2026年F1プレシーズンテストで露呈したホンダの“異常振動”問題。その発生源はエンジン側にあると断定されながらも、実際にダメージが及んだのはバッテリーシステム系だった。単体の不具合ではなく、エンジン起振が車体側の条件と重なり合うことで増幅される“複合共振”の構造が、今回の本質とみられている。さくらの施設ではモノコック搭載状態に近い条件で振動解析が進められているが、伝達経路と共振条件の特定は容易ではない。
開幕を目前に控えるなか、ホンダF1は設計変更ではなく現行仕様の最大化と振動抑制で信頼性を成立させるという、極めて難しい局面に立たされている。起振源はエンジン だが問題は“車両全体”会見で武石伊久雄は「起振源がエンジンなのは間違いありません」と明言した。この発言は、振動の一次入力がエンジン回転に同期していることを示唆する。しかし同時に武石は、「トランスミッションやエンジンなど1個に限定できれば攻め込みやすいのですが、それぞれが連携しながら振動を発生させていると思われます」とも語っている。つまり、エンジン単体の欠陥という単純な構図ではない。エンジンから発生した振動が、ギアボックス、マウント、シャシー剛性、さらには路面入力と絡み合い、特定の条件下で増幅される構造が存在している可能性が高い。問題の本質は「振動がある」ことではなく、「どの経路を通り、どの条件で危険域に入るか」という連鎖構造にある。バッテリー“システム系”損傷という重い事実テスト中に発生した異常は、安全上看過できないレベルだった。「詳細は避けますが、そのまま走行してはいけないような異常です。漏電の危険性という意味で走るのをやめました」と武石は説明している。ここで重要なのは、バッテリーそのものが設計不良と断定されたわけではないという点だ。「バッテリーそのものが問題かどうかは分かりません」とも語っており、セル内部なのか、搭載部の剛性や締結条件なのか、あるいは周辺系統なのかは特定されていない。しかし、漏電リスクが発生するレベルのダメージである以上、信頼性が成立していない状態にあることは明確だ。これではパフォーマンス評価や回生最大化といった議論に進むことはできない。Sakuraでの解析が示す“共振経路”の複雑さ現在、さくらの施設ではモノコック搭載状態に近い条件で振動解析が行われている。「センサーやゲージを貼りながら測定しており、バッテリーの振動数値は確認しています。再現もできるかなと思っています」と武石は述べた。PU単体ベンチではなく、車両条件に近い状態での解析が必要になっているという事実は、問題が車両全体の固有振動と結びついていることを示している。単体性能の改善ではなく、車両としての成立性が問われている段階にある。設計変更より“現行最大化”という現実3月1日のホモロゲーションを前に、大幅な設計変更は現実的ではなかった。「当面は今承認を取ったものを最大化させるオペレーションに注力します。それ以上はもうできないという状況ですね」と渡辺康治は語った。武石も「バッテリーを2階建てから1階建てにするような話は今からはできません」と明言している。つまり短期的には、現行仕様の範囲内で振動の抑制、伝達経路の管理、運用面での最適化を組み合わせて信頼性を確保するしかない。回生出力の憶測よりも優先されるもの一部で報じられたMGU-Kの回生能力に関する憶測については、「そのような話は聞いていません」と否定された。「350kW/250kWの話とは関係ないと思います」と武石は述べている。しかし現段階で重要なのは、最大回生出力の達成ではない。振動による損傷リスクを排除し、車両を走らせ続けられる状態を作ることが前提条件となる。開幕までに何を成立させるか「長引く可能性も否定できません」と武石は率直に語った。一方で、「問題が解決すれば、本来のポテンシャルは出てくると思います」とも述べている。開幕戦オーストラリアGPに向けての現実的な目標は、最大パフォーマンスではなく、振動条件を管理下に置き、バッテリーシステムの耐久性を成立させることだ。エンジンを起点とする振動が、どの経路を通って車体共振を引き起こし、どの条件で損傷に至るのか。その連鎖構造を解き明かせるかどうかが、2026年ホンダF1の序盤戦を左右することになる。
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