2026年F1レギュレーション下で初めて本格的に走行したバルセロナ・テストを経て、ドライバーたちは口をそろえて「これまでとは違う思考が必要だ」と語り始めている。オスカー・ピアストリはそれを「脳を組み替えるような感覚」と表現し、キミ・アントネッリは「本当にオープンマインドでいないといけない」と話す。ハースF1チーム代表の小松礼雄は、より端的にこう表現した。
「かなり直感に反することが多い」2026年マシンの最大の特徴は、ドライビングそのものが“エネルギーマネジメント”と不可分になった点にある。巨大化したエネルギーマネジメントの影響2026年F1マシンは、約4MJのバッテリーと350kW(約469馬力)の電動モーターを搭載し、総出力のほぼ50%を電気エネルギーが担う。速く走るためには、どれだけ効率よく回生し、どこで放出するかが決定的になる。メルセデスのジョージ・ラッセルは、テスト前に抱いていた不安をこう振り返る。「フォーミュラEみたいに、エンジニアが運転するクルマになるんじゃないかと思っていた」しかし実際に走らせてみると印象は違った。「思っていたよりずっと直感的だった。ブレーキは限界まで遅らせるし、コーナーではスピードを保つ。結局、速いドライバーが速いままだと思う」ただし、その“直感的”な走りの裏側には、これまで以上に細かい判断が潜んでいる。ブレーキングと進入がすべての起点になる小さな違いが結果を大きく左右する。ブレーキの踏み方、コーナー進入での回頭の作り方、ブレーキとスロットルの重ね方――。こうした細部が、回生量とラップタイムの両方に影響する。オリバー・ベアマンは、第一印象としてこう語った。「中低速コーナーでは明らかにダウンフォースが少ない。高速域は想定内だけど、ブレーキング距離は少し長くなって、トラクションはよりシビアになった」とはいえ、ドライビングスタイル自体が激変したわけではないという。「モンツァやメキシコみたいな、ダウンフォースが少ないサーキットに近い感覚。クルマは少し動くけど、それは悪いことじゃない」“早めの操作”が求められる新しいコーナーアプローチ2026年マシンでは、コーナーへのアプローチが以前よりも早い段階から始まる。理由は明確で、最大限の回生を行う必要があるからだ。ランド・ノリスは、ストレート終盤で早めにシフトダウンする場面について、こう説明する。「今一番の課題はバッテリー管理。強力だけど長くはもたない。どこで使って、どこで回復させるかを常に考えないといけない」さらに、デプロイ戦略の違いによって、同じラップでも最高速が変わる。「急にパワーが出ると、理由が分からないまま5〜7km/h速いスピードでコーナーに飛び込むこともある」結果として、空力モードが切り替わっても、ダウンフォース低下の影響でブレーキングゾーンは依然として短いままだ。ギア選択と回生がクルマの挙動を変える2026年では、昨年よりも低いギアを使う場面が増えている。回生を最大化するため、あえて回転数を高く保ち、シフトダウンのタイミングや荒さ自体が戦略になる。かつてアルピーヌが回生能力の弱さを補うために、荒いギアチェンジを行っていた例もあり、これはターンインの挙動そのものに影響する。ラッセルは、このトレードオフをこう説明する。「コーナーで数コンマ稼いでも、ストレートで同じだけ失うことがある。そこを理解するまで少し時間がかかる」それでも最終的には、「頭で理解できれば、それが普通のドライビングになる。結局、レースカーなんだ」と語っている。“数%”の回生効率が勝敗を分けるラッセルが強調するのは、「ほんの数%」の違いの重要性だ。「回生を2〜3%増やせる小さなテクニックが、ラップ後半で大きな差になる」速さと効率を両立できるドライバーが、2026年の主役になる可能性は高い。ただし、マシンの限界挙動とドライバーの要求が噛み合わないケースも考えられる。グラウンドエフェクト時代に苦しんだルイス・ハミルトンの例が、それを示している。小松礼雄が語る「難しすぎる最適化」小松礼雄は、2026年レギュレーションの本質をこう語る。「予選でのリフト&コースト、ギアの使い方、スロットル操作。ドライバーには相反する要求が同時に突きつけられる」さらに、「回生を最大化するとクルマが運転しにくくなる場合、どこで妥協するのか。エネルギーを少し犠牲にしても、ドライバブルなクルマにすべきか。その最適解を見つけるのは本当に難しい」と率直に認めている。タイヤと立ち上がりの新たな課題エステバン・オコンは、トラクションとタイヤ管理の難しさを指摘する。「今はグリップが少ない。だからタイヤを殺さないよう、以前よりずっと慎重になる必要がある」一方で、挙動自体は好印象だという。「少し滑るし、2020年代初期みたいで、ハイスピードではむしろ扱いやすい」セットアップ自由度は本当に広がるのかベアマンによれば、2026年マシンは2022年以降よりは柔軟性があるが、かつての自由度には程遠い。「ストレートラインモードのおかげで少し柔らかくできるけど、結局、物理的に速いライドハイトは決まっている」将来的には、幅広いライドハイトでダウンフォースを生み出せるマシンが強くなる可能性もあるが、現段階ではまだそこまで至っていない。2026年F1は“マネジメント競争”だけにはならないまだ実走行をコースサイドで十分に観察できていない段階ではあるが、少なくとも現時点では「エネルギーマネジメントだけの競争」にはなっていない。効率は常にドライバーの技量の一部だった。そして2026年もまた、極限で速さと効率を両立させる“職人芸”が求められる時代になる。本当にドライバーの個性が消えるのか――。その答えが出るのは、まだ少し先になりそうだ。
全文を読む