月か3ヶ月をかけて、ボディカウル全体の立て付けや歪みなどを修正し、とても丁寧にマシンを組んでいきます。けれども、今年は新しいエアロパッケージが導入されたため、僕たちには十分な時間がなく、プラクティスが始まった段階では、パーツの一部はまだ塗装のされていないカーボンむき出しの状態で走らざるを得ませんでした」「けれども、今年は少し涼しくて風も強かったものの、全般的にはプラクティスを通じて安定したいい天候に恵まれました。最初の数日はエアロパッケージについて学んで、続いてトラフィックのなかでマシンがどのような挙動を示すかを確認しました。ひとりで走るのと集団のなかで走るのとでは、マシンはまったく違う動きをするものなのです。そしてファスト・フライディを迎えると僕たちは予選の準備を始めます。ここではよりアグレッシブなターンインときれいなラインでコーナーをクリアすることに集中します。昼の12時から夕方の6時まで走り続けるなんて、ものすごい量のプラクティスだと多くの人たちは思われると思いますが、十分だったことは1度もありません。気温や風向きなど細部に関わることが山ほどあり、それらをまとめてマップを作っているのです。本当に、エンドレスな作業といってもおかしくありません」チームの3台目を駆るアレックス・タグリアーニが佐藤琢磨とジャック・ホークスワースのチームメイトになったことはボーナスというべき出来事で、予選までにしっかりマシンを進化させられると佐藤琢磨は自信を抱いていた。しかし、マシンが宙を舞うアクシデントが何度も起きたことから、インディカー・シリーズは予選も決勝レースと同じエアロパッケージで走行することを決定。これがホンダ勢にとっては大きな障害となって立ちはだかった。しかも、雨のため予選が日曜日1日に持ち越された結果、全ドライバーは4ラップのタイムアタックを1度だけしか行えないことになったのだ。「予選直前にハイブーストで走行したファスト・フライディはとてもスムーズなものでした。しかし、予選当日のプラクティスでアクシデントが起きた為、インディカー・リーグはレギュレーションの変更を決めたのです。ラップレコードを更新して平均230mph(約368km/h)の壁を破ることを誰もが楽しみにしていましたが、ブーストはレース用の低い状態に戻さなければならなかったほか、空力コンフィギュレーションはウィングを寝かせられたものの、レース用と同じものを使わなければいけませんでした。シボレー勢は、レース用と予選用でまったく異なるふたつのサイドポッドを用意していましたが、ダウンフォースが十分ではなかったためにドライバーはナーバスになっていました。ホンダは1種類のサイドポッドですが、ウィングレットなどが追加できるようになっていました。予選ではこれらの空力付加物を取り外して低ドラッグ化したパッケージを想定していましたから、決勝同様に取り付けて走らなければならないのは少々不利となったのです。しかし、安全性は何よりも優先されなければいけないので、僕たちはこの判断に従うことにしました」「ギアレシオをぴったりあわせることができなかったため、予選は残念な結果に終わりました。もっとスピードは伸びると予想していたのですが、ドラッグが大きかったようです。ギア比がハイギアードだったうえ、メインストレートとバックストレートでは風が大きく変わっていたことに対応できなかったのも、かなりのマイナス要因でした」佐藤琢磨の記録は27番手。ただし、数名のドライバーが変更されたことにより、佐藤琢磨は24番グリッドからスタートすることが決まる。インディ500のグリッドでは3台が横並びになるので、佐藤琢磨は8列目グリッドのアウト側からレースに挑むことになるわけだ。予選では満足のいくスピードを発揮できなかったものの、レースに向けたシミュレーションを繰り返し行った月曜日のプラクティスでは好調で、この結果に佐藤琢磨は満足げな表情を浮かべていた。「バランスがよかったので、かなりの手応えを掴んでいました。月曜日から金曜日のカーブデイまでセッティングをほとんど変更しなかったのは今回が初めてでした。だから、このときはレースが楽しみで仕方ありませんでした」その思いは、早くもターン1でフラストレーションに転じることになる。まず、佐藤琢磨が8列目のアウト側に位置していたことをご記憶だろうか?スタート直後はほとんど各車が横並びになっているものだが、イン側のライアン・ハンター-レイとの間にスペースをおいていたカラムは、アウト側に膨らみ、佐藤琢磨のマシンをウォールとの間に挟み込んでしまったのだ。「まず、彼はミラーをまったく見ていなかったし、スリーワイドになって僕がアウト側にいることを彼のスポッターは伝えなかったようです。彼はライアンの動きに集中していて僕は見ていなかったといっています。サンドイッチ状態になった僕は壁とカラムの間に挟み込まれてしまいました。これは残念でした。レーシングアクシデントとも言えますが、起こるべきアクシデントではありませんでした。これは500マイル・レースで3台が横並びになっているのです。...
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