曙ブレーキは、自動車の電動化への対応と地球環境に配慮した製品として、摩擦に頼らない新発想の「MR流体ブレーキ」の研究開発を東北大学流体科学研究所と共同で進めている。近年、交通事故の防止や環境負荷の削減にむけて、クルマの自動運転技術が注目されている。2020年代に普及するとされている自動運転車への対応と、摩耗粉やノイズを出さないといった環境への配慮の実現のため、曙ブレーキはMR流体を用いた独自の技術により、摩擦ブレーキとは大きく異なる構造のブレーキを提案する。
MR流体(Magneto Rheological Fluid)とは、磁気に反応して特性が液体から半固体へと変化する流体のことで、1960年代から研究されてきた機能性材料。磁場を加えると、液体中に分散された粒径数ミクロンの強磁性体粒子(鉄粉)が磁界方向に整列して鎖状粒子クラスターを形成し、半固体化する。MR流体ブレーキは、車両に固定された円盤と、ハブベアリングと一緒に回転する円盤が交互に配置されている間にMR流体が充填される構造で、ブレーキ内部に配置された電磁石のコイルに電流を流し、円盤と垂直の方向に磁界を発生させることで固定円盤と回転円盤の間に鎖状粒子クラスターができる。回転円盤は回転し続けているため、鎖状粒子クラスターがせん断変形を受け崩壊され、隣のクラスターとつながり、また崩壊されるという現象がくり返され、回転円盤に抵抗力が発生。この抵抗力がブレーキ力となる。摩耗しないため摩耗粉が発生せず、環境負荷軽減への貢献につながる。また、MR流体が磁場に数ms(ミリセカンドは1,000分の1秒)という速さで反応するため、俊敏かつ安定した制御が可能となる。さらに、電子制御装置で電圧(起磁力)を直接コントロールするため、あらかじめ設定された効きのパターンの中から、ユーザーが自分の好みのブレーキフィーリングを選べるようになる。曙ブレーキは約2年前から、超小型モビリティを対象に研究開発し、2015年3月に試作品を完成した。スマートシティやスマートモビリティに適合したスマートブレーキとして、2020年の実用化を目指し、試験(実走・台上)と改良を重ねている。