2026年の次世代F1パワーユニットは、現行のホンダF1エンジンのアドバンテージにとって不利な要素がいくつか盛り込まれている。HRCでホンダF1プロジェクトのLPL(開発責任者)を務める角田哲史が、2026年のF1パワーユニットレギュレーションの挑戦について技術的な観点から語った。ホンダは、2026年にアストンマーティンF1チームのワークスパートナーとしてF1復帰。同年から導入される新しいF1パワーユニットレギュレーションで勝利を目指す。
ホンダは、現在のF1レギュレーションにおいてもレッドブル/アルファタウリに搭載されているF1パワーユニットを製造。レッドブルの車体と組み合わされたストレートスピードの速さで、2021年のマックス・フェルスタッペンのドライバーズタイトル、2022年のレッドブル・レーシング/フェルスタッペンのダブルタイトルを獲得。今年もホンダが開発したF1エンジンがダブルタイトルを獲得することは間違いないと考えられている。だが、現在は開発が凍結されているF1パワーユニットは、2026年から次世代のF1レギュレーションへと移行する。2026年以降は、MGU-Hが廃止となり、最高出力の50%をエンジン、50%を電動モーターで賄う形となり、現在と比べて出力に占める電気エネルギーの比率が大幅に高められることになる。具体的には、2026年からエンジンの出力を抑える一方で、走行するマシンから減速時などにエネルギーを回収して電気エネルギーに変換する、エネルギー回生システム(ERS)の出力を現在の3倍に引き上げ、エンジンとモーターの最高出力が同等となるシステムとなる。また、100%カーボンニュートラル燃料の使用が義務付けられ、最大圧縮比が18から16へと下げられ、高額センサー類の廃止、エンジン本体の主要寸法が指定される。HRCでホンダF1プロジェクトのLPL(開発責任者)を務める角田哲史は「2026年からのパワーユニット レギュレーションには3つの骨子があります」と説明する。「1つ目は電動化の比率が現行のICEとの8:2から5:5になります。2つ目はカーボンニュートラル燃料の導入です。最後にパワーユニットに関してもコストキャップ制度が導入され、効率よく開発していくことが重要になります」「モーターは高出力になり、エネルギーも増えます。それによって発熱が増えることになり、どのように処理していくのかがポイントになります」と角田哲史は語る。「また、モーターが大きくなると、モーターのイナーシャが大きくなります。それによってクランクシャフトとモーターをつないでいる部分が壊れてしまう。第4期F1の初期でもその部分の信頼性を確保するのに2年以上かかるなど苦労しており、今回もそこは大きなポイントになります」「MGU-Hがなくなったので、エネルギーはバッテリーに入れて出すという形になるので、低抵抗化や劣化の少ないバッテリを作ることも重要になります。例えば、バッテリーを10レース使ったときに、できるだけ新品と10レース目で劣化が小さければそれだけ有利になり、350kWのデプロイが切れにくくなります」「ICEでは燃焼系が完全に変わります。ホンダのICEは高速燃焼を強みとしてきたましたが、圧縮比や燃料が変わるのでそれが実現しにくくなります。また、燃料が100%合成燃料になるため、気化性が変わります。小さいところにドバって吹いて燃やすのがこれまでのF1のICEでしたが、今後はきれいに吹いて燃やすという形になります。燃料によっても左右されるため、燃料の開発も重要です」「また、トルク特性も大きく変わってきます。これまではMGU-Hがターボラグを抑えることに使えていましたが、MGU-Hがなくなったことで、普通のターボエンジンとしてどう作っていくかもポイントとなります」「また、これまではICEに高額なセンサーを使っていました。例えば、2021年のエンジンではシリンダーのセンサーに非常に高額なセンサーを使っていましたが、そうしたセンサーの使用は禁止になります。インジェクターも共通部品となり、ボッシュとマレリが入札しようとしています。ホンダとしてはこれまでマレリを使ってきたため、仮にボッシュになればその対応も必要になります」特にF1エンジンに関しては、ホンダの現行モデルの強みがいくつか消されるようなルールとなっている。そのひとつが高速燃焼だ。「高速燃焼に関しては、与えられた環境の中で作り出したいと思っています」と角田哲史は語る。「しかし、すでに説明したとおり、ICEとERSが50:50になるので、両方に力を入れて開発していく必要があります。例えば、モーターは最高出力は決まっており、その中で小さく発熱が少ないものを作るというのが競争領域になります。バッテリーに関しても同様で、10レースを走った後でも新品と同じぐらいの性能を発揮するようなものを作り差別化していくことが重要です。2021年からの採用しているバッテリーをベースに開発しています」そして、圧縮比の18から16への変更は特にホンダにとってはマイナス要素となる。「数字が下がったのは残念です。ホンダ以外のパワーユニットメーカーの多くは16だと思います。しかし、超えていたメーカーは圧縮比を下げることになる。少なくとも我々は下げられる側です」また、基本的な構造が規定されることも「痛手であることは間違いありません」と角田哲史は語る。「基本的なジオメトリは、我々とは違う寸法になります。新規参戦メーカーも含めて同じところからスタートすることになります。ですが、第3期、第4期はゼロからスタートして苦労しましたが、今回はある程度の基準からスタートできます」最後にエンジンメーカーへのコストキャップもこれまでとは勝手のころなる開発となる。「これまでの開発では部品を作ってトライ&エラーを行なってきました」と角田哲史は語る。「その上で信頼性の確立などを行なってきましたが、これからは市販車でもやっているようなシミュレーションを利用したモデルベース開発をやっていかなければなりません。また部品の単価に関しても見直していかないといけません」