レッドブル・ホンダの近年の苦境を受けて、エイドリアン・ニューウェイの限界説が議論され始めている。“空力の奇才”と称され、過去に何台ものチャンピオンマシンを生み出してきたことでF1史上最高のデザイナーのひとりに数えられているエイドリアン・ニューウェイ。だが、近年では第一線から退きつつあり、レギュレーションの変化にもかつてのような斬新なアイデアを生み出すことはなくなっている。
かつては“ゼロキール”“ホーンウイング”といったトレンドを生み出し、レッドブルがタイトルを4連覇した時代にはブロウンディフューザーという武器を開拓したエイドリアン・ニューウェイ。特にマシンに極端な前傾姿勢をとらせてマシン全体をディフューザーに変身させた“ハイレーキ”コンセプトは多くのチームがコピーし、レッドブルが“最強のシャシー”として評価される一因となっていた。だが、近年ではメルセデスがシャシー面で大きな飛躍を遂げた。レッドブルとは異なり低重心コンセプトを熟成させてきたメルセデスは、今ではシャシー面でもオールマイティな特性を手に入れ、他のチームもそれに追随する傾向にある。逆にレッドブルのハイレーキはピーキーな特性があり、特にリアが予測不可能な挙動の乱れを見せる今季マシンRB16の原因のひとつはハイレーキ・コンセプトにあるとの見方が多い。今年はメルセデスをコピーしたレーシング・ポイントが速さを見せたことで、メルセデスのコンセプトがハイレーキを上回ったと考える者が多い。元レッドブルのドライバーであるダニエル・リカルドは、すでにレッドブルのシャシーは最強ではないとの見方に同意する。「僕がレッドブルにいた時もそうだったし、僕たちはそれを求めてきた。でも、メルセデスはそうではないアプローチでより成功を収めている。もちろん、僕は部外者なので100%確信が持てないけど、それについて嘘をつくつもりはない。でも、外側からは確かにそのように見える。すでに高いレーキはピークに達しており、もう人々はより速く進むための他の方法を見つけている」」とダニエル・リカルドはコメント。「もちろん、僕はその分野の専門家ではないけど、その提案は正しいかもしれない」元F1ドライバーのクリスチャン・アルバースは、エイドリアン・ニューウェイの時代は終わったかもしれないと考えている。今年のレッドブルの苦境はエンジンではなくシャシー側にあるとアルバースは指摘する。「悪化したのはエンジンだとは思わない」とクリスチャン・アルバースは語る。「メルセデスがここまで支配的なのは残念だ。エイドリアン・ニューウェイはどこにいってしまった? 何年も彼は世界で最高のデザイナーだと聞かされてきたけど、世界は絶えず変化している。もう彼の時代は過去のものになったのかもしれない」だが、ホンダF1のテクニカルディレクターを務める田辺豊治は、エンジン側も努力の必要があると認める。「予選では、メルセデスとの間に1秒の差がありました。でも、レースでもまだ差は大きいとはいえ、それなりの速さでは走ることができていたと思います」と田辺豊治はコメント。「1週間でジャンプアップするのは簡単ではありません。ですが、できる限りのことをして、メルセデスとの差を詰めるべく準備を進めていきたいと思います」2022年には完全に新しいレギュレーションの下で設計されたマシンが登場する。そこで再び答えが得られることになるだろう。