最近のF1で注目されているパーツに“イナーシャダンパー”がある。イナーシャダンパーは、どのような効果があるのか。イナーシャダンパーを初めて採用したのはマクラーレンといわれる。イナーシャダンパーは、左右のサスペンションとリンクされるサードエレメント(またはフォースエレメント)。サスペンションの上下動を収束させる役割をするものと思われ、縁石やバンプ越え、ブレーキング時などに、素早く車体を安定させることが狙いと思われる。
イナーシャダンパーには、スプリングは搭載されず、シャフト自体に螺旋が切られている。ボディ内部にはフライホイール上の回転体の重りがあり、サスペンションの入力を受けたシャフトの螺旋が重りを回転させ、その抵抗によってサスペンションの振動を収束させる。イナーシャダンパーの構造は、マスダンパーとは大きく異なる。マスダンパーは、ノーズ内部に設置されたケースの中にスプリングで重りを浮かせ、サスペンションの動きに関係なく、車体の振動で重りが上下することにより振動を打ち消すものだった。そのため、2006年にルノーが採用したマスダンパーは、可変エアロダイナミクス付加物として禁止された。イナーシャーダンパーは、サスペンションと完全にリンクし、回転重りもシャフトに固定されているため、自由運動はせず、サスペンションの一部とみなされるため禁止されていない。F1では、2年以上前からマクラーレンが採用しているとされる。マクラーレンのイナーシャダンパーは、サードダンパー内に組み込まれているという。そして、マクラーレンでイナーシャダンパーを設計したエイドリアン・ニューウェイが移籍したレッドブルも、同様の技術を採用しているとされる。フェラーリとBMWもイナーシャダンパーを採用しているとされるが、マクラーレンとは異なり、フォースエレメントとして搭載される。先週のイギリスGPでは、ロバート・クビサのフォースダンパー(イナーシャダンパー)にトラブルが発生し、Q3の走行ができなかった。構造上、内部がどのようになっているのかわからないイナーシャダンパー。トラクションコントロールやエンジンブレーキが禁止された2008年は、マシン自体で発生させるメカニカルグリップが重要になっており、今後、各チームが熟成させていくパーツと思われる。