日本人初のF1フルタイムドライバーである中嶋悟が、ホンダの創業者である本田宗一郎との思い出を Honda Racing Topics で語った。「かなり長い間、ご指導願ったと思うんですけれども、やっぱり自分が一番感じたのは、すごい素直に自分の目標であったり、自分のやりたいことに邁進できる方で、なおかつ、自分が納得しないことは人には押し付けないみたいな方かな」と中嶋悟は語る。
「それと立場をわきまえるというか、例えば、エンジンの話であるとか、レース全般の話になったときに、エンジンに関わることはもちろん非常に自分よりも詳しいわけですよね。レースになると今度は運転する側が僕らであるわけですから、その立場というか存在を十分相手を認めたうえで話されるというのは若い頃の僕でもすごく感じましたね」「ドライバーはドライバー、エンジニアはエンジニアの話として、本当に二人っきりでいたらどうなるんだろうという想像をしながら会話してても弾むんですよね。意外と話が。だから、すごく若造の僕を見るときも、クルマを操る側として認めて会話していただけたような気がしますね」「それとやっぱりいつもいつも「ああだったら、こうだったら」といつもエンジンに対していろんなものを頭の中で描きながらお話されるというのを凄く感じたような気がしますよね。だから、僕にとっては決しておっかないおじさんじゃなくて、非常に理解できるというか、会話が通じるといったら変ですけども、わかりやすい。すごいそういう意味ではすごく僕を指導していただけたのかなと思いますね」本田宗一郎との印象に残るエピソードとして、中嶋悟は自宅にお邪魔した際の逸話を挙げた。「僕が20代の頃だったんだと思うんですけども、全然レースでも何でもないんですけど、ご自宅にお邪魔したときに二人だけでいるときに『絵を描いてやるからちょっと待ってろ』と言われて。だいぶ時間が経っていたからなんで『えっ!』と思ったんですが、『今から?絵ってどんなものだろう』と。普通の色紙に書いていただいたんですけどね」「書き終わって、自分のサインして、角印を押して、眺めて、若造の僕は『終わったな。帰れるかな。ボチボチだな』と思ってたら、ポイと捨てちゃうんですよ。『アカン』とか言って。で、またもう一枚書き出して。『30分は帰れないな』みたいな。それでまた2枚目が出来上がって、『こいつはいい。良かったら持って帰れ』って言われて。『捨てたやつも持って帰ります』と言って持って帰ったんですけど(笑)」「あれが僕にとっては一番、そういことはいかんぞということを教えてくれたのかなって今思うんですよね。少し前ぐらい年くらいから、僕もだいぶ年を取りましたが(笑)。自分が納得していないことを安易にたとえ若造だろうが誰だろが押し付けになりますよね、上の人ですから。当時はただただ失敗だからという話にしか思えなかったことが、今思うとやっぱり、そこまで時間かけて、高々20代の僕に対してでも、気に入らないものを押し付けるっていうことはしない人なんだと思って。こういう人なんだと、自分の信念というか何かをお持ちである人だなというのをすごく感じましたね」
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