2008年シーズンを9位で終えたホンダF1チーム。今年はロス・ブロウンをチーム代表に迎え、新体制で出発したホンダF1チームが不振に陥った原因は何だったのか。そしてレギューレーションが大きく変わる来季以降の飛躍の可能性はあるのか。中本修平デピュティ・マネージング・ディレクターが今シーズンを振り返った。
空力部門を大きく見直したこともあって、マシン開発が出発の時点から遅れた。そのツケが、今シーズンの結果につながったという印象ですか?確かに空力開発のスタートが遅れて、開幕時は苦しみました。でもその遅れは、シーズンを通してばん回したんですね。空力性能だけを取れば、ダウンフォースの絶対値はマクラーレン、フェラーリにはかなわないけれど、たとえばレッドブルなど中団グループには負けていないと思いますよ。ただ、各パーツの重量や剛性が、今一歩だったんですね。1月に新車を走らせた段階で、最低限の剛性が確保できていなかったし、重量も重かった。このままいくと剛性が低くなってしまうから、そうならないようにしようと足回りなどを作り直したりしたんですけれど、ばん回できるまでに至らなかった。それに関連して、タイヤの使い方には、最後まで苦労されてたようですが。2006年までのミシュランタイヤは比較的うまく使えていたのが、ブリヂストンはまったく違う。それをいかに使うか、最後まで苦労しました。2年かかっても、まだちゃんと使い切れていないようです。レース後のタイヤの顔を比較しても、ウチだけちょっと外してる。そう思わざるをえないことが多かった。タイヤに熱が入らないので、路面温度の低いコースではグレーニングが出てどうしようもない。さらにスパやインテルラゴスのように、去年より1段階固いスペックを持ってこられると、もう本当に苦労しました。ルノーはその辺り、進化が顕著でした。(ルノーは)前半、苦労していたけれど、こういう方向だろうとサスペンションを作り変えました。特にフロントですけれど。それで急に速くなりましたよね。要はフロントタイヤがちゃんと温まれば、アンダーステアが消える。アンダーが消えるから、フロントにダウンフォースを付けるのに、いたずらにフラップを立てたりする必要がない。逆にHondaはアンダーが出るので、フラップを立てる。そうしたら空気の流れが悪くなって、リアがナーバスになる。そういう悪循環でしたね。今季の低迷に関しては、症状も原因もわかっているのに、解決策が見出せなかったという印象です。そう。どう対処したらいいかわからないというのは、VDG(Vehicle Dynamist Group車両運動制御開発グループ)が弱いってことです。ロスが来た当初、どういう状況かって訊くから、空力は遅れが出ているけれど、対処しつつある。ちゃんと戦えると答えたんですね。でも、早くVDGにしかるべき人を、採った方がいいというアドバイスはしました。そして残念ながら、その通りの結果になったという感じですね。タイヤがうまく使えないというのは、VDGがきちんと機能していないということですからね。その辺を彼らが的確に指し示してあげないと、クルマは速くならない。剛性や重量、重量配分も、そうです。 その戦力補強は、順調にいっている?すでにシーズン中から、やっています。ただ先方との契約の縛りもあって、実際に働き始めるのが年明けというケースもある。でも予定していたスタッフが揃えば、だいぶん様子は変わるはずです。特にVDGの戦力アップをするべく、がんばっている。その成果次第、新生VDGがどれだけ力を発揮するかの方が、大きいでしょうね。 実際にすでに来た人間を見ると、さすがロスだなと思いますね。彼でなければ、このクラスの人材が来てくれなかっただろうという。それはVDGに限らず、あちこちの部門にです。ロス指揮下で一年を戦ったわけですが、どんな感想を持ちましたか。マネージメントの面で、非常に腕を振るえる人なんですね。だから周囲に優秀なエンジニアが集まっていると、彼ならではの結果が出せる。でも今年のHondaは、残念ながらまだそこまではいっていなかった。その意味では、ロスの本当の能力発揮は、これからでしょう。だけどさっきも言ったように、さすがロスだなという人を採用もしている、彼らが手足となって動き出したら、相当な活躍が見込めると思いますよ。でも今年、これだけ成績が悪い中でも、彼はずっとハードワークを続けてきた。妥協しないでがんばるぞという姿勢を、みんなに見せようとしてますね。その意識は、徐々にチーム内に浸透している印象です。そういう意識改革は、時間のかかるものですけどね。とにかく人を早く揃えて、体制を整えることが重要ですね。
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